ダメなんだ

「私この子には一角獣が良いと思いますの」

キリリとナルシッサが言う。オリバンダーの翁がおや、と片眉を上げた。
妻の言葉にルシウスが彼女を見たが、何も言わずに腕を組んだ。任せると傍観の姿勢を見せる父に、ドラコも口出しせずに黙ることにした。
オリバンダーの翁はズレたままの眼鏡を外しカウンターに置くと腕まくりをした。

「一角獣のものと、鬣か尾……鬣がよろしいようじゃ」
「……一角獣の鬣、ええと今あるの、は……桜の木、樅、葡萄、山査子……ああ、セコイアもございます」
「全て持ってきてくださるかしら」
「承知いたしました」

ナマエが奥へ入っていき、少しして両腕いっぱいに箱を抱えて持ってくる。その量を見てルシウスがため息を吐いた。ドラコも時間がかかりそうだ、と頭が痛くなった。

しかし、予想に反して杖はすぐに決まった。沢山ある中からオリバンダーの翁は数本だけを選びドラコに渡し、そのどれもあまり悪い反応ではなかったが、翁は次だと試す。
翁が選んだ数本のうちの最後のものは山査子だった。

「山査子の木、25cm。回復呪文に最適」

ドラコが軽く宙に向かって振ると、ちらちらと雪のように白い花が舞う。ナルシッサがほう、と美しさに息を吐いた。ナマエがニッコリと笑い、拍手をした。回復呪文に最適なんて言われても、とドラコは少し不満だったが、既にルシウスが7ガリオンをカウンターに置いてしまった。
ナマエが杖を箱にしまい、インディゴの袋に入れた。その面には金字で "Olivanders Market of Fire Wands since 382 BC" と店の名前が書かれている。見たことのないそれにドラコは少し驚いた。

「それは?」
「袋ですよ。いつまでも箱だけや現品ではつまらないと思いまして」
「素敵ね」

シンプルで上品なデザインにナルシッサが頷いたが、ドラコにはあまりよくわからなかった。
袋に入れられた杖はナルシッサが受け取ろうとしたが、自分のものだからとドラコが受け取ることにした。どうぞミスター、と差し出されたそれを礼を言い受け取ると、ナマエが嬉しそうに微笑む。ドラコのシルバーブロンドより濃いカナリアの髪が揺れた。

「山査子は、アイルランドでは妖精に守られた幸福の木と言われているんです。回復呪文も最適ですが、妖精の呪文や水魔法も扱いやすいかと。古代ルーン文字とも相性が良いんですよ」

ナマエの後ろでこほん、とオリバンダーの翁が咳をした。ナマエは一瞬眉間に皺を寄せるがすぐにまた笑みを浮かべる。
ナルシッサが、ドラコの幼い額を撫でた。

「まあ、それなら3年生では古代ルーン文字学をお選びなさい。妖精の呪文も素敵だけれど、」
「母上、男が妖精の呪文など……」
「ふふ、そうよね、けれど幼いうちくらいは楽しんでも良いのではなくて?」

少し拗ねた表情のドラコにナルシッサは嬉しそうに、少女のような笑みを浮かべた。ルシウスがドラコの背中をぽんと撫でる。両親から揶揄られたようでドラコの頬が少しだけピンク色に染まった。

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