1986

「イギリス飯くっそまじい」

 思えば、あの言葉が発端だったのかもしれない。
 先生たちに「あなたを世に出すのはとても心苦しい」と言われながら(解せない)卒業して数年、私は窮屈な家を出てフリーライターとして日本国内を旅していた。でも、あのとき、私は成人だ! 酒だ! これで正式な大人だ! と謎のテンションで、軽い着替えと杖と財布だけを持って、映像でしか見たことのない英国の地へ飛んだ。単身で。認めよう、かなりアホだった。(「今でもアホだろう?」「ビークワイエットプリーズ」)
 英国に飛んだはいいが、言葉は授業でさらっとやった程度で周りの言葉を理解できるはずも無く。オシャレなお店だ! と興奮のままに入ったけど文字が読めなくて、とりあえず見たことのある単語が並んでた料理を頼んだ。まあ元はと言えば自業自得なんだけどね、それはそれは不味かったわけだ。なんていうの、もう口に近づけたら吐くレベル。ぬにゃってしてでろっでろで、超臭いの。私の中では完全にトラウマ。
 だからまあ、一口食べてやめたじゃん。まずってなって即やめて、逃げるようにお店を出た。食って結構大事でさ、私の気分はもうガタ落ちで、まだ英国について1時間もたってなかったけど、帰る気しかなくってね。これでも狐憑き…アー、魔法使いだから、人のいない場所を目指すわけ。瞬間移動、そう、姿くらましをするためにね。それで人のいない場所に行ったはずだったんだけど、人がいた。死角になってたらしくて、見えなくてさ、私は普通に気合入れて荷物を背負った。
 そうしたら、なんと、なんとその人も魔法使いだった。しかも、ちょっとヤバいタイプ。俗に言う犯罪者だった。(「犯罪者――アー、闇の魔法使いってやつ?」)
 もうピンチでさ、私は姿くらましする気満々でいたところにいきなり杖向けられて、スラングだらけの聞き取れない言葉を色々浴びせられて、驚く暇も無かったよ。闇の魔法ってやつを大量に放たれちゃって。(多分あれは私が防衛術得意じゃなかったら即死だったね)
 抵抗したんだけど慣れない土地で動き回るのは結構きつくて、相手も中々に強いと来た。簡単に言えば、隙が出来た。そこを狙われてしまって、本当にもうダメだって思ったその時だよ。

  「大丈夫かのう、お嬢さん」

 もう神かと思ったね。とうとうお迎えが来たんだと思った。結局は違ったんだけどね、どちらかと言うと救世主的な意味の神だった。(だってあのもさもさの髭だよ? 日本人は見慣れてないし、そりゃ勘違いもするってもんだよ)
 それが、私とMr.ダンブルドアの出会いだった。

 Mr.ダンブルドアは茫然としたままの私を放置することも無く、英国紳士らしく優しく声をかけてくれて、怪我の手当てまでしてくれた。しかもそのまま「行きなさい」って。どんだけ優しいんだよって感じだった。
 でもそこで言葉に甘えてのこのこ帰ることなんて私には出来なくて、Mr.ダンブルドアに頭下げた。「何かお礼をさせてください!」って。でもMr.ダンブルドアはいらないって遠慮したんだけど、それも建前ってものでしょ?(「日本人の思考は意味わかんねえな」「大人になったらわかるよ」)私は遠慮するMr.ダンブルドアに再度頭を下げて言ったよ、「何かお礼をさせてください!」って。そうしたらMr.ダンブルドアは私に向かって笑って言った。

  「わしはとある学校の校長をやっているんじゃが、ちと人手が足りなくてのう。そこまで言うのであれば、手伝ってくださるとありがたいんじゃが、いかがかな?」

 私は即答したよ。「もちろん、全力でお手伝いさせていただきます!」って、全力でお答えした。Mr.ダンブルドアが少し身を引くくらいには熱が入ってた。
 私から少し身を引いたMr.ダンブルドアは私に向かってお茶目にウィンクして言った。

「では、お願いしよう。これからよろしく頼みますぞ―――――ナマエ先生」




「ま、そんなわけで私は予期せぬ教職についたってわけだよ。どう? 面白かった?」

 はは、と軽く笑うと、私に「どうして先生になったの?」と一番最初に聞いて来たオシャレな体質の女子生徒は、ムッとして「あんまり尊敬出来ない感じ」と口を尖らせた。彼女と一緒に私の話を聞いて男子生徒は「バカらしくて面白かった!」と至極アホな感想をくれた。自分でもそう思っているため何も言えない言わない。しかし、約12歳の子供達にそう言われるのは少し心に来るものがある。

「ミョウジ先生ってもっと先生って気がしてたわ」
「ごめんごめん、でもこれでも頑張ってるんだよ」

 やっぱり何も言えず苦笑すると、「それはわかってる!」と変わらずムッとした表情だった彼女は少し頬を緩ませて笑った。「ミョウジ先生の授業私すごい楽しいよ」その言葉を聞いて嬉しくない教師がいるだろうか。いや、いない。(反語)
 私は「ありがとう、トンクス」と笑って彼女のふわふわと明るいピンクの頭を撫でた。
 そんなアホらしい成り行きでも、結構教職は楽しかったりするのだ。

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