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「これでよし、っと」

 あと少しで試験、夏休みと迫った時期。遅くなってしまったが仕方が無い、と割り切ってなんとか工夫し「どうせマグルみたいな教員免許なんてないじゃないですか!」と直談判し校長先生より許可を勝ち取った私は、教員募集の小さな記事が入った3通の封筒を並べて一息ついた。
 この3通の行先だが、一通はかの有名な日刊預言者新聞へ、もう一通はザ・クィブラーという、数ある雑誌の中では異色だと言われるらしい編集部へ、そして最後の一通はダイアゴン横丁に店舗を構えるホグワーツもご贔屓にしているフローリッシュアンドブロッツ書店へだ。

 預言者新聞の記事枠は本当に大変だった。魔法省御用達でもあり英国魔法界の顔と言っても過言ではないから、記事の枠が人気過ぎて。しかしなんとか小さくとも枠をもぎとったぜ。ボーナスください。
 そしてザ・クィブラーだが、何故異色の雑誌に掲載をお願いしようとしているのかと言われれば、それはザ・クィブラーが『異色』だからだ。

 正直言って、ホグワーツ教員の多忙さは下手すると過労死レベルだ。

 ここだ、ここがすべての肝だ。
 生徒は全寮で、もちろん例外もあるものの、教員のほとんどが城に常駐。教科の分担も無く、一科を請け負えば全校生徒を常に見続けなければいけないと言えば忙しさは伝わるだろうか。しかしそこまで多忙を極めて生徒を見続けたところで、教員側に休みがあるかと言われると答えに詰まる。今回募集するマグル学は選択科目なので我々必須教科担当に比べれば少しは楽なんだろうが、それでも約4学年のすべての生徒を見るというのは中々に厳しい。実際に務めて半年で、心身の過労で病んでしまったという人もいたらしい(マクゴナガル先生が教えてくれた)。ので、おそらく普通の人には出来ないだろうと考えたわけだ。あとは……わかるね? そういうことです。ちなみにこれはダンブルドア先生から教えてもらったことだが、現在のザ・クィブラーの編集長さんは元レイブンクロー生で昔から中々鋭い感性をしていたとかなんとか。ダンブルドア先生は載せてもらえるとは光栄な事じゃ、と笑っていたが、多分それは母校ホグワーツからのお願いだからじゃないか? ということは黙っておく。さらにちなみに、編集長さんが信じてご自宅に飾っていらっしゃるらしいしわしわ角のスノーカックの角は、エルンペントの角だとか。編集長さんやばい。爆発しないことを祈ります。
 そして最後のフローリッシュアンドブロッツ書店、これは普通に単なるお知らせ枠で載せて頂けることになった。実はあそこの店内には、「作ったはいいが他にも沢山張り紙のある壁に紛れており、大変気づかれにくい掲示板」が一応ひっそりとあるらしく、そこに張って頂けるとのことで。ああ、ありがたや。来年もガッツリ教科書で使用しますお世話になりますううう。
 と、まあ、そういうわけで。

「お願いします神様!」

 八百万が英国まで機能するかはわからないけれど願掛けは大事。手紙をホグワーツを代表するふくろうの中でも最も毛艶の良いふくろうの足につけて、パン、と手を合わせて送り出す。
 大きさにしてどれほどかはわからないものの、少ない予算の中でなんとかもぎ取ることの出来たこの記事の枠を、誰かが見てくれることを願うばかりだ。


 手紙を出してから数週間、他科目の試験の内容と詳しいタイムスケジュールを受け取り、怒涛の試験期間のために体力をつけねばとモリモリ夕食を食べたその後。疲れたし、今日は大人しくもう寝ようとおやすみモードで部屋に戻ったところで別段防弾になっているとかそう言うわけではない窓をこんこん、とつつく音がした見ると、そこには見たことのない金色の毛並を持った梟が凛々しく窓際に止まっていた。えっ、だれ。

「は、はい、どちらさまですか」

 おそるおそると招き入れると、金色梟はおらよっと私に足を向ける。手紙だ。受け取って動物用のクッキーと水を出すと、金色梟はクッキーの匂いを嗅いだ後フン、とそっぽを向き、奥の机の上に飛ぶと器用に蓋を開けて金平糖を掻っ攫った。 ……あ、はい、すみません安物で…。
 高級嗜好の良い梟らしい金色さんにワァオと驚きつつ手紙の差出人を見ると、「Charity Burbage」と綺麗な字で書かれていた。見覚えのない名前だ。宛名はしっかり私の名前がある。さて誰だ。

「えーと……ホグワーツ魔法魔術学校教員募集受付担当ナマエ・ミョウジ様……うええ!? こ、これは!」

 マグル学の先生キターーー!!
 以前はつまりつまりだったが、この数年で慣れた筆記体をスラスラ読んでいくと、この方、バーベッジさんは確かに教員募集の応募だった。いやっふううう! やったね! 八百万の神様ありがとう!
 正直新学期が始まる2週間前までには死ぬ気で確保せねば、ダメだったら日本から……いや私頼めるような人いないわ………といった心意気だったのだが、こんなに早く応募が来るだなんて思ってもみなかった。ワタシ、トテモ、ウレシイ。脳内で謎の片言になりつつ、早速書類を作っていく。寝るの? あとあと! 早くお願いしないと、逃げられてしまうかもしれない。猟師ってこんな気持ちなのかしら。


「というわけでいつ面接されますかダンブルドア先生!」
「この時間帯の訪問は老体には優しくないのう……」

 銀色のお星さまがついたきらきらナイト帽を被り、同じデザインの寝間着に身を包んだダンブルドア先生が目をこすり眠そうに若干おぼつかない足取りで校長室から出てこられた。ぶつぶつと文句を言われるがそんなのお構い無しに喋る。

「夏季休暇に入った次の週でよろしいですか!」
「その次の週は?」
「ダンブルドア先生が大丈夫ならいつでも! どうせ他の先生方はいつ呼んでも来るでしょ! っていうかホグワーツが家って人ばっかでしょ!」
「夜に元気じゃな……。では夏季休暇に入った次の週末、ホグワーツでお待ちしようかのう」
「わかりました、ではそのように!」

 いやっほーい! とテンションが高ぶるままに走って部屋へ戻る私をダンブルドア先生がどんな目で見ていたかは知らない。

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