- ナノ -

after mission,

シャバの空気は上手い。どこを見ても吸魂鬼はいないし。夏でも冬でも季節関係なく寒くないし、いや冬は寒いけど、腸を掴まれるようなゾッとした寒さじゃねえ。凶暴な女なんて滅多にいないしなんなら大体可愛いし、酒はアルコール度数バカみたく高くないし、飯だって熱々が食える。

最高。
シャバ最高。
俺別に囚人じゃかなかったけどシャバ最高。
結論から言おう。一年頑張ったけど俺には無理だった。

ダメだよお…毎日殴られる生活なんて耐えられねえよお…美人なおねえちゃんのおっぱいに殴られるならまだしもゴツイおっさんの拳なんて……。
一年も耐えた俺だけど無理なことは無理だ。辞めるとなった決めてはアレだ。男の尊厳ってやつだ。顔がボコボコになって原形がわからなくなっても耐えられたが、流石に掘られそうになるとは思わなかった。えっ前から可愛いと思ってた?ほんと?俺可愛い?ふざけんなよ殺すぞ。おねえちゃんに言われたら「えへへほんとぉ」とかてきとうにリップサービスたっぷりするが野郎に言われて喜ぶ野郎がどこにいるんだよ。少なくとも俺ァ無理だ。
そして耐えられなくなった俺はそいつを殴り倒し、逃げるようにポートキーを使って魔法省へ飛んだ。魔法省で泣き喚く顔面ぐちゃぐちゃ野郎の噂は母校まで届いているかもしれない。恥だけど俺は俺を守った。男にはやらねばならないときがあるんだよお嬢ちゃん……。魔法省も俺がそんなんなってると知らなかったらしくて職務違反がどーとかで騒いでくれ、俺は無事労災扱いで聖マンゴにぶち込まれた。お陰で顔も元通り、体も元通りだ。おかえり色男。誰がなんと言おうと俺が色男だと思ってたら色男だろ?前にも言ったが男の価値は顔面じゃねえんだ。とはいえ鏡の中にいたモンスターとはお別れだぜ。お洒落に髭とか生やしちゃう。

ルンルン気分で聖マンゴから退院した俺が向かったのは実家、の前にグリンゴッツだ。俺の500ガリオンちゃんが待っているはずなんだ。
シリウス・ブラック?あんな奴知らねえ。元はと言えば全部あいつのせいじゃねえか。あいつのせいで俺は結果的に職を失ったし、俺の苦労は500ガリオンなんかじゃ足りねえってんだ。
つうかあいつどうしたんだろうな。脱獄したあとの情報が俺には何も入ってこなかったから、奴が今逃亡継続中なのかマジで冤罪で今は堂々と表を歩いているのか全くわからん。わからんし今になっては500ガリオンが振り込まれてるかだけが問題だ。と、思っていたのだが。

「ナマエ!こっちだ!」
「うわ」
「おい無視するなよ」
「うわうわうわ」

出たなシリウス・ブラック!!グリンゴッツの前で待ち伏せするたぁ卑怯なヤツめ!しかし結局杖は返ってこなかった俺に元闇祓いのパワーを凌駕することは出来なかった……。

「無視すんじゃねえよ、俺たちの仲だろ?」
「は?お前なんか知らねーよばーかばーか。500ガリオン寄越せ」
「仕事辞めるのかと思ってたがなかなかやめねえし、俺は一年バカみたく待ったぞ」
「ハァーン?元はと言えばお前のせいですけどぉー???」

どすりと脇腹を突くとやり返された。クソ痛えぞゴリラかよ。げほげほと咳き込むと途端にオロオロしだした脱獄犯はちょっと面白かった。ブラックはどういうことだ?と声を潜めて聞いてくる。が、ここはグリンゴッツ銀行の前だぞ。俺は今何よりも優先しなければならないことがある。

「テメーちゃんと500ガリオン入れただろうな」
「もちろん。見に行こうか?」
「行くに決まって……いやなんでついてくんの?」
「なんでダメなんだ?」

お前人の口座見たいの?やっらしー。俺の給料見て笑おうとしてんだろ。明細は見せねえからな。そう念押しして、ゴブリンに汚いものを見る目で注視されながらついた俺の口座にはジャンジャラ金があった。ヒンッッッ。目をひん剥く量だ。

「小鬼さん、これ全部でいくらあるの……?」
「1060ガリオンになります」
「せっ……俺そんな給料高くねえよ!?労災ってそんな値段だったっけ!?」

急いで明細に目を通すが俺の給料は悲しい値段だし労災もそんなにない。というのに、一年ほど前に1000ガリオンが振り込まれていた。目が飛び出るかと思った。俺は急いで俺の口座の奥で俺の黒歴史彼女とのアルバムを見て「趣味が悪い」とか言ってるブラックの首をとっ捕まえる。

「おおおおまおまおまおまマーーーー!!???」
「魔法生物の真似か?」
「うるせえ!なんで1000ガリオン!?にばいじゃん!?」
「それは……ナマエ、聞いてくれ」

ナマエのお陰で俺はホグワーツへ行くことが出来た。ハリーを助けることが出来て、憎きピーターを罰することも出来た。リーマスとの仲は修復されて、ハリーからはシリウスおじさんと呼んでもらえて、俺の幸せはお前がきっかけなんだ。

「それがどうした!?それでにばいか!?ちっくしょうだったらもっと恩売っとくべ……ハッこれもう返さねえからな!?」
「……ふっ、お前は本当に決まらない奴だな」
「うるせえ」

俺はお金がたっぷりの明細を抱きしめたっぷりの金貨をじっと目に焼き付けた。んふふふふふ。

俺はナマエ!こっちはブラックからもらった1000ガリオン!
このあとなんかあっという間にお金無くなっちゃって泣く泣く再就職しようとしたのに元看守は縁起が悪いとか言われて路頭に迷いつつあったところブラックに拾われブラック邸でしもべ妖精に仕事教わったりかの有名なハリーポッターと友達になっちゃってアズカバンでのブラックのこと喋ってブラックからエルボー食らったり我らがスリザリン寮監殿に「この屋敷で全裸で走り回ったら貴様をすぐに闇の帝王の前に引きずり出す」とか脅されちゃったりダンブルドア先生に「もう泣き止んだようじゃの」とか言われて顔真っ赤になっちゃったりするけど、とりあえず俺は元気です!