マクゴナガル教授は結局、あのトイレでスリザリンを五点も減点した後に全員に勇気を称えてと五点ずつ加点した。結局増えただけ、なら初めから減点なんかしなければいいのに。そう呟くと、スネイプ教授から頭を叩かれ「そういうことではない」と言われてしまった。おかしいな、僕たちは勝利の確信を持ってトロールに挑んだというのに無謀とは。

「グリフィンドールの愚かな一年を窮地より救った素晴らしい慈愛心に五点ずつ加点」
「……わあい、やったねエイブリー」
「クィレルを減点することは出来ないのか」

残念ながらクィレル教授は寮をお持ちでない。エイブリーの無表情に首を振る。トロールの残り香を消しながら地下へ降りる。マクゴナガル教授たちと別れてから加点をするとは、だからスリザリンは狡猾と言われてしまうんだ。グリフィンドールの方が加点が多かったことが気に食わなかったらしい、見事に十点ほどスリザリンの方が上がった。当然スネイプ教授ならやると思っていた。そして当然僕たちも加点されるとわかっていた。何事も無かったように、エイブリーが口を開く。

「…スネイプ教授、先ほどより気になっていたのですが、もしや足を怪我されていらっしゃいますか」
「問題ない」
「スネイプ教授もおっちょこちょいだね」
「黙れワーグ」

はっくしょん!返事の代わりにくしゃみが出た。地下廊下に僕のくしゃみが反響して少し面白い。そして、スネイプ教授は気づいたかのように清めの魔法をかけた。そうそう、僕対策にローブを変えてきても傷に残った匂いは消えないよ。
エイブリーはスネイプ教授の言葉に頷く。問題ないならいいや、アテレコするとこんな感じだ。関係ないグリフィンドールの1年生を助けたときとは多違いの精神だ、もっとスネイプ教授に優しくしてあげたらいいのに。まあ、スネイプ教授が問題ないっていうならいいんじゃないかな。マスクの下で口元を緩めると、見透かしたようにスネイプ教授が睨んできたから目元も緩める。眉間の渓谷が峡谷になってしまった。

「トロールをどこへやった?」
「さあ、やったのはエイブリーですよ」
「さあ、呪文を試しただけなのでどこにやったのかわかりません」
「馬鹿者!何故そのような危険なことを!」
「何事も試すことは必要でしょう?」
「トロール相手に使う馬鹿がどこにいる」

それは、ここに。エイブリーの手をそっと握り挙手させると、スネイプ教授からは睨まれエイブリーからはそっと拒否されてしまった。ユーモアがない、少し傷ついたよ。

「なんの呪文を試したのだね」
「無言呪文を使ったので忘れました」
「成功してよかったね」
「貴様らはしばらくトイレ掃除だ」

エーッ!僕の不満の声と、エイブリーの舌打ちの音が混ざった。スネイプ教授はエイブリーに下品なことをするなとお小言ひとつを落とし、寮の前で合言葉を唱え僕たちを押し込む。教授とはここでお別れらしい。余計なことは言うな、するな、新たな呪文を試すときは無機物を相手にしろ。そう低い声で言うと片足を少し引きずりながら教授は踵を返した。ダンブルドア校長に報告をしに行くのだろう。その背を見送り、扉を締める。談話室に行くと、監督生二人がソファに座り談笑していた。

「スコル、エイブリー、やっと来たか」
「無事でよかった。あなたたちのことは特に心配していなかったけど」
「うん、心配かけてごめんなさい」
「単独行動をとりすみませんでした」
「反省しているなら僕たちから言うことは無い。二人とも食事をして休みなさい」
「スコルが無事でよかったわ、じゃあ私は行くわね。おやすみなさい」

女子寮に帰っていく先輩にありがとうと手を振り、マスクを外す。やっとこの邪魔な不織布を取ることができる。解放感に包まれて深呼吸をする。はっくしょん。ちょっとくしゃみが出た。僕のことを誰か噂しているのかも、グリフィンドールの子たちとか。

机の上にはしもべ妖精がパッと出した料理が並ぶ。僕のお腹が鳴った。お肉が沢山並んでいる、スペアリブフライドチキンロースステーキミートグラタン!

「大広間で何があったんです」
ぷちり、もぐもぐ
「パーティーが始まって少しして、クィレルが駆け込んで来たんだ。トロールが侵入したようです!とな」
バリッ、もぐもぐ、ガリッ
「ほう、クィレルが」
「スコルの勘があったからな、対応はスリザリンが一番迅速だった。そっちは何故トロール退治なんてことになったんだ?寮にいるはずがいなかったから、特にスコルは生きているかと三年は大変な騒ぎだったぞ」
ぶちっ、ぶちぶちっ、バキッ……もぐもぐ
「スコルが少々妙な発言をしたので気になって。流れで人助けを」
ガリッ、ガリッ、……ガリッ
「そうか、それは良いことをしたな。僕は相手がグリフィンドールであっても救った二人の心意気がとても嬉しい」
ガリガリガリ…ギィー……

「スコル、不快だ。やめろ」
「だって焦げがおいしいんだよ」
「そんな意地汚い食い方をするな」
「でもおいしいんだよ」

なかなか削ぎ落とせないグラタンの焦げと奮闘していると、エイブリーと監督生から叱られ取り上げられてしまった。む、と頬を膨らます。即座に最後の一本のフライドチキンが口に突っ込まれた。大人しく骨ごとバリバリと咀嚼する。おいしい。しかしおいしいものはすぐに無くなってしまう。ごくんと飲み込み口の周りの油を舐めようとちろりと舌を出したけど、舐める前に監督生からナプキンで口を拭かれてしまった。

「子供みたいなことを…。だが今日はスコルのお陰で色々と助かった、世話くらい焼いてやる」
「ありがとうムッティ。でも僕はエイブリーがグリフィンドールの子を助けるなんて思ってもみなかったよ」

だって彼女、マグル出身じゃないか。
僕の言葉にエイブリーは何も言わずフォークを置き、監督生は「母親ではない」と律儀に訂正をした。
エイブリー、”レディを放っておく訳にはいかない”とか、”危険時に純血だの混血だの血の種類は関係ない”なんてことの一言を付け加えるだけで完璧だったのに……もう、僕の友人はそういう人だよ。


きれいごとの戯れ6/6

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