- ナノ -

mission1,

俺はナマエ、どこにでもいる20代の普通の男だ。中肉中背中筋肉、顔は……顔面なんざどうでもいいんだよ、男の価値は顔面じゃねえ。生まれはスコットランド、育ちも途中までスコットランド。途中からはほぼホグワーツにいたし、卒業してからすぐ就職したもんで家にはもう長年帰っていない。母ちゃんのあったかいスープが食いたくなる毎日だ。……ちょっとマザコンが入った男なんていくらでもいるだろ?
それから職業と能力が、マア、若干珍しいモンではあるだろうが、基本はどこにでもいる青年だ。ちなみに優しくて金を持ってる彼女募集中。将来の夢はヒモか石油王。夢はでっかく無限に持たねえと人生の楽しみが味わえねえってもんだ。
とはいえ、こんな監獄でそんな夢を持ったところで実現出来るかは別なんだけどよ。

俺の職業。監獄ってワードで既に察してくれたと思うが──ああ、中にいる方じゃねえぞ?外だ外、俺は犯罪歴なんていっこも無いんだ。安心してくれ。

「よぉナマエ、今日の飯はなんだ?」
「あらやだレイプ犯のジャッジくんてば、さっき食べたばっかりでしょ」
「あぁ?女はどこだ?」
「ここには殺人歴しかないおっかない女しかいねえって」
「どこだ?」
「うーん西棟の7階とか?」

ちなみにその部屋にいる女は悪い噂しかないし本人もぶっ飛んでることで有名なベラトリックス・レストレンジだ。俺ジャッジくんには抱けないと思うよ。アソコ噛みちぎられそう。ヒッ、想像しただけで恐怖だぜ。

そんで話は戻るが──つまり、俺は看守ってわけだ。
別に元々看守になりたくてなったんじゃない。そのへんはドラマチックな過去があるわけよ。でも秘密。ミステリアスな男ってモテるだろ?

俺は東棟担当なんだが、うちはだいたい頭がイッてる奴が集められてる。元々精神病とか、吸魂鬼のせいでやばくなった奴とか。
さっきのジャッジくんもそうだ、あいつはレイプで捕まったっつーのに本人は禁忌魔法を使ったからって言ってる。スクイブなのに魔法が使えるわけねえんだよな。ちょっとしんみりしちゃう。ちなみにジャッジくんのママはやべえ奴ばっかりの西棟に収監されてるっつー犯罪親子だ。しんみりもぶっ飛ぶね。

朝の巡回で部屋を一つ一つ見て回る。
「やあ、おはようサリー」「あ…あう……うばぁ……」サリー坊やは今日もベッドが涎まみれ、今日もランドリールームのしもべ妖精が洗ってくれるだろう。「ああああ」「るっせ……おはようございます、アー……今日は便器?」「オデ…ぁあ……ウアアア」ランドルさんは便器を噛んだせいで歯茎が出血。昨日はベッドのパイプだった。うん、今日も朝イチで医務室だな。「どうもタリバン、…ワァオ、関節柔らかいのはいいけど脱獄は無理だからね」「フフッ」それからタリバンは綺麗なブリッジでお出迎えしてくれて、スミスの野郎は「バーバラ、バーバラ」と自分が殺した嫁の名前を話し続けていた。「いい朝だね、スミス」「バーバラ……バーバラ、バーバラ……」「はははそうだね」俺バーバラ語わかんねえんだけどさ、スミスの野郎と話してるとわかってくる気になるよな。気のせいでしかないんだけどよ。それから──

「おはようブラック。おい、生きてっか?」
「……ああ」

こいつ、シリウス・ブラックだ。ぶっちゃけこいつがうちで危険人物NO.1と言われている。

シリウス・ブラック、30代男、闇の魔法使いの家系で有名なブラック家の長男。投獄されたのは13年前で、罪状は殺人罪。しかも大量、それもマグル相手に起こしたもんで、無期懲役が決まっている。これでアバダでも使ってたら即死刑だったんだろうが、こいつが使ったのは爆発魔法だったから無期懲役、終身刑だ。
当時のその事件は俺もよく覚えている。丁度ホグワーツに入学する前で、新聞を見た親からホグワーツに行くのをやめろと何度も言われた。実際事件で恐怖しホグワーツに来なかった生徒だって大勢いるらしい、そのお陰で俺の同級生は少ない。

「飯は?……まァた食ってねえのか。お前なあ、まずいのは知ってっけどそんなちょびっとしか食ってねえと死ぬぞ。栄養失調で死んだ死喰い人なんざお恥ずかしくて公表出来ねえよ」
「俺は死喰い人なんかじゃねえ!」
「うわっ……アーハイハイ、悪かったって」

出た、コレだ。ブラックの野郎はイカれてる。死喰い人じゃねえ、俺は無罪だ。そう13年前に投獄されたときからずーっと、ずうーーーっと主張し続けている。ならなんで魔法族の親友と無関係のマグルを大量に殺したんだっつーな。

しかしイカれ野郎ではあるが、この東棟ではこいつが1番話が通じる奴でもある。多少癇癪を起こしやすい質ではあるが、バーバラ語を話すでも無く、自傷癖があるわけでもない。むしろ普通なのだ。
吸魂鬼がうじゃうじゃいるここでは精神を病まない奴の方が希少で、看守でさえポコポコ辞めたり死んだりしていく中、ブラックはあまりにも普通の男だ。
危険人物NO.1だから、独房なのは当たり前。監視は他よりも厳しいし、吸魂鬼が来たら密室で顔を合わせなきゃならねえ。そんなこと滅多にねえけど。しかしそんな状況だっつーのに、まるでここが普通の家のように、毎朝新聞を要求し、時には見回りの看守と談笑さえする。

……な?危険人物だろ?普通なら今頃自ら吸魂鬼にキスしてるレベルだ。しかもそれが13年。もはや人間じゃねえ。

「…ああ、怒鳴って悪い。今日の新聞は?」
「オウ、俺も変なコト言って悪かったよ。ほれ」

ブラックな毎朝新聞を読む。俺が来る前は看守の気まぐれでたまにしか読めなかったらしいが、俺が来てからは毎朝読めるようになって嬉しいと以前ガリガリのおっかねえ顔で笑っていた。俺はこういう普通の優しさも持ち合わせてるっつーのに可愛いあの子の笑顔も見れねえんだ。今頃初恋の相手ジェシーは3児の母だわ。

ブラックが読み終わるまで、俺は奴が残した朝食をちびちびとつまむ。
固いパン、冷えたオニオンスープ、脂の固まったソーセージとスクランブルエッグ。
この東棟では数少ない普通の朝食だ。他の囚人は、自殺防止のためパンだけとか、アゴが馬鹿になって噛めねえからべちゃべちゃのポリッジとか、そんなんばっかだ。聖マンゴの病院食の方がまだマシだぜ。

「いいよなあエジプト、俺も旅行券……いや500ガリオンくらい当たんねえかな」

新聞の見出しにでかでかと載った運の良い家族の写真。懸賞をやるにもまず看守を辞めねえとならねえのがなあ。ここは看守囚人共に手紙の1通さえ全て魔法省を経由しないとならねえ面倒なシステムになっているから、俺が懸賞ハガキなんて出したら即上官にバレてぶん殴られるのがオチだ。当選確定なら今すぐ辞めてえ。
不味いソーセージを飲み込んだとき、突然ブラックが笑い出した。そんな面白い記事は無かったと思ったけど。

「あのネズミ……!見つけた、ついに見つけたぞ、はは!こんなところでも見つかるとはな!」

「…………ついに気が狂ったか…数少ない話し相手だったんだけどな…聖マンゴにぶち込むことも出来ねえ世の中じゃなあ…」

危険人物NO.1とはいえ会話が成り立つというのは、俺にとってメッチャ嬉しいことだったが……ついにブラックまでもが……。そうだな、13年だもんな。仕方ねえよ。よく頑張ったって。この感じだと来月あたりには舌噛みちぎるかもしれねえな。

俺はメモを取り出し、上官に報告すべく『囚人番号YZ390 精神異常の兆候あり』と書きとった。