生を受けた

「お目にかかれることを楽しみにしておりましたぞ、ミスターハリーポッター」

ハグリッドに連れられハリーが入った杖の店で、ハリーは困惑した。名乗ってもいないのに名前を知られて、旧知の中のように話が進められる。

「お母上とそっくりの瞳ですな、あの子が杖を買っていったのが昨日のことようじゃ。柳の26cm、振りやすく妖精の呪文に向いておられた。お父上はマホガニーの杖を選ばれた。28cm、変身術にぴったりのよくしなる杖でーーああ、お父上が選ばれたが、しかしあの杖もミスターポッターを選んだのじゃ。本当は杖が魔法使いを選ぶのだから」

まさか、店の杖と客すべて覚えているのか。遠い過去に思いを馳せるように目を細めたオリバンダーの話は続く。ギラギラとした目が少し怖かった。

「その傷──その傷をつけたのもわしの店で売った杖じゃ、ああよく覚えているとも。34cmもあるイチイ製、とても強力な杖じゃ……もしあの杖が世に出て、何をするか知っていれば……」

痛ましい表情をしたオリバンダー店主の視線に、ハリーは少し気まずかった。ハグリッドを見れば、彼も悲痛な表情で今にも泣きそうだ。僕はどうすればいいんだろう、だんだん俯いていく。
カランカラン、年季の入ったドアベルが鳴った。

「じいちゃん、今戻ったよーーあれ、ハグリッドじゃないか!なんだい君、ホグワーツから出ることあったのか!久しぶりだ!」
「ナマエ!ナマエじゃねえか、お前さん今まで何しちょったんだ、え?」
「何って修行に決まってるだろう。ついこの間戻ってきたんだ、これからは店で下積みさ」
「そうだったんか。元気そうで良かった──ああ、ハリー、ナマエ、紹介する、ハリーだ。あの、ハリーだ」

店に黒いローブ姿で入ってきた中性的な女性がハグリッドと親しげに言葉を交わす。カナリアの髪が店に入る陽射しに反射し水面のようにキラキラと光って見えた。ムーングレイの瞳がハグリッドからハリーに目線を移し、じっとハリーの瞳を見つめ綺麗に微笑んだ。

「はじめまして、ミスターハリーポッター。私はナマエ、そこの店主の孫なんだ。──ああ、すまない、その様子だとまた話に付き合わされてたみたいだね。あのじいさん、話し始めると長いんだ。なにせ年寄りだからね、許してやって」
「い、いいえ、僕は大丈夫です」
「ありがとうミスター。その様子だと魔法界ははじめてかい?よし、じゃあ杖腕を見せて。ああ、利き腕のことさ。そこのじいさんは放っておいて、もっと近くへおいで」

ナマエがローブを片手間に脱ぎカウンターの奥へ入る。彼女のローブの下の服装にハリーは少し驚いた。ナマエはダイアゴン横丁に来てから滅多に見なかった、所謂マグルの格好をしていた。ラズベリーより濃い色のワイシャツにライムライトのクロップドパンツ、よく見ると耳元にはシルバーの小さなピアスがついている。

「じいちゃん、ミスターに相応しい杖を選ばなきゃ。彼の魔法界デビューにそんな悲しい色を添えちゃだめだよ」
「失礼しましたミスターポッター、老耄は過去を見ることばかりでのう」

さて、どの杖から試すかな。
オリバンダー店主がそう言うと、ナマエが袖をまくり白い腕を出して腰から杖を出した。オリバンダー店主がブナの木、とだけ言うと、ナマエが店の奥、箱が積み上がり今にも崩れ落ちそうな中へ入っていく。

「ドラゴンの心臓の琴線」
「23cm?19cm?」
「23cm」

ナマエの声にオリバンダー店主が言うと、奥からふよふよと箱だけが飛んできてカウンターにそっと置かれる。それを手早く開けオリバンダー店主はハリーにもたせた。振ってみなさい、と言われ羞恥があったものの振ってみると、何も起きない。店主は即座にそれをハリーから取り上げると、次の杖だと言うように奥からまた箱が飛んでくる。今度はオリバンダー店主が指示を出していなかったのに、と奥を窺い見ると、ナマエがこちらを見て挨拶するようにふりふりと杖を振った。
彼女が杖を振るたびに、杖先からキラキラとした煙がゆらゆらと出る。微かにサフランの薫りがするそれは糸のように伸び部屋中をゆったりと泳いだ。

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