- ナノ -

ゴリュッ。骨を噛み砕いたとき、少し顔色が悪くなったようなドラコに言われて首を傾げる。見たらわかるだろう、スペアリブだ。骨付きの。口内に残るジャリジャリのカルシウムを飲み込み手元を見せれば、ドラコはスペアリブと僕の顔を三度ほど交互に見た。

「……マルフォイ、気にする事はない、すぐに慣れる。スコルは骨までしっかり食う奴なんだ」
「か、噛み砕けるんですか?」
「ドラコは顎力弱そうだね」
「…………命を大切にされるのは素晴らしいと、思います」
「ドラコも食べる?」
「馬鹿、ドン引きされてるんだよ。やめろ、入学したてに気を遣わせるな」

僕がドラコに差し出した皿を取り上げ、エイブリーは僕の足をコツンと爪先で小突いた。ドン引きされてしまったらしい。顔色が悪くなったと思ったのはそのせいかな。それとも生来顔色が悪いのかな。彼の血はどろりとして血流が悪いのかもしれない。

「悪いな、スコルはこういう奴なんだ」
「みんな最初は期待するのさ、他国の純血だって。ホグワーツではあまり見ないからな」
「俺らも最初は驚いたぜ、学校につくなりずーっとくしゃみの嵐だ」
「……マグルアレルギーだから、ですか?」
「それが女もダメなんだよな」
「つまりワーグの家も純血なのにこいつのせいで途絶えるのさ」

隣から後ろから、もう三年目の付き合いになる同級生たちが軽く笑いながら言う。ドラコが「そんな…」と心底同情している声音を出した。

「マグルアレルギーなんて本当にあるのか……ましてや女性アレルギーなんて聞いたこともない……」
「世界中探したって発症してるのはスコルくらいだろう」
「でも誰がマグルかすぐにわかるから便利なんだぜ」
「たまに純血相手にも発症してるだろう」
「それはその人のことが嫌だからだよ」
「…………お前それここだけの話にしておけよ」

僕が言うと、途端にみんな神妙な雰囲気になり真面目な声色で注意をされた。以前フリントの前でくしゃみが止まらなかったことを言ってるんだろう。だってフリントはいつも妙な匂いのコロンをつけているから仕方が無いんだ。そうだ、と同調するように、くしゃみの話をしたらくしゃみが出た。はっくしょん。しかも二回連続だ。はっくしょん。僕のくしゃみを聞いて、同級生の一人が「静かに」と輪の中に顔を寄せた。

「この中にマグルがいる」
「なんだって?まさか──お前かマルフォイ」
「なっ、酷い侮辱だ!父上に言ってやる!」
「軽い冗談だろうが、本気にするなよ」
「ドラコのポマードの匂いだよ。使うならアレグロ社じゃなくて、ユースバースのものにしてほしい」

アレグロのは鼻が痒くなるんだ。人中を擦りながら言うと、ドラコは驚き声をあげた。なんでわかるんだ!?その質問にはエイブリーが答える。俺たちが世界中のポマードを集めて、どれがくしゃみが出ないのか実験したからだ。本当にあの実験は辛い記憶だ。みんな楽しんでいたが、僕にとっては地獄のようだった。特にドラゴンの皮脂製なんか最悪だ、二度と嗅ぎたくない。

「アレグロ社は調べたら従業員にマグルを結構使っていてな、ブラックリストに載せてある」
「なんて惨いことを…!ワーグ先輩が可哀想じゃないか!」
「もっと言ってあげてドラコ。スペアリブ食べる?」
「いや、それはいらない」
「そっか……」

お断りされてしまったスペアリブを代わりに僕が食べる。少し冷めてしまったが変わらず美味しい。骨の咀嚼音にドラコは何度か僕を見たが、何も言わずに紅茶を飲んでいた。僕だって全部の骨を食べるわけじゃない、魚は喉に刺さるから好きじゃないもの。みんなが純血の素晴らしい思想やマグルの醜さ、実家の自慢話やパーティーの話に花を咲かせる中ひたすら食べ続けていれば、いつの間にか皿の上はすっからかんになってしまった。「よく食うな」呆れた声でエイブリーが紅茶をくれる。エイブリーはあまりお肉を食べないから、体の肉付きがとても悪い。

「そういえばお前お供の二匹の子豚とパグ犬はどうしたんだ?」
「……クラッブとゴイルとパンジーのことですか?先輩には失礼ですが、僕の友人をそんな酷い形容しないでいただきたいですね」
「あっちにいるよ」
「どうしてスコル先輩が知ってるんです?」

ドラコの質問にはニッコリと笑って答えた。なんでだと思う?こら、意地悪するんじゃない。わかったよエイブリーママ。

「姿が見えただけだよ」
「……それだけですか?」
「それだけだよ」
「すでに三人とは面識が?」
「無いよ」
「ならどうしてわかるんですか?」
「勘だよ」

嘘だ。匂いだ。君の服についた彼らの匂いだ。ニッコリと笑って嘘を吐くと、ドラコは怪しむような声色で「本当ですか?」と言うが、エイブリーが「こいつの勘はおっそろしいほど当たるんだよ」と言った。僕の勘の方が当たるから、と僕の周りの人は大抵今年の選択授業で占い学を選択していない。占いではなく事実なんだけど、僕はそれを教える気は今までもこれからも毛頭ない。エイブリーの言葉にドラコは怪しみながらも納得したようだった。


この声は嘘をつくためにある2/2