- ナノ -

くすくすくんくんはっくしょん

「おい、大丈夫かスコル。またアレルギーか?」
「大丈夫だろう、スコルは年中なんだから心配していたらキリが無いぞ」
「マグルアレルギーの話?」
「馬鹿、女は近づくなよ」

「うんうん、ごめんねみんな。調子が悪いみたいだよ」

調子が悪いのはいつもだろ。みんなが呆れる中、きらきらと潤う青い目で心配してくれるミスダンケルにニッコリと笑う。そうなんだ、近寄らないんで欲しいんだ。声に出さずに心の中で言ったところで効果は何一つ無いが、伝えようとする意思に何かが宿るのだと僕は思っている。ミスダンケルの爪の表面にべったりとついた化学成分の匂いにまたくしゃみが出た。はっくしょん。僕のくしゃみに、隣の席の友人で同室者でもあるエイブリーがあっちへ行け、とミスダンケルを追い払った。ありがとうね、これで少しはましになったよ。

「夏休みの間、俺はお前のくしゃみが聞こえたんだよ。幻聴だ、それも毎日だ。気づいたら”おい、大丈夫か?”なんて一人で言って、母様に頭の病気を疑われたんだ」
「ふふふ、それは難儀だったね」
「笑い事じゃないぞ」
「毎日聞いていれば嫌でもそうなるだろうさ。俺はスコルのくしゃみが聞こえない日はなんだか不安になっちまう」
「ふふふ、生活の一音になったんだね」

耳栓をしたって聞こえてしまうものは聞こえてしまう。カチャカチャキンキンコトン。休み明けだから、尚更不快に思う音と共に今年も頑張らないといけない。特急からすでに何度も出ているくしゃみと、耳栓の厚みを増やしても未だ聞こえる不快音に憂鬱だなあ、と鼻に手を当てる。玄関から新入生が入ってきた。

「ん、そろそろか?」
「もうすぐ来るよ」
「くしゃみは出そうか?」
「たくさんね」
「穢れた血が多いのか?不快だな、スリザリンに来なければいいが」
「大丈夫じゃないかなあ」
「おい、それよりも防音魔法を張れよ、また組み分け中にくしゃみされてちゃ締まらないだろう」
「ああそうだった。おい!監督生!」

入学したとき、組み分けの最中にくしゃみをし続け、去年の新入生の組み分けのときにはあまりにもくしゃみをしすぎてスネイプ教授に退場させられたのを思い出す。懐かしい思い出だ。あれから僕の周りにはよく防音魔法が張られるようになった。四年生になったら真っ先に防音魔法を覚えろ、とは諸先輩方から耳にたこが出来るほど言われてきた。スリザリンはうるさいのだ、伝統や自尊心と。純血は気難し屋が多い。
バタバタと喧しい足音が近づき、やがて大広間に入ってくる。わあすごい天井がキラキラしてる緊張するなあ知ってるかい組み分けされるにはトロールを倒さないといけないらしいすごい人がいっぱいちゃんとついていけるのかしらスリザリンはいやだおなかすいたなあハッフルパフには入りたくない楽しみだなああれはなんだろう恥ずかしいなあ
色んな声が混ざって整って僕の耳に入る。ゲコ、という鳴き声と生臭く泥くさい匂いがするから蛙がいるようだ。飼い主は少しどんくさそうだなあ、ネビルというらしい。すんすん、と鼻をすするふりをして匂いを嗅ぐ。純血だ、とてもいい魔力だ。スリザリンに来るといいなあ、きっとスリザリン以外だったらスネイプ教授にいじめられてしまう。




大好きなソーセージを噛みちぎる。じゅわりと溢れ出る肉汁に胸が満たされるようだった。ホグワーツはあまりお肉を出してくれない。僕はもっと肉厚でジューシーなステーキが食べたいのに、いつもぺらりとして脂が多いものばかりだ。確かに脂も美味しいけれど、残念ながら僕の舌には合わないものばかり。嗚呼、家のご飯が恋しい。狩りたての獣肉ほどお腹が満たされるものはない。頭の中で夏休みにたくさん食べた食事に思いを馳せ、チキンスープの骨付きチキンを骨までゴリゴリと口の中で味わって野菜を頬張る。ジャキジャキの野菜をあまり美味しいとは思わないけど、新鮮な甘味は美味しいと思う。ごくりごくりと音を立ててスープを飲み干した。

「……グリフィンドールかあ」
「なんだ、ポッターのことか?お前そんなに選ばれし子に興味があるようには見えなかったが」
「違う子だよ。違う子が欲しかったんだ」
「……僕では不満ですか?」

ゴリゴリバキン、シャキシャキごくん。エイブリーと話しながらしっかり咀嚼をしていると、話に入ってきた幼い声。きょとりと声のほうを見る。ぼんやりと珍しいプラチナブロンド

「ミスタースコル・ワーグですよね、僕はドラコ・マルフォイです。噂はかねがね。他国からいらしたんでしょう?」
「……うん?」
「失礼ですが、ポッターはその…あまりいい奴ではありません。血の裏切り者と仲良くし、僕の誘いを断りました。身の程を知らない愚かな奴です」

よく話す子だなあ。声変わり前の柔らかい声帯でぺらぺらと話す彼は、どうやら生き残った男の子に振られてしまったらしい。生き残った男の子はグリフィンドールだし、仕方ないね。「エイブリー、彼、話すの止まらないよ」「……後輩くらい自分でなんとかしろ」エイブリーに助けを求めれば、薄情にも切り捨てられてしまった。仕方が無いので近くの料理をとって頬張り、ドラコの声をBGMにする。

「穢れた血とつるむだなんて到底理解が出来ない!」
ぷちり、もぐもぐごくん。
「そもそも奴も混血だ、スリザリンに選ばれるはずがない。期待していた僕も馬鹿でしたよ」
ぷちり、もぐもぐ、カリカリ。
「同学年で入ったライリーを知っていますか?あいつは両親共にマグルなんです、あんな奴がスリザリンに選ばれるなんてありえな──」
ガリガリ、ゴリッ、バキッ。

「……い、一体何を食べているんです?」


この声は嘘をつくためにある1/2