普段ならおふざけで済むことだけれど、大好きな規律を破ったグリフィンドールに負けてエイブリーの虫の居所はとても悪い。

「僕が悪かったよエイブリー、ごめんね」

明日には機嫌直るかなあ。掴まれて痛む顎を気にしながら部屋の扉を閉めると、エイブリーはどうでもいいと呟いた。確かにカッとなるところはあるけれどそもそもは冷静な男だ、本人も感情の揺れを心得ているのだろう。この分だと明日の朝にはいつも通りかもしれない。僕は落ち着いてもう一度謝った。

「どうでもいいと言っただろう。それよりも問題が起きた」
「……問題?」

開放された顎を擦り、あぐあぐと噛み合わせを確認する。エイブリーはソファに座り、足を組んでトントンと足先で僕も座すように促す。珍しくお行儀が悪いじゃないか、どうしちゃったのエイブリー。

「問題だ、由々しき問題だぞ。よく聞け、ハリーポッターは呪いをかけられていた」
「どういうこと?」

たくさん聞こえたあの呪文はハリーポッター宛てだったのか。モテモテだ。確か呪文を唱えていた声は──

「スネイプ先生が、ハリーポッターに呪いを……そのせいでハリーポッターは箒から落ちるところだった。確かにグリフィンドールは許し難いところがあるが、試合中に外から呪文を飛ばすなど、許されることではない」

膝の上で指を組み俯くエイブリーは、眉間に谷を作り、いかにも苦悩に満ちている姿だ。あれほど試合が盛り上がっている中、呪文に気づいたエイブリーはきっと、とても焦り悩んだことだろう。レモンシャーベットも頷ける。彼は少々生真面目すぎるところがあるから、まあ、そこも魅力のひとつだけれど。

「でもハリーポッターは無事だったんでしょう?」
「ああ、マグル出身の女子生徒が火を放っていた」
「ふうん、なかなかやるねえ」

マグル出身のというと、以前エイブリーが助けてあげた彼女かな。一年生なのに勇気のある、素晴らしいことだ。ハリーポッターに怪我がなくて良かったねえと頷いて、エイブリーの肩をぽんと叩く。

「エイブリーやその女子生徒が気づいたくらいなんだから、きっと他の先生たちも知ってるんじゃないか?そのうち何かあるよ、きっと」
「そうか? だが……いや、そうだな、そもそもあの場には教員が数多くいたんだ、気づかないはずがないよな……。馬鹿げた心配をしてしまったようだ。付き合わせてすまない、スコル」

適当に言った軽い慰めはどうやら彼の心に響いたらしい。少し考えてから、すっきりと晴れたような表情になったエイブリーが照れくさそうに小さく笑う。僕もにっこりと笑って首を振った。ううん、大丈夫だよ。

エイブリーはクィレルには気が付かなかったようだ。女子生徒、名前なんていったかな…ああ、ミスグレンジャー。ハリーポッターが無事だったことを考えると、彼女は気づいたのかな。でもどうだろう、闇雲に火を放ったら当たっただけかもしれない。たまたまのラッキー、それもまた運の味方だ。でも面白いことになっているみたい。クィレルのあの匂いはどこから来たのかな。

それにしても、ふふ、スネイプ先生ったらおマヌケさんだなあ。スリザリンにも疑われているの、おかしくってしょうがないや。

「スコル……まさか新しいアレルギー症状か?」

くすくすと笑いが止まらない僕を見て、エイブリーが不思議そうに呟いた。


くすんだ音でしとしと笑う2/2

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