寂しくないと言ったら

ダイアゴン横丁からの帰りの待ち合わせは漏れ鍋にしていた。といっても双子ももう3年生、パーシーも上級生であるため3人は途中から気付けばいなくなり、漏れ鍋に向かうのはモリーとロン、それから末娘ジニーの3人だけだった。
漏れ鍋のドアを開けると汚いパブの一角、端の方のテーブル席にジニーが見知った顔を見つけた。

「ママ、ナマエよ!ナマエだわ!」
「ジニーそんなはずないだろ、ナマエはまだ修行に──ほんとうだ!ママ、ナマエがいる!」
「まあまあ!本当ね、ナマエ、久しぶりだわ!」

元気なウィーズリー家がグラス片手に机に突っ伏すナマエをがくがくと揺さぶる。グラスの中からはアルコールの匂いがして、ジニーはむっと頬を膨らませた。

「ナマエ、起きて!」
「ーーもう、起きてるよ、容赦ないなあ……。久しぶり、ジニー、ロン、大きくなったね」
「ええ、本当にね。ナマエ、あなたいつ帰ってきたの?」
「ついひと月ほど前にね。ミセスモリーも元気そうで何より」

変わらないムーングレイの瞳が優しく微笑む。ロンはナマエの、見つめると心がぽかぽかする目が好きだった。
3人がナマエの座っている席に共に座り、残りの3人を待つ間ナマエと話すのは当たり前のことだった。

「ナマエが帰ってきてたなんて知らなかった!あの子からも何も聞いていないわ」
「……その、あいつが私の居場所を知ってるのは何故?どこへ行っても手紙が来るんだ」
「愛の力じゃない?」
「オリバンダーの店には来た?」
「まだ来てない」
「じゃあまだ知らないんだ、教えてやらないと」
「教えなくていいよ」

疲れた顔をしたナマエがグラスを煽る。はあ、とため息をついた姿が完全に大人の女性に見えて、ロンは少しもやもやした。カナリアの髪は背中まであったのが首元まで切られ、幼いときのように掴むことも出来ない。耳にはチラチラと光るシルバーピアスがあるのを見て、趣味らしいやと思った。
ナマエがジニーとロンにメニューを渡す。

「飲んでいいの?」
「ジニー、我慢してちょうだい、もうすぐ帰るから」
「いいよ、好きなの頼んで。私が出すから」
「やった!私マンゴージュースがいい」
「僕ジンジャーエール」

本当にいいの?というモリーの視線にナマエが手をひらひらと振り答える。
ナマエがトムを呼び、アイスティー2つとマンゴージュース、ジンジャーエールを1杯ずつ頼んだ。

「ナマエ、そんな私の分まで」
「私だって稼げ……稼げては、ないけど、お金をもらうようにはなったんだから」

この杖でね、とナマエは自分の杖を出しおどけるように振る。ロンはその杖を過去のナマエからもオリバンダーの店でも見たことがなかった。

「初めて見た、そんなのじゃなかったでしょ!」
「前の杖は折れちゃったんだ」
「オリバンダーさんが作ったの?」

過去に思いを馳せるように目を細めてすぐ、ナマエは少し怒ったように言う。

「まさか、自分でだよ。じいちゃんが作ったら不死鳥の羽根か一角獣の毛かドラゴンの心臓の琴線のどれかだ。そんな限られた芯と木だけが杖じゃない、それなのにーーああ、また気分が悪くなってきた」

ナマエはグラスの残りを飲み干しダン!と勢いよく机に置いた。近くの席の男がうるせぇぞ!と声を張り上げる。
何やら不穏な雰囲気だ、とロンとジニーが目を合わせた。

「そういえば確かに、オリバンダーさんのお店でほかのものを見たことがないわ。どうしてかしら?」
「じいちゃんはひいじいちゃんがケルピーの毛で作っているのを見て育ったから質の悪い材料はダメだっていってるんだ。質の悪い芯なんてない、ランクが上なら上であるほど魔力は強いのにさ。ケルピーだって選んだ木との相性とか、作り方とか、そんなものが悪かったんだ。そもそも元は水魔だぞ!木は水に強いものを選ばないとダメになるに決まってる! ──だというのに信じこんじゃって、不死鳥と一角獣とドラゴンの心臓の琴線しか使わないし。挙句持ち主は杖の意思との相性で決まるのだって。魔力の相性だってのを一向に受け入れてくれないんだ。木に意思はそりゃあるさ、でも意思だけで決まるものじゃない。 ……もうやんなっちゃうよ」

モリーが火に薪をあげてしまった。また机に突っ伏したナマエの背中を、モリーは優しく母のように撫でる。ちょうど飲み物が来て、喉のかわいていた子供たちは一気にストローを吸い込んだ。

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