はっくしょん!はっくしょん!ずずっ。

鼻水を吸うと、隣のセルウィンに「汚い」とハンカチで拭われた。子供扱いされている気がしてならないけれど、楽だから甘んじて大人しく拭かれる。セ、セルウィン、ナイスよ! こちらを見て、目が合うときゃっと手元の本で顔を隠したレイブンクローの女子生徒ににっこりと笑いかけて、セルウィンにありがとうと言った。レイブンクローはお勉強ばかりだからアブノーマルな趣味に走ってしまうのかもしれない。

「今頃競技場は盛り上がっているんだろうな」
「そうだね、エイブリーが怒っていそうだけど」
「何故?」
「ハリーポッターのようなこと、エイブリーは嫌いじゃないか」

ああ、確かにな。セルウィンが頷く。例外を作ってしまえば何故彼だけなのだと反発が起きるのは当然で、それを起こさないために今まで規約を守ってきた。エイブリーは規約とか規定とか、そういったお約束を守ることが大好きだからきっとハリーポッターが一年生にして異例のクィディッチ選手になった件を許せていないのだろう。実際、少し耳をすませばフリントの怒号やエイブリーの文句の声、ハリーポッターへの歓声とたくさんの呪文が聞こえてくる。フリント、今日もうるさいなあ。

「今年は例年より観戦者が多いようだな、城の中がすっからかんだ」
「ハリーポッター効果だね」
「エイブリーには悪いが、俺たちにはありがたいことだ」
「僕のくしゃみも控えめだよ」

にっこり笑うと、セルウィンもにっこり返してくれた。そうだな。見事な棒読みの返事をありがとうセルウィン。
セルウィンは騒がしいのがあまり好きじゃないから、クィディッチの時期は大体図書館にいる。僕も耳が痛くなってしまうからセルウィンについていくことが主だけど、今回はハリーポッターのお陰で大広間を広々と使えている。ポリポリとお菓子を食べながら椅子に寝転べるのは楽しいことだけれど、それもあと少しで終わってしまいそうだ。セルウィンは本に夢中で僕を叱らない、これもいいことだ。
──グリフィンドールの勝利、百七十対六十で勝ちました!

「あ」
「どうした」
「スリザリンは負けちゃったかな」
「…………フン、興味無いな」

そうは言いながらも眉間の皺が深いよ。本から目を離さない彼の口元に、椅子から身を起こしてクッキーを差し出す。甘いな。そりゃそうだよ、クッキーだもの。

「そうか、それより椅子に寝転ぶなど行儀の悪いことはやめろ」
「あれ、バレてたの」
「当たり前だ」
「怒られちゃうからエイブリーママには黙っていてね」

口止め料の代わりにクッキーを差し出せば、セルウィンはまた甘いのかと言いつつも食べてくれた。よしよし。これで交渉成立、のはずだったのに。

「スコル、大広間の椅子には寝転ぶな、汚いだろう。それから俺は母親ではない」

クィディッチの試合が終わり、大広間で祝いの言葉と罵詈雑言が飛び交う夕食を終えたみんなの中にはもちろんエイブリーもいた。知能の低い獣の匂いが嫌で先に食事をして寮に帰っていた僕は、消臭魔法済みの彼を心地よく出迎えたというのに…エイブリーの開口一番がこれだ。僕はエイブリーと共に帰ってきた友人を糾弾した。

「裏切ったねセルウィン!クッキーあげたのに!」
「あのクッキーは別にお前のものじゃないだろう」
「僕は怒ったぞ。スリザリンのくせに同胞を裏切るなんて最低だ」
「おい、聞いてるのかスコル。俺も怒るぞ」

ぷくりと頬を膨らませ、僕はセルウィンから顔を背けた。しかしセルウィンの隣にいたエイブリーに顎を捕まれ、顔の位置を戻されてしまった。エイブリーの瞳は黄色みがかっているから、さながら砂糖無しのレモンシャーベットのようだ。つまり甘さの欠けらも無い冷たさってこと。ママと呼んだことまで伝えるなんてセルウィンに人の心はないのだろうか。

「ちょっとしたおふざけじゃないか、いつものことだよ。どうしてそんなに怒っているの?スリザリンが負けたから?」
「スコル……お前、純血主義の屋敷へマグルを連れていくようなことを……」
「恐ろしいな……」

後ろから聞こえる同級生たちのため息が、エイブリーに顎を掴まれたまま引きずられていく僕へのおやすみの挨拶代わりになった。
エイブリーはよほどハリーポッターが嫌だったようだ。


くすんだ音でしとしと笑う1/2

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