- ナノ -

mission3,

ブラックの誘いに乗り、あいつの脱獄の手伝いをすることになった翌日、俺はまた巡回と称し眠い目を擦ってブラックの独房に来ていた。作戦会議っつーやつ。
俺の500ガリオンのためにも、ブラックには早く脱獄してもらわねえと。


アズカバンは孤島だ。孤島の監獄、脱獄出来る奴なんてほぼいない。造り自体そのへんのマグルのショボい刑務所と違うからな。
看守はだいたい常駐で5名、それぞれ四方の棟と監視塔に1人ずつ配置されている。人は少ねえが、監視の吸魂鬼がいっぱいいるお陰で成り立つセキュリティだ。吸魂鬼は大量にいすぎて数は把握してねえ。看守長あたりならわかるかもしれない。俺は知らない。
四方は西、東、南、北、と棟が別れており、監視塔はもちろん中央。中央に大事な情報が眠ってるわけだ。マグルの爽快アクション映画ならだいたい爆発されるところな。でも監視塔は宿泊棟でもあるから、夜中に爆発されちゃうと俺死んじゃうんで却下で。
四つの棟の中で最もやべえ奴が集められているのが西棟、闇の魔法使いばっかり。で、俺は東棟担当。そうだな、うちはだいたい頭がイッてる奴が集められてる。元々精神病とか、吸魂鬼のせいでやばくなった奴とか。

「待て、……俺は精神異常だと思われてたってのか?」
「13年もいて未だ無罪だって主張して、吸魂鬼がうじゃうじゃいるっつーのに他と比べて普通に過ごしてりゃ精神異常だと思われんのも当たり前だろ。看守でも病むんだぞ」
「ナマエは変わらねえじゃないか」
「だって俺は吸、──いや、なんでもねえ。続けるぞ」

懐に入れてきた俺の夜食のサンドイッチを食べているブラックは、マヌケにもパンくずを頬につけて不服だと眉間に皺を寄せた。

セキュリティ的な問題では、南棟が1番ゆるい。2番目にゆるいのがここ、東棟だ。南棟の囚人は罪が軽く刑期が短かったり、魔法が弱かったり、もう死にかけだったりする奴らが入ってる。
さっきも言った通り東棟は精神異常者ばかりだから、色んな罪状がある意味で揃っているが、精神的にも色んな奴がいるわけだ。脱獄されるより、自ら吸魂鬼にキスをしたり自殺されたりする方面の危険を重視されている。だから、ラッキーなことにここは吸魂鬼の配置されてる数も比較的少ないんだ。

「あれだけいるのに、か?」
「西なんてここの倍はいるぜ」
「……俺が精神を保てたのも、そのお陰か」
「それでもお前は異常だっつの」

俺の考えている作戦はこうだ。
決行は深夜、俺が最近巡回していることを知ったブラックが、病気のふりをして俺を呼ぶ。で、俺はまんまと騙され襲われて気絶、ブラックは脱獄。単純だが1番やりやすい方法だ。

「待て、そんなことで脱獄出来るほど楽じゃねえだろ」
「黙って聞けよ」

俺は事前に吸魂鬼の入れ替えの時間をずらしておく。どっちにしろ担当は俺だ、檻の操作は簡単に出来る。その代わり、俺が倒れたあとは魔力が感知されて一斉に檻が開放されるから、そこからはブラックが頑張らねえとってトコロ。
それから逃げ方だが、

「待て、吸魂鬼に入れ替えなんてあんのか?初耳だ」
「あいつらだってロボットじゃねえんだから体力の、っつーか、魔力の限界くらいあるわ」
「ロボット?」
「脱獄して自分で調べろ」

話を戻すぞ。
逃げ方だが、そこが1番難しい。
アズカバンの中では姿現しは出来ねえように造られているし、唯一の出入口は外か地下だ。囚人は基本海を渡って収監され、内部の人間は地下の暖炉か、事前に用意されたポートキーから移動することになってる。
──だが、その行先は魔法省だ。

「無理だな」
「無理だろ」

どう考えてもその方法はありえない。却下だ。
俺とブラックは頷き合い、話を続ける。

やりやすいのはポートキーを作ることだ。ただ、これはリスクが高い。俺はポートキーを作れるけど、着地点の危険性とキー自体がどうなるか。下手な場所に設定は出来ないし、かといって座標を間違えれば結果はドブに終わる。俺は首切られて檻にぶちこまれ、ブラックは吸魂鬼と最後のチューだ。ブラックのことはどうでもいいが俺が檻に入るのはぜってーいやだね。
うまくホグワーツの近くに置けて、ブラックがキーを破壊してついでに俺の杖も破壊してくくれば十分だが……。

「行けるか?」
「いや、いい。そこまでお前が危険を犯す必要はねえ、俺は泳いでいく」

「──……ハイィ?」

「俺は、泳いでいく」

何言ってんだこいつ。何言ってんだこいつ!心底信じられねえ。
ハア?泳いでいく?アズカバンから陸までか?泳いでいくのか?

「お前やっぱり気ィ狂ってんじゃねえの?」
「俺もアニメーガスだ、問題ねえよ」
「理由になってねえよバカ」

アニメーガスは万能じゃねえだろ。途中で溺れ死ぬのが落ちだ。というのに、ブラックは大丈夫だと謎の自信に満ち溢れている。どっから来るんだよその自信は。

「大丈夫だ、俺を信じろ」
「クッサいセリフ汚ねえカッコで言われてもなあ……」

ふーん……ま、失敗してもブラックのアニメーガスもしくはブラックの死体が岸に上がるだけか。俺は多分しばらくの減給くらいで済むし痛くはな──

……いや痛いじゃん。めちゃめちゃ痛いじゃん。減給の上に500ガリオンも無いとか俺に損しかないじゃん。だめだ、俺はちゃあんとブラックをホグワーツまで行けるようにしてやらなくちゃならねえ。そう、俺の500ガリオンちゃんのために!
俺はうむとひとつ頷いた。

「よし、魔法を使おう」
「……スクイブだったのか?」
「んなわきゃねえだろバッキャロー。俺は数多くの偉大な魔法使いを排出したスリザリン出身の優秀なナマエくんだぞ!」
「なっ、お前スリザリンなのか!?クソッ!」
「はぁ〜?なんなんですか、寮で喧嘩売ってくるとかマジグリフィンドールだわ〜協力してやるっつってんのに何様なんですかあ〜?」
「…………500ガリオン」
「ブラック様ですよねえ生意気言ってすいませんヘヘッ」

心底イラッとくる精神異常野郎だが、俺は500ガリオン様の前ではひれ伏すしかない平民なのでブラックからサンドイッチの半分をぶんどって我慢した。そもそもこれ俺の夜食だし!
でもパンはパサパサだしレタスはしなしなだしまっずいから一口食ってやっぱりブラックにサンドイッチを押し付け、俺は説明することにした。

俺の作戦はこうだ、第2弾。
ブラックが出ていくとき、俺の杖を持っていく。すると俺はブラックに杖を奪われ抵抗出来なかったというそれなりにわかってもらえる理由が出来るし、ブラックは俺の杖を使って吸魂鬼を退かし箒とかで外に出て、アズカバンから出ちまえば姿くらましが出来るからそうすりゃあとはなんとでもなるだろ。
うわ…この案完璧じゃん……俺ってば天才じゃね……?
褒められるだろうと期待を込めてブラックを見る。奴はなんかこう、ぽかんとしたような間抜けな顔をしていた。

……もしかして魔法使えない系?呪文忘れちゃった?でも元闇祓いなら無言呪文くらい出来るだろ?おじいちゃん忘れちゃったの?

「まあ、13年だもんな……仕方ねえか……」
「いや、いや、違え、そうじゃねえ。……お前、杖持ってたのか」
「俺はな。囚人にバレたら盗まれるから隠してんだよ。ちなみに俺の同僚でかの有名な西棟担当のロブはスクイブだから杖を持ってねえけど、その代わりあいつには屈強すぎる肉体があるからあっちの方が注意だぜ」

だからもっと早く奪っとけばよかったって顔やめてくださいね500ガリオンのブラックさんよお。
やっぱりむかつくのでピシリとブラックの額にデコピンをしてやった。くらえっ、俺のスーパーウルトラデコピン!