置いてほしい

私を、私を杖が選んでくれたわ!嬉しい、と杖を抱きしめると、杖もふるふると震えたような気がした。
すぐに決まるなんてすごいのね、と母が感心した。7ガリオンを支払うと、ハーマイオニーの杖は箱にしまわれ、インディゴの袋に入れられた。それを大事に受け取って鞄に入れる。
母と共にじっと見守っていたマクゴナガル教授がナマエに話しかけた。

「驚きましたよ、帰ってきていたのですね」
「ええ、ついひと月ほど前に。他の教授とはもう会ってるからてっきり聞いてるのかと思ってましたよ」
「では秘密にされていたようです。ルーマニアには?」
「……その質問をまさかあなたにされるとは……。当然行きましたよ、修行、ですから」
「それはそれは。元気そうで何よりと伝えてください」
「なんで私が……」

マクゴナガル教授の言葉に、ナマエは悔しそうに、手紙くらいなら妥協します、と小声で言った。ハーマイオニーにはよくわからなかったが、母はあら、とニコニコしていた。女性2人の温かな視線にナマエはうっと首を竦ませると、ポケットに手を入れてハーマイオニーにキャンディを差し出した。

「ぶどうのキャンディだわ」
「私のオススメ、良かったら食べて」
「ありがとう。 ……あなたの杖はどんな杖なの?」
「私の?これだよ」

ナマエはわざわざ腰から杖を抜いてハーマイオニーに持たせてくれた。つるつるとした肌触りが気持ちよく、手持ちの部分にはハーマイオニーの杖とはまた違った彫刻がされていた。

「これは梓と芯にドラゴンの爪を使った31cm。お嬢さんのものより少し長いかな」
「ハーマイオニーよ。あの、芯って何?」
「オーケーハーマイオニー、説明しよう!」

よくぞ聞いてくれた、と言うような輝いたムーングレイの瞳が熱意を込めてハーマイオニーの手を握る。ハーマイオニーは驚きビクリとしたが、ナマエはそれを気にせず話し出した。店の主人がこほん、と空咳をした。

「杖芯とはその名の通り杖の芯でね、中心部分にあるんだ。そしてその芯と木が合わさって初めて杖となる。芯だけだとただの材料だね、飾りにもならない。芯には主に強い魔力があるものが使用されるんだ。オーソドックスだと不死鳥の羽根や一角獣の鬣あたりかな、ドラゴンの心臓の琴線も昔は多かったみたいだけど最近だと新しいものはあまり見ないな」
「弱い魔法使いが増えて高騰しておる、手に入れることも難しいじゃろうて」
「魔法薬のほうでも同じようで、セブルスが怒っていましたよ」
「私のドラゴンの爪は珍しくてね、ほら、杖を振ってみて。ああ大丈夫、何もしないよ」

言われた通りハーマイオニーはナマエの杖を振る。特に何も感じなかったので彼女を見ると、もっと強く!と言われた。えい、ともっと力を込めて振る。

「……とても、堅い?」
「だろう?ドラゴンの爪は元々堅いんだ、だからあまり柔軟性が無い。梓はよくしなる材料だからあまり合わなさそうに見えるけど、この梓のしなやかさが柔軟性を補って魔法を使いやすくしてくれるのさ。これが──そうだな、例えば葡萄だったらきっと魔法はストレートなものになる。どちらかというと攻撃タイプになるかな、おそらく。しかしこれが逆に柔らかい山査子だったらコントロールが上手くいかずに魔法が飛び散ってしまうかも。杖は、元々の体の魔力を出すためのパイプなんだけど、んん、そうだな──水道管と蛇口って言えばわかりやすいかな。水が魔力だとして、水道管が杖芯、蛇口が木だよ」
「私の杖はどんなタイプなの?」

ハーマイオニーの問いにナマエはふっふーんと得意気にニヤリと笑い答える。

「まず葡萄、葡萄の木はとても頑丈でね、それからドラゴンの心臓の琴線もなかなか強い。元々ドラゴンは魔力がとても強いからね。そうだな、心臓の琴線は細口だけど圧力がある水道管だ。それに強めの葡萄の蛇口だから、両方にセーブがかかりやすいんだ。だから多分、ハーマイオニーの魔力は強いんだろうね、杖も忠誠心が強そうだし。でも27cmもある、だからハーマイオニーはコントロールが上手いんだと思う。あまり水を出しすぎると杖がセーブをかけてくれるし、気心の知れた相棒になる頃にはハーマイオニー自身で水の圧力と量をコントロールが出来るようになる、すごく良い杖だと思うよ」

まるで子供のように語るナマエの話を、子供のハーマイオニーは楽しそうに聞いていた。

そんな2人を見てハーマイオニーの母はあの子がやっていけそうでよかった、とホッと息を吐く。一方オリバンダーの主人が眉間に深く皺を刻み、今にも怒鳴りだしそうな顔をしており、マクゴナガル教授がそれを諫めていた。
3人のそんな様子はいざ知らず、ナマエとハーマイオニーの2人は杖と魔力の話で盛り上がっていた。

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -