ALBATROSS

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遺書は常に懐に入れてる系うちは娘

元はコレ


ぼふん、変化解除の音を耳に、体が戻ったのを確認して急いで里へ戻る。手には先ほど手にいれた巻物だ。任務完了なりーといつもなら帰って即寝るのだが、正直、巻物だけ置いてまたすぐに任務に出たい気分。

「あ、名前さん。お疲れ様です」
「お疲れさん」

まだ昼間の早い時間なため人もまばらな集会所へ行くと、受付のハマチが私の疲れた顔を見て苦笑した。お預かりします、と男のくせにささくれ一つない羨ましい綺麗な手で私の乱雑に書かれた報告書を受け取った。

「そんなにお見合い嫌なんですか?普通なら喜びそうだけどなあ」
「嫌ってわけじゃないけど、思うところはちょっとある。私も普通なら喜んだんだけどねえ。相手が相手だから」
「あー、里外の人なんでしたっけ?まあ頑張ってください。いつでも帰ってきていいですからね、俺、また名前さんと飲みたいですから」
「それ、喜んでいいの?ま、ありがと」

にひ、と少年のような笑みを浮かべるハマチに、ひらりと片手を降って集会所を出る。
いつもならさっさと印を結んで帰るが、今日はそんな気も起きない。

私にこの見合い話が来たのは、当日である今日から遡って約一ヶ月前のことだ。

「お前に見合いの話がある」
「…………はい?」
「相手は砂隠れの上忍だ。これは火の国と風の国の友好関係を強固にする大切な縁談、気合いを持って受け入れる様にとのお達しだ」
(まってついていけない)

とまあ始まりはこんな感じだったかな。説明をする父さんの堅苦しい顔に険しさが追加されたあの顔を今でも忘れられない。
砂隠れの上忍、と言われたところで、相手が予想つかないのも当たり前で。確かに私は昔からよく砂には任務で行っていたが、まさか縁談なんてものが来るとは思っていなかった。

「名前、無理しなくてもいいのよ」
「ミコト、」
「あなたは黙っていてください。……あなたは昔からうちはの娘として忍になることを強いられてきて、イタチやサスケと比べられて苦しんでいたのを知っているわ」
「……はい?」
「だから、だからね、女としての幸せくらいあなたの意思で決めてほしいの」
「ちょ、母さん泣かないでください。父さんも何眉間に皺なんか寄せちゃってるんです?いつもなら怒ってるとこじゃないですか。ははは、二人共突然どうしたんですか(何このシリアス急展開)」
「…………ミコトの言う通りだ。嫌ならそう言え、私がなんとかしよう」
(父さんん!?)

いきなり父さんのデレというか、甘やかしが入ったのも本当に驚いた。私もよく知らないけど、私の中の父さんのイメージはそりゃあもうお硬いだろ?里のためだ拒否権なんざあるわけねえだろって感じじゃん?それがこの甘さよ。
とは言え、私もまだ20代にギリギリならない程度で、世間一般からすればどう考えても結婚するには早い、はずなんだけど、木の葉旧家としてそんなに早くもないんだよね。むしろちょっと嫁ぎ遅れ気味っていうか。聞けば母さんも父さんと結婚したの16歳っていうじゃん?しかも家の両親だってうちは同士だし、私も幼い頃から集落の噂で誰と婚約がどーのこーのとか聞いてたからぶっちゃけ薄々結婚すんなら政略だろうなとは思っていたんだけれどもだな。

「お気になさらないでください。私もじきに二十になりますし、うちはの娘として、里に仕える忍として、御縁談をいただけたことありがたく思います」
「名前!」

まさかぶたれるなんて思いもしなかったよな。今思えば私今までクッソいい子だったから怒られたことないし、ましてや叩かれるなんてことなかったんだよ。父さんのビンタが予想外だったしめっちゃ痛かった。あれを何かやらかす度にくらってたサスケは強い子に育つわけだよ。あのあと腫れたもんね。あ、今は元医療忍者でもあった母さんが治してくれたのでないですけどね。

「隠すな。今まで我慢させていた私たちが言うことを信じられないかもしれないが、それでも、このくらいは我儘を言ってほしい。うちはの娘や忍関係なく、お前の気持ちとして言ってくれ」
「(ええええそんな悲しそうな顔されても困りますわ何言えって!?)は、はあ、先程の言葉に嘘偽りはありませんが、」
「名前、そうじゃないの、そうじゃないのよ。素直に言っていいの。ここではっきり言わなければ、あなたの心が本当に消えてしまう……!」
「(ごめん仰ってる意味が全然わからんよ母さん泣かないで)で、ですから、私自身の本心としても縁談をいただけるのはとてもありがたいことなのです」
「……本当に、そう思っているのか?無理はしていないのか?」
「(マジでこの人父さんなの?無理してるってなんでだ。ここは上手くいうしかないか……。あー、その、)お恥ずかしい話、私に色気は無いので殿方とそういった雰囲気にもなったことがないのです。このまま行けば確実に仕事三昧となり、兄さんやサスケが結婚して子が生まれても独り身でいるような気がします。なので、私にとってとても良いお話でして、決して父さんたちが仰っているような無理もしておりません」

それに、火影様が悪い人との縁談を持ってくるとは思えなかった。身内愛が強い一族に悪い人(例えばDVとか?)の話を持ってくれば内部戦争勃発、やっと終わった大戦が再度始まってしまう。ちなみにこれは私の為にーとかの自惚れではなく「おいてめぇうちはなめてんのか!?」という、うちはによるうちはのプライドのためのものだ。やけにプライド高いからなうちは。

「……本当か?それが、お前の本心なのだな?」
「はい」
「けれど、お相手は砂隠れの方なのよ。火影様からの御縁談だし、少なくとも砂隠れの上層部の方だわ。ですよね?あなた」
「ああ、おそらくな。詳しいことは機密らしく、当日になるまで明かされないらしい。……全く、ふざけている」

まさか、このときの父さんの言葉が本当だなんて思いもしなかったけどな。てっきり火影様のお茶目で翌日あたりに行けばほいほい教えてくれると思ってたのにな。マジで当日まで教えられてないってか、会うまで教えてくれないらしい。何このドッキリ感。

カラリ、裏口の戸を開けてそっと中へ入る。いつもなら会合の日以外はシーンとしている家だが、今日はうちは頭領の娘の見合い、ということもあり、奥様方が慌ただしく準備をしている。おもてなしの料理はやはり気合いが入っているようで、和食ならではのとてもいい匂いがした。

「あっ、お嬢様おかえりなさいまし!ささ、お早く準備を!」
「は、はい」

とりあえずシャワーを、と思った私の腕をつかみ連行していくおばさんに、大人しくついていく。やっぱりシャワーを浴びるのだが、サッパリしたあと部屋に用意されていた服を見てあんぐりと口を開けた。いや、まって、

「そのドレスは、ちょっと……」
「おかえりなさい。これ、ダメかしら?今はもうお着物ばかりの時代ではないでしょう?似合うと思ったのだけれど」
「あー、いえ、その、私着物を楽しみにしていたもので、」
「あら、そうなの?じゃあやっぱりお着物にしましょうか。そうすると、これがいいかしら…」

この着物だと帯はこれね、と次々と私の体にあてては確認する母にされるがままになる。とりあえず、あの露出度は少ないが露出はあるワンピース回避したのでよかった。心底よかった。私の体の傷は、かなり、あの淡いワンピースには合わない。ホッとしたと同時に、そう言えば見せたことないもんなーと、先程も見た自分の傷を思い浮かべる。特に胸元の傷は酷いもんだからなあ……あれ、まてよ。これ、離縁される可能性が微レ存じゃね?
これでも昔は美男で今はダンディなフガクさんと、うちはで1番美しいと言われたミコトさんの娘である私の顔はいい方だ。つってもやっぱ上の下あたりなんだけど。母方の従姉妹の方が綺麗綺麗と言われここでも落ちこぼれ扱いされてるわけなんだけど、まあ自分で言うのもなんだが美人なのだ。が、せっかくここで結婚出来ても、下世話な話夫婦生活ってもんがあるだろ?夫婦性活って言った方がいい?まあそれだよ。
顔が良くても脱いだら傷だらけってのは、結構萎えるんじゃないだろうか。私としたことが、失念していた。これで離縁されたらどうしようかなあアハハ……でも相手も同業らしいしな。その事を考えるとおそらく家庭内別居あたりになるだろうが、万が一出戻りしたら火影様に頼んで長期任務三昧にしてもらおうかな。うん、それがいいわ。まだ結婚してもないのに気が早いって?こんなん国と国がって来た時点でもう決まってんだよ……。今から家庭内別居のプランたてるあたり私も逞しくなったものである。

母に見繕われた振袖に腕を通し、着替えていく。たまにしか着なかったものの、幼い頃から着てはいたからか結構出来るものだ。傷が見えない程度まで自分で着替え、母さんを呼んで残りを手伝ってもらう。

「髪はー、そうね、名前の髪は綺麗だから軽く梳くくらいで充分だわ」
「少しまとめてこちらの簪を添えてはいかがです?…ほら美しい」
「まあ、本当に。お化粧も紅だけでいいわね。こっちを向いて」

母とお手伝いで来てくれたおばさんに囲まれ鏡を見る暇もない。よくわからないまま髪をサッと梳かれ、そのままハーフアップのようにきゅっと後ろで結ばれる。そこにサクッと簪をさされたらしい感触。
母さんに言われそっちを向くと、母さんが紅くなった指を私の唇あてた。ぬるり、となんとも言えない感触がする。前世も今世も化粧なんてしてこなかったから、違和感満載だ。本当に美しいわ、なんて言ってますけど、それ身内の贔屓目ってやつじゃねーの母さんよ……。半信半疑で姿見の前に立つ。

「…………ワーオ」

これは驚いた。どっかの鶴の口癖じゃないが、驚く。
うちはカラーでもある紺色に、ひらひらと金の桜が舞い、可愛らしい牡丹が上品さを魅せる。どう見ても生き死にの世界に生きる女が着るような振袖じゃないが、そんな風に見えないマジック。紅い簪がこれまた私の黒い髪に映えて、うちはらしい白い肌に紅色が映える。
なるほど、これは綺麗だわ。自分で言うのもなんだが、マジで美人。中身がこれで申し訳ないくらいには。これ私だって誰も思わないんじゃね?ちょっと不安になってきた。詐欺っていわれても否定出来ないレベルにはビフォーアフターしてる。なんということでしょう……(震え声)

とん、と母さんの白魚のような細い手が私の肩に乗せられ、鏡越しに目が合う。
嬉しそうだが、どこかまだ納得してないような複雑そうな表情で、だがきらきらと目は細められている。

「まあ…!とっても綺麗よ。お相手が怖気付いてしまうかも」
「はは、そしたら父さんに殴り飛ばされてしまいますね」
「破談になっちゃうわ、もう」

アッどうやらこれ母さん諦めてないらしい。きらきらしていたはずの目が笑っていない。むしろ破談になれってか?もしかして父さんもそうだったりすんのか。いや別に破談になってもいい……いやダメだけど。うーわふっくざつぅ。
ここはなんと返せばいいのかわからずとりあえず愛想笑いをしていると、奥からお相手が到着したという報せが来た。

「いよいよですねお嬢様」
「はい」
「名前がお嫁にいくなんて考えられないわ」
「あら、そうですか?以前は分家の方々とのお話もありましたでしょう?確か、シスイさんが一番候補にあがっていたような」
「イタチとサスケが全て却下したのよ。本当、二人共名前のこと大好きなんだから」
(待てェェエエエ)

それ!初めて!聞いた!初耳!!!!
縁談話あったならはよ言えよ!ナンデ!?ナンデ兄さんとサスケが却下!!?
突然の暴露に私の脳内は思ったより混乱している。いや確かにシスイさんと結婚するのはちょっとあれだけど、っていうか昔から知ってるうちはとの結婚はちょっと遠慮したいなとか贅沢思ってたけど。
ぶっちゃけ結婚出来るならしたいけどさ、まあ普通の人相手は無理じゃん?私同期の中でなんて呼ばれてるか知ってる?「顔だけ女」だぜ?なんだよその口裂け女みたいな語呂感。あいつら私より弱いくせしてまじムカつく。うるせえモブ顔とボコボコにしたのはいい思い出だ。
と、それは置いといて、まあ私も一応頭領の娘なわけだしさあ、父親が父親だから結婚するなら政略とは思ってたけど、個人的に昔から色んな意味で落ちこぼれのレッテルで有名な私を嫁にもらいたいなんて分家あるわけないじゃん?あったらそれは確実に下心満載なわけでさあ。
どうせ結婚したところで仮面になるのは見えてる私としてはさ、出来ればうちはじゃない人とがよかったもんだけど、予想的にはうちは同士の婚姻色が強いじゃん?いや実際はこうして一族どころか里から外の人との話があったからある意味よかったものの。それでも、私が知らなかったとはいえ、いっときでもそんな話があったって言うのはなんともこう、複雑だ。落ちこぼれ呼ばわりして格下に見てた娘との縁談を申し込むくらいにはうちはの分家も野望に溢れてたりすんのか。そらクーデターも起こしそうだ。実際は起こしてないけど!サスケももう立派になっちゃったよ!イタチ兄さんもシスイさんも大出世しちゃったね!?
ところでシスイさんとのお話っていう元ネタは確実にシスイさんがまだ嫁もらって無いからだと思う。イタチ兄さんより年上だから、もうそろ30代くらいじゃね?よくわからんけど。
それにしたって私の知らないところで話が消されていたという事実はなんとも言えない寂しさを残す。少しくらい話してくれたっていーんじゃねーのさ。あとイタチ兄さんもサスケもそんな私のこと好きだったの?ってあとから絶対自惚れ乙になるんだろうけど。
今回もお相手によってはフガクさんとイタチが頑張るわ、と頬に手を当ててうふふと笑う母さんに、冷や汗がたらり。ふぇぇ……愛の一族クソ怖いよぉ……。

「あら、そろそろかしら。行きましょう」
「あ、はい」

ぼーっとしていた私をよそに、何かを感知したのか母さんが私の手を引き部屋を出る。
今日は外部のお偉いさん(多分)お相手だからか、離れの特別な客間を使うらしい。ここは結界付きで、暗部も入れない。ついでに庭がよく見える。

母に背中に手を添えられて、閉められている戸の前に一度座る。父さんからの合図で入るんだっけ?
それにしても変な感じだ。気配は室内に4人、か。一人は父さんで、一人は声からして火影様だろう。とすると、残りの二人は砂の方々か。いや、こちらに火影様がいる、ということは、風影である我愛羅もいるだろう。今更だけどマジで不安になったきた。少し震える手を、きゅ、と握りしめて無理やり震えを止める。

「入りなさい」
「……失礼致します」

そっと母さんの手がぽん、と私の背を軽く叩き、離れていく。
そのまま戸をすっと開けて、一礼。震えるなよ、そう、任務、これは任務だ。よし、平気。

「うちはフガクが父、うちは名前と申します」
「顔を上げろ」

名乗るのはいいがなんと言えばいいのかわからず、これどーすんだろと思っていれば言い終わるや否や我愛羅の声が。アッハイと顔を上げれば、ばっと我愛羅と目が合い薄く微笑まれる。まあ可愛い、といつもなら思うのだが、今の私はそれどころではなく、我愛羅の隣に座する人に目がいってしまう。
火影様方に軽く挨拶をして父の隣に座れば、やはりというか、お相手は当たり前だが我愛羅の隣の人で。

茶色がかった赤色の短髪に、少しがっちりめの体格。鼻は少し大きめだが、顔は普通に整っているし、我愛羅と並べると多少見劣りはするもののイケメ……いやイケメンではないな。普通。フツメン。つり目気味の目は涼やかな印象を受け、体格と合わせると男らしい、という表現がまさに似合う人だ。……なの、だが。
ンン〜?おかしい、おかしいぞ。さっきからめちゃくちゃ目が合う、というより目がずっと合っている状態なんだが、こ、この相手、私確実に見たことあるぞ。いや、見たこと合うどころか……待て、他人の空似かもしれない。世の中に同じ顔は三人いるって言うしな!
どっかで見たような赤色…我愛羅くんに似て、あ、いや、赤髪なんてこの世界じゃありふれてたりするもんね、うずまき一族もそうだし、サソリとかも赤い髪だったし!変なところはないよネー。
体格はいいけど、目元とか、全体的なパーツの配置とかは我愛羅に似てなくもな、やめ、やめるんだ私、それ以上いけない。この発想の繋げ方は確実に危ない。
そ、そういえば確かこの方、砂隠れの上忍で、いやあいつもそうなんだけど、いやいやでも上忍だって人手不足とは言ったってなんだかんだで大量にいるもんだろ?はは、おかしいな、うん、おかしいぞ。
おそらく、相手から見れば私の目は死んでいるだろう。私から見ても相手の目は若干死んで……おいまてなんだその目は。私今めっちゃ美人なんですけど。普通に初対面だった場合めちゃくちゃ失礼じゃね?初対面じゃなくてもムカつくわー。というか、初対面なことを願うんだけど。ちなみにここまでの思考するのに一秒も経っていない。謎の焦燥からマッハなのだ。
こほん、と若干緊張しているように咳をして、硬い声で我愛羅が言った。

「紹介しよう。俺の兄の、カンクロウだ」

やっぱお前かよ。

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