ALBATROSS

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短編「海馬にて待つ」初期

ぶつ切り


今まで世話になった刑務所のみんなから盛大にお別れ会をしてもらい、看守のおっちゃんたちから貰った大きな花束を抱えて網走監獄へ移送されたのは俺、****だ。**くんって呼んでね。
移送中の監視の兄ちゃんたちは花束を抱きしめる俺を奇怪な目で見てたけど、そのうち仲良くなって北海道に着く頃には枯れちゃうはずの花束は俺のわがままでドライフラワーに変身しました。相変わらず甘やかされてる。

しかし、網走監獄ではそうもいかないはずだ。俺は気を引き締めて入獄した。
しかし、思いがけず俺に与えられたのは独房だった。いきなり懲罰……!?と震えた俺だったが、どうやら前の監獄の看守のみんなが網走監獄に便宜を図り俺の環境を整えてくれていたらしい。網走の地では俺の身体が持たない!という内容の何十枚にも及ぶ手紙が来たんだと俺を案内した看守がうんざりそうに言っていたが、俺はみんなの優しさに心が震えた。ありがとうみんな。こうして俺の網走監獄生活はヌルゲーでスタートしたのだった。
網走は雪も深く、風が吹けば肌を刺すような寒さがあったがふかふかの羽毛布団に暖かい毛布とストーブが置かれ、普通の囚人服の上からモコモコの毛皮のコートまで装備された環境はとても快適で俺は本当に刑務所にいるのか?と度々疑問に思った。北海道だから飯は美味いし、煙草くれるし、独房といいつつも看守のみんなが定期的に来ては一緒にお茶を飲んだりお菓子を食べたり、もちろんお仕事もするが野菜を育てたりと健康的な生活で、たまに風邪を引くけどその度に医者を呼んでくれてまた部屋にはお見舞い品がたくさん来る。つまりみんな優しい。しかしその優しさの裏側では囚人たちが脱獄しようと争い血を流したことを俺は知っている。看守の兄ちゃんがたまに入れ替わるのはそういうことらしい。俺は優しい看守が入れ替わる度に羽毛布団先輩の胸に抱かれて震えた。どんなに快適でも刑務所内にいる人はつまりそういう人なのだ。俺は違うけど。俺は!冤罪だけど!
それでもまあやはりのほほんとしていたのは事実だ。だからこそ衝撃を受けた。

「**、協力してくれないか」
「……あン?何をだイ?」
「ここに、今日から一週間とある囚人を隠す」
「そりゃ構わねェが、あンまり危ねェのはよしてくれよ」
「大丈夫だ、お前に害を働くことは出来ないから」

それってどういう意味だろう、なんて思っていた俺は馬鹿だった。

「──邪魔をする」
「おい、勝手に話すな。……すまない**、よろしく頼む」
「………………あ、ア、任せな。よろしく頼むよ、エート……」
「ウイルクだ」

ひゑ〜〜〜〜のっぺら坊こっえ〜〜〜〜〜〜!!!!!!

俺は今でもそのショッキングな見た目に上手く笑って挨拶が出来た自信がない。
まさか一週間同室?のっぺら坊と?なんてこった。俺が網走監獄へ来たのは刺青人皮の囚人が脱獄してから故にしばらく安全だと思っていたのに、物事はそう上手くはいかなかったというわけだ。

のっぺら坊、もといウイルクとは一週間の間に結構仲良くなったと思う。見た目は怖かったけど、ウイルクはいい人だった。ぺらぺらと喋る俺の話をよく聞いてくれたし、俺に色んなことを教えてくれた。 実は、網走監獄のみんなは確かに優しかったけど、たまに意地悪な奴がいた。主なのは犬童四郎助というおっさんだ。監獄のお偉いさんだったが、犬童さんは俺を見る度ぶったり蹴ったり女のようだとか甘えるなとか色々と意地悪を言ってきた。正直犬童さんの言うことは囚人への態度として当たり前のことなのだが、冤罪でぶち込まれてしまった上にひたすら甘やかされて囚人生活を送ってきた俺の精神はとても打たれ弱くなっていた。
たまたまそのタイミングが合ってしまった。
ウイルクは落ち込む俺をたくさん励ましてくれた。そして俺は初めて前の刑務所の医務室のじいちゃんとシスター宮沢、網走監獄からの親友羽毛布団先輩以外の胸で泣く夜を過ごした。
俺が、ウイルクに懐いてしまったのだ。父性を感じてしまった。パパと呼んだら「どういう意味だ?」と笑いながら聞かれ、俺は泣いた。ウイルクの顔やっぱ怖かった。でもやっぱり優しくて、俺はウイルクが大好きになったのだ。

だから、ウイルクと約束をした。
ウイルクは大事な娘にしか教えたくないことがあると言った。俺はその秘密を知っていたが、知らないふりをして話を聞き約束をした。




俺は仲良くなった看守と囚人たちに盛大にお別れ会をしてもらい、刑期を満了し出所した。前の刑務所で貰いドライフラワーとなった大きな花束と網走監獄で貰った大きな鮭を抱えて、何年かぶりに外へ出た。シャバの空気はとても冷たかったが、俺はご機嫌だった。
しかし、そこからが波乱万丈だった────まず俺の鮭を狙って刑務所を出て直ぐに熊に襲われた。俺は鮭を犠牲に泣きながら逃げた。逃げた先で川に落ちて意識を失い、ヤクザの人に拾われた。俺を助けてくれたのは仲沢さんという人で、俺はその人を知っていた。姫だ。あの姫だ。それと同時に、彼にとても立派な刺青があることも知っていた。俺は仲沢さんに頼み込み、彫り師を紹介してもらうことになった。

「いいけど……そのお花、くれたらいいよ」
「! ……あア、わかったよ。俺みてエな奴よりも、似合う奴が持ってた方が良イしなア」
「……似合う?ほんとに?」
「嘘を吐くように見えるかイ?」

姫は嬉しそうに笑った。俺はドライフラワーと引き換えに、上半身に”ウイルクの描いた図面”を彫ってもらった。あまりの痛みに正直めちゃめちゃ後悔したし、立派なものですごく時間がかかった。どれくらいかかったかというと、完成してやっと移動しはじめたあたりで網走監獄で戦争まがいのことが始まったくらいかかった。俺は大急ぎで北上した。ここまで漫画の記憶があることを感謝した日はないと思うくらい、俺は目的地までひたすら頑張った。あまりの寒さに網走監獄へ戻りたいと思うくらい寒かった。

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