何千年先も待ち続けるさ

月が雲の中に身を潜め、あたりは暗く湿った空気で少し生臭い匂いがする。空を見上げ、明日は雨かとため息を吐いた。ドラゴンたちは雨を既に知っているようで、普段ならば今の時間帯でも地面を轟かせるような鳴き声がわんさか聞こえるが今日は巣穴に潜り込み静かに地面が震える程度だった。

「よぉチャーリー、お前のマドンナからラブレターだぜ」
「なんだ、ドラゴンが手紙を書いたのか?」

夜勤の見張り役と交代する際、軽く肩を叩かれ少し草臥れた白い封筒を渡された。少し端が折れており、3日に一度届けられる手紙たちの中にもみくちゃにされたのだろう。

「ミスオリバンダーがドラゴンならそうだろうな」
「ナマエ!?」

よくナマエに手紙を書いていることを知っている同僚がカラカラと笑う。急いで中を開けると、ナマエの少し跳ねた独特の文字が飾り気のない便箋の上で舞っていた。

" 後輩、チャーリーへ

 拝啓
 久しぶりだねチャーリー、いつも手紙をありがとう。
 先日店でマクゴナガル教授にお会いしてね、教授が君に元気そうで何よりと伝えて欲しいと仰っていたからこうして手紙を書いたんだ。私が君に手紙を書くのは何度目か覚えていないが、かなり久々のことなんじゃないだろうか。ここ1ヶ月は君からの手紙が来ていなかったから君は私に気をつかってくれていたのかと思っていたのだけれど、君のお母上からはまだ居場所を知らないようだと言われたんだ。もしそうでまた私に手紙を書いてくれるのなら、せめて手紙の頻度を少なくしておくれ。君からの手紙だけでレターボックスのスペースが全然無いんだ、そろそろ拡張魔法も限界だよ。どうして君がいつも私の居場所を知っていたのかわからないけれど、3日に一度は多かったかな。まるでストーカーだ、アフリカの森にも来たときは君が少し怖くなった。梟を酷使するのはやめてあげて。

 私は今祖父の店に身を置いているんだけれど、お客さんが楽しい人ばかりなんだ。中でも先日来てくれたセドリックという紳士殿は素晴らしい方でね、君と違ってしっかり杖を大事にしてくれていたよ。君と違って杖も定期的に磨いてくれていてね、私が説明したら食いついて真剣によく話を聞いてくれた。君は自分も杖を定期的に磨いているというだろうけれど、ただの布で数回コシコシと拭くのを年に一度やる程度、磨いているとは言わないよ。折角ルーマニアにいるんだから雪解け水の雫くらい使ったっていいんじゃないか?使わないというのなら私に送っておくれ、今は水魔の汗入りを使っているんだけれど私の梓はそれほど好きではないらしい。杖自体の状態はいいんだけどね、やはり雪解け水の雫が一番のようだ。

 実はこの前から少し祖父と喧嘩をしていたんだ。やはり根本的に考えが合わなくて。君はそれを予想していたらしいね、可愛い双子から聞いたよ、君はなんでもお見通しだとね。流石に気持ち悪いからやめておくれ、君はいい加減私から目を離すべきだ。まあ、それは置いておいて。昨日、なんとか祖父と仲直りすることが出来てね、説得も成功して店に少し、ほんの少しだけだけれど杖に関する用品や私の作った杖を置いてもらえることになったんだ。難しい顔はしていたが、それでも認めてくれたのは事実、今の私は自分から君に抱きついてもいいくらいには機嫌がいい。 ……例え話だよ。

 君のご家族にも漏れ鍋でお会いしてね、驚いたよ、みんなすごく大きくなっていた。けれど君ほどじゃあないね、君はウィーズリー家ではダントツに大きいらしい。ロンは今年ホグワーツ入学だと聞いたよ、杖が君のお下がりだともね。少し見せてもらったが目を疑った。君、一体どんな使い方をしていたんだ?あんな状態になるなんて普通なかなかない。信じられないね、君は杖よりも箒がいいらしい。
 それから置いておいた話を戻すけれど、ジニーたちがすごく勘違いをしているようなんだ、君は何を彼らに言ったんだい?私は君と結婚する気はないよ。君も遊んでいるだけだろう、いい加減私を蓑にするのはやめてくれないか。ルーマニアの女性でいい人はいないのかい?早く家族を安心させてあげなよ。

 じゃあ、身体に気を付けて。
 杖は大事にするんだよ、今度もあんな、杖芯が出るような状態にしたら私が君を殴りにルーマニアまで行くからね。

 敬具
 ナマエ・オリバンダー”

「ふっ、ふふ、あははは!」

ナマエらしい文章だと思った。手紙を書くのは何度目か、とあるが、実際いつも自分が先に出した手紙の返信がごくたまにされるだけで、ナマエの方から出してくれた手紙はこれが初めてだ。オリバンダー、在学中から見慣れたサインをなぞる。ずっと自分の気持ちを知っているくせにのらりくらりと腕の中に収まってくれない彼女は、これからはずっとあのダイアゴン横丁にいるんだろうか。ならば会いに行き抱きしめなければいけない。ナマエのカナリアの細い髪にキスをして、彼女の白く淡くハーブの香りがする首元に鼻を寄せて、周辺の魔法使いを牽制しなければ。ナマエのダリアのような笑みを見てその気になる魔法使いは多いはずだ。彼女は色々な人によく笑う。チャーリーはナマエが数ヶ月前にルーマニアに来てから一度も見れていないというのに。悋気を抑えチャーリーは返事を書こうと便箋を呼び寄せる。

「あらチャーリー、あなたの愛しのドラゴン?」
「ああ、よく抜け出してしまうやんちゃなドラゴンだよ」
「ふうん、いいわね。 ……けれどもう首輪は外されてるんじゃあないかしら」

炎のように赤いリップが弧を描く。チャーリーは笑って否定した。可愛い妹からから聞いているのだ、ナマエの耳にはシルバーがいると。自分の耳たぶを触り、ひんやりとした金属の感触を確かめる。熱くなった指先がさらに熱をもった気がした。

「近くのいい女より遠くの蜃気楼がいいって言うの?」
「まさか。ダイアゴンにいるあの子がいいのさ」

だから、まずはセドリックが誰なのかを問い詰めないとな。手紙の書き出しに愛するナマエへ、と綴り、オリバンダーのカウンターにいる彼女を想像して赤毛はうっそりと微笑んだ。

end.

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