ALBATROSS

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玻璃ぽた・イン・ワンダーランド2

元はコレ ※ポタ要素は無し


カルト教団の寮に詰め込まれてから早数日が経った。同室者のタコちゃんことあーしぇんぐろっとさんことぐっさんは思い込みは激しいし気性も荒いし拗ねやすいしなんか被害妄想すごいし何かとあれば蛸壺に引きこもるようだが、まあなんとか上手く付き合っていると思う。同室ってだけで、寮の外に出れば彼には別室に同郷のご友人もいるようだし。なおこのご友人、入信時に見たタッパのデカい2人で私はなるほどタコちゃんなにかあれば死ぬなと確信した。じっと見られて怖かった。 そんでこのオクタビネガー寮には人魚と洗脳された子が多く集められており、多分私もその1人だったのかもしれないなど予想している。あと浴室の蛇口は海水と淡水だった。なんだその使い分けは。ぐっさんは蛸だから海水らしい。なんだその忠実な設定は。全力でノッかるじゃんウケる。なおカビが生えるのは嫌だから蛸壺は定期的に勝手に洗ってんだけどその度にめっちゃ怒られるでござる。悪いとは思ってますけどね、だからってお前放置すんなよな、ここは海の中(笑)と違って湿気てたらカビ生えるんだわ。浴室のカビを舐めてはいけない。

そして面白いことに、このカルト教団は学校という組織的な面をしているらしい。ナイトレイブンカレッジだって、ネーミングセンスがすごい。夜のカラス大学校。名前聞いて腹ねじれるくらい笑ってくるーうぇるとか言う発音がとても難しい先生にめちゃくちゃ怒られた。しかもこの先生やべーんだぜ、鞭持ってんの。生徒という名の信者を仔犬って呼んでてこらまあすごいところに来ちまったと思ったね。子ガラスじゃないんかい。仔犬側はクル先と呼んでいてそこはフランクなんだ!?と驚いたけど呼びやすいから私もそうしてる。知らなかったけどカルト教団って色々とすごい。
そんでもって私たちは魔法を学ぶらしい。選ばれし生徒たちはマジカルペンというファンシーなペンを持ち魔法を学んで立派な魔法士となるんだとか、ここ夜のカラス大学校は魔法士の名門校らしい。あと驚いたことに、オクタビネガーが人魚だらけなように他の寮にも特徴があるらしい。グレートセブンという偉大な魔法士たちを準えて7つの寮があるんだとか。多分グレートセブンとやらは教団幹部。刷り込みが上手い。その7つの寮の中にはもちろん種族がいて、獣人や妖精族なんかもいるらしい。世界観マジすげえ。しかも面白いことに獣人は耳としっぽがついてて、妖精族はよくわからないが角がついてる人がいるらしい。あと髪が燃えてる人もいるんだとか。これを知ったあたりで設定がよく出来すぎて設定集欲しくなってきてしまった。

しかし全寮制というのは面倒で寮を出るのにも許可がいるし、学校だからかそこかしこに見張りのような生徒や監視カメラがある。私は未だに逃げ出せずにうろちょろと部屋でごろごろしたり授業に出たり同室者に怒られたり蛸壺をつついたりして生活してるんだけど、これが案外楽でな…。働かされないのはマジでいい。勉強はよくわからんが。あとマジカルペンとやらもよくわからん。詠唱が難しくて、失敗しては怒られてしまう。唯一出来るの魔法史くらいで、この前同級生に「お前みてーなバカが来るとこじゃねーんだよ!」と怒鳴られてしまった。でも退会方法を知ってるのかと思いきや「何言ってんだお前」とドン引きされてしまったから、マジで洗脳完璧なんだと思う。ますます怖いわ、早く帰りたいでござる。

「お?どしたん?」

クル先生にバッボーイを連発された補習の帰り、階段の下で蹲る銀髪を見っけた。ちなみに夜のカラス大学校はボーイもガールも関係なくボーイらしい。でも私を含めて明らかに女子だろって言う可愛い子がたくさんいるんだから無理があると思うんだよな。それはそれとして、同室者タコちゃんだ。蹲る横に膝をつき顔を覗き込むと、なんとボロボロ泣いていた。足を床へ投げ出して、つま先をぎゅっと握っている。

「あ、あし、あしが」
「足?怪我した?」
「いたい、ぼくのあしが、」
「転んだの?お転婆なんだからも〜」

挫いたりしたんかと足首を触ると、びくりと過剰に身体が跳ねてびっくりした。ぐっさんもびっくりした顔でまた泣いてる。腫れてる様子は無いけど、そんなに痛いならやばいかも。

「先生呼んでこよっか、ちょっと待ってて」
「ッ、ダメ!」

ちょっくら保健室、と思い立ち上がろうとすると、ジャケットの裾を思いっきりひっぱられた。おっとセクシーになってしまった。そそそと直してなんで?と聞くと、ぐっさんは「そんな恥かきたくない!」と言う。なんだ恥って。怪訝に首を傾げると、あなたにはわからない!と言われた。ウンまあわかんねーけど。

「陸に来て足が痛くて動けないなんて、そんなことで人魚の涙を流すなんて、恥さらしでしかないんですよ!」
「…………へ、へえ」
「あなたにはわからないでしょうが」

そりゃ、まあ。なんとも言えずへらっと笑うと、それがまた癪に触ったようでぐっさんはわんわん泣き出した。人魚の涙云々言ってたけどいいのか、めちゃくちゃ泣いてるが。とりあえず背中をさすってみると、そのままぎゅううと抱きしめられ胸元がどんどん冷たくなる。……これはあれか?足の痛みが落ち着くまで待たないといけないパターンか?め、めんどくせー!そして力強いな。なるほど蛸。
この教団設定に付き合うとしたら、どんなことを言えば素直に保健室へ行ってくれるかが問題だ。今日まで暮らしていてぐっさんは思い込みは激しいけど瞬時の頭の回転は悪くないと見ている。余裕で私より頭いいし、言いくるめるのは難しい。背中をぽんぽんと軽く叩いてやりながら様子を見る。この子背が高いし私が背負うのは普通に無理だし、やっぱここは先生を呼ぶしか──と、そこでコツコツと足音が聞こえてきた。誰か来たか?先生だといいなーなんて思っていると、泣いてるタコちゃんがじっと黙って震え出した。なんだどうした。少し体を離すと顔が真っ青になっている。手を足に置いて、何度も摩っては目を動かして。察した私はジャケットを脱ぐと目立つ銀髪頭を隠すように被せた。じっとしといてと小声で言うと、小さく頷かれる。

「あ?なんか魚臭くねえか?」
「おいオクタヴィネルか?何してんだよ」
「あーあれか、毎年いるだろ小魚が水槽に帰りたあいって泣いちゃう奴」
「マジで?ラッキー、涙貰おうぜ。小遣い稼ぎにちょうどいいわ」

のしのしとやってくる3人組にはひょこりと耳がついていた。黄色いベストは、ほほう獣人組ね。会話内容からしてぐっさんが嫌がっていたのはコレかと納得した。勝手に売られんのなんてそら誰とて嫌だわ。しかし体格の良い獣人組に勝てるかどうか……と考えたって仕方がない。この度筋肉に洗脳は関係ないと知ったので、私はちゃんと学んだ効果を試すことにした。

「んっン゛ン……ブッセツマーカーハンニャーハーラーミーターシンギョウー」
「は?」
「カンジーザイボーサーツギョージン」
「は?え?なに?」
「ハンニャーハーラーミータージ」
「詠唱?」
「こんなの聞いたことねえぞ」
「ショウケンゴーウン」
「やべえ、やべえって」
「カイクウドーイッサイクーヤク」
「今年のオクタやべえ!」
「逃げろ!」

「シャーリーシ、…………よし勝ったオーケー問題ねえぜタコちゃん」
「は??」

ジャケットをとるとぐっさんは宇宙を背負った顔をしていた。状況を呑み込めていないらしく「何だったんだ今のは」「呪い?」「陸は意味不明だ」とぶつぶつ独り言を言っていた。

「いやー助かったよね。あそこまでしか覚えてないから、もしまだいたら誤魔化すしかなかったわ」
「いや、意味がわからない……あなた……何者なんです?」

すっかり涙の引いた目を大きく開けて私を見る。何者……カルト教団に迷い込んだパンピーです、とは言えず、君の同室者ですッと笑うとぐっさんはまた宇宙を背負ってしまった。そのあとぐっさんが宇宙から帰ってくるまで蛸壺よろしく頬をつついたりしていたら、逃げた獣人組に言われてやってきたクル先に獣人及び人魚いじめだと思われ反省文を書かされたのは大変遺憾の意である。

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