どうかお傍に

次は杖を見に行きましょう。マクゴナガル教授の言葉に、グレンジャー母娘は胸を踊らせた。

「杖、杖ですって、いかにも魔女だわ!」
「そんなに慌てずとも杖は逃げませんよミスグレンジャー」

上品に微笑んだマクゴナガル教授に連れられ、大鍋や教科書を抱えたグレンジャー母娘はオリバンダーの店に来た。かなり古い店構えにハーマイオニーの胸は更に高鳴る。紀元前からあるなんて信じられないわ!母の言葉に同意してドアを開けると、ドアベルがカランカランと来客を知らせるよう鳴った。

「いらっしゃいませ、マクゴナガル教授殿。今年は遅かったのう」
「わあ、すごい荷物。いらっしゃいませ、重かったでしょう、今荷物置きを用意しますね」

少々埃っぽいが、年季の入った木のカウンターの中には白髪でギラギラと眼光が強い老人と、同じムーングレイの瞳だが真逆に穏やかで優しそうな女性が出迎えた。女性が腰からランプブラック色の杖を出し、ひと振りすると壁際にポンッとシンプルな木製のバゲージラックが現れる。今日1日ずっと魔法を見てきたが、それでも母は突然現れたそれに驚いて声を上げていた。

「驚かせてすみません、どうぞそこに荷物を置いてください」
「ミスグレンジャー、こちらへ。ミスターオリバンダー、お願いします」
「お任せくだされマクゴナガル教授。ナマエ、杖腕を」

はーい、と女性がカウンターから出てきて、にっこりと笑った。今日は暑いですね、と彼女が杖をひと振りすると爽やかなミントの香りがふわりと広がり、スーッと汗ばんだハーマイオニーの膚をを心地よく冷やす。魔法ってこんなことも出来るのね、すごいわ、と内心ハーマイオニーが今日何度目かの感動をした。ナマエは可愛らしい魔女にもっと感動してもらわねばと袖をまくり杖を振る。

「私はナマエ、早速ですが杖腕を見せてくださいな。利き腕のことだよ」
「は、はい!」
「ふふ、ありがとう」

勢いよく差し出したハーマイオニーの利き腕に巻尺がつるつると巻きついていく。マダムマルキンの洋裁店でもこんな感じだったなあ、と思い出したが、何故杖を買うのにも測らなければいけないのだろう。不思議に思ったハーマイオニーは、測った長さを羊皮紙に書いていくナマエに聞いてみた。

「杖はとても繊細なんだ。指の長さ、手の長さ、腕の長さやそれぞれの太さ、それぞれに合った杖があるから必ず測るのさ。たまに省略する人もいるけど、大体の人が杖に負けてしまったりーー選んだつもりでも実際は杖が選んでいるから、しっかり合ったものを探し出さないと杖に怒られてしまう」
「そうなのね……なんだか緊張するわ。私は杖に選んでもらえるかしら」
「大丈夫さ、なんてったってここはオリバンダーの店だからね。見つからなかったら作ったっていい、ねえじいちゃん」
「そうじゃ、しかしわしにはお嬢さんにぴったりの杖が思い浮かんでおるよ」
「ええっ、どうして?だってあなたはまだ私の杖腕の長さを知らないのでしょう?」
「年の功にはお見通しじゃ」

店の主人とナマエは楽しそうにそっくりな笑い方をした。じいちゃん、ということはこの2人は祖父と孫らしい。とても素敵だとハーマイオニーは目を輝かせた。
羊皮紙を主人に渡し、ナマエがカウンターの奥へ入ると、主人はナマエに何かを言った。するとナマエは杖をひと振りして新しいものから古い箱が沢山積み上がった中からひと箱だけ抜きカウンターに置く。それを主人が開けた。

「葡萄とドラゴンの心臓の琴線、27cm」

蔦のような彫刻がされた杖を渡される。振ってごらん、という声に、宙に円を描くように振ると、ナマエが出したバゲージラックが白のアンティークデザインの物に代わる。

「よろしい、決まりじゃ。大事にしておやり、杖は一度拗ねると大変じゃからな」
「おめでとう、小さな魔女さん」

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