嘘になるけど

「聞いてよナマエ、僕の杖チャーリーからのお下がりになっちゃったんだ」
「もう、ロン。ロンったらずっと文句言ってるのよ」
「当たり前だろ、僕の杖が欲しいのに!」
「私だって誰かのお下がりになること間違いないのよ」

ロンがぶーと膨らませた頬を、顔を上げたナマエがベシベシつつく。やめてよ、と手を払うと彼女はおかしそうに笑った。その笑みにジニーがホッと息を吐く。

「どんな杖だったっけ」
「これだよ」

鞄から出して杖を見せる。モリーがロン、こんなところで、と言ったのを手で制してナマエが杖を受け取った。

「うひゃあボロボロ、どんな使い方をしたんだか。 ……へぇ、一角獣の尾にトネリコ、33cmくらいか。くせが強い」

杖を持つとナマエの目つきがガラリと変わった。目の奥が楽しそうにコロコロと動き、杖の色々な場所を見ていく。

「そうなの?」
「うん、トネリコは弾力性が強い。だからよく一角獣の毛が合わせて使われるんだ。一角獣の毛は魔力がストレートに出やすいからね、おそらくこれは基本的に筒の中でバウンドさせて出すようにしてたんだろうけど──この状態じゃあ厄介だ」

ナマエの杖話が始まってしまった。ロンはそういやそうだった、とげんなりする。昔からナマエは杖の話をさせると長いのだ、家で楽しそうに聞いてたのはチャーリーとパーシー、それからジニーくらいだった。パーシーはともかく、ジニーはナマエが触らせてくれる杖に興味津々なだけだったし、チャーリーに至っては楽しそうなナマエを見ていただけだったが。弾力性とか言われても、とロンはストローを吸う。

「それに元々チャーリーのだろう?あいつの魔力に合っていたからと言ってロンの魔力に合うとは限らないんだ。性質は似ててもタイプは違うし、それに杖自体がボロボロ。買い換えてもらえるまでしばらく疲れやすいかもね、頑張って」
「ええっ、そんなのやだよ!ねえママ、買って!」
「だめよロン、我慢してちょうだい」

ナマエの言葉を笠にモリーに言うが、モリーはそんなお金はありませんと首を振る。返された杖を持ったとき、ロンはそうだ!といいことを思いついた。

「それならナマエが治してよ!修行してきたんでしょ?」
「だーめ、じいちゃんに杖を見るな!って怒られたから」

苦笑したナマエの返答にがくりと肩を落とした。僕が新しい杖を買ってもらうまで?そんなの何年先だろう。いつか僕だけの相棒に会いたいなあ、とロンは拗ねながらまたストローを吸った。
ナマエの話に興味を示したのはジニーだった。

「それでナマエ、ここでお酒飲んでるの?」
「そうだよジニー、残念ながら追い出されちゃったんだ」
「一体どうしたの、せっかく帰ってきてオリバンダーさんも嬉しいでしょうに」
「方向性の違いってやつ?私の考え方はじいちゃんとは合わないらしい」

またナマエの不機嫌な顔が戻ってきた。ロンはもう話に興味がなくなったため、ストローをガジガジと噛んで暇を潰すことにした。それを見てジニーがきたなあいと言う。なんだよ、うるさいな、と返すとモリーが喧嘩はよしなさい!と怒った。

「帰ってきてからお客さん相手に色々話してたんだけど、その度に怒られてね。いつまでも古い頭のまま変えようとしない。山査子は確かに回復呪文もいいけど、妖精の呪文だって合うんだ。というのにそれは迷信だなんて、それを言ったら魔法界なんて迷信だらけだと思わないか!?」
「そう、そうね、そうかもしれないわね」
「それに魔力の量や強さは関係無いなんて馬鹿げたことを。人は皆それぞれ持ちえている魔力の量は違う。だからこそそれぞれ特徴が現れるんだろう。ならそれに合った杖がいるのは当たり前だと思わないか?魔力量が関係なかったら杖なんてただの大量生産の棒切れでいいじゃないか!」
「そうね、そうよね、ねえナマエ、あなた少し落ち着いて、」

だんだんヒートアップしてきたナマエの声が大きくなる。あの頑固爺め!と声を上げたところでロンとジニーは、明日にはこのことがオリバンダーさんに伝わってるんだろうなと予想した。この狭いパブであの発言が聞こえなかった魔法使いは耳に意思を詰め込んだトロールくらいだろう。噂の伝達は予想以上に早いし、魔女はずっと喋る生き物だ。近くのカウンターに座る化粧の濃い中年魔女と目が合い、ロンは悪寒がした。

「一体何年杖の仕事をしてるんだ、未だにそんなに考えなんて我が祖父ながら嘆かわしい!そんな考えだから年々杖職人は減って、うわっ!」
「ナマエ!?ナマエじゃないか!」
「なんだって?ウワア、本当だ、ナマエだ!すげえ、生きてたの?」
「──…あ、ああ、双子か!驚いた、一瞬誰だか全然わからなかったよ」

待ち合わせ場所のここに無事についた双子が久々に会うナマエに興奮し抱きついた。どこにそんな力があるのか、ナマエは軽々と二人を受け止め、大きくなったねと楽しそうに笑う。ジニーがナマエを離しなさい!と二人をひっペがした。

「ナマエいつ戻ってきたんだよ!」
「俺たちもう入学しちゃったじゃないか」
「ナマエがタダで杖を作ってくれるのを期待してたのに!」
「やめなさいあなたたち!」
「ふふ、ごめんごめん、杖を作るのはもう少し待ってくれないかな」

今工房に入るのも禁止されてるんだ、というナマエが苦笑する。二人は揃って声を上げ、笑い出した。

「何がそんなにおかしいの?」
「帰ってきたらナマエは絶対オリバンダーさんと喧嘩する!」
「俺達の兄貴は予言者様だったようだ!」
「どういうこと?」
「チャーリーが手紙で言ってたのさ!」
「はあ?」

ナマエが不機嫌そうな声を上げた。それにおっかねえ、と双子はわざとらしく首を竦ませ、近くの椅子を引っ張り座った。

「つーまーり、ナマエのことはお見通しってことさ」
「ルーマニアからだってずっと見つめているようだからな」
「やめて、別にそんなんじゃ」
「そうなの?ピアスもつけているのに?」
「これつけてると魔力が安定しやすいんだよ」
「でも私ナマエがお姉ちゃんになるの楽しみにしてるのよ」
「やめてったら、ならないよ。私は店を継ぐんだから」

ニヤニヤと笑う双子に追い打ちをかける母娘、ナマエがそっぽをむいた。つん、と横顔が晒される。指摘をされたピアスを女性らしくはないしっかりとした指先がぐりぐりといじる。ナマエはそれでもピアスは取らないのだ。カタログを必死に選んでいた自分とそっくりの赤毛を思い出して、ロンは長いなあとため息を吐いた。ルーマニアだって、暖炉一個、姿現しひとつあればすぐに行けることをナマエは知らないらしい。

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