ALBATROSS

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谷垣男主(ぶつ切り)

狙いを定めて、獲物を撃つ。息を止めた一瞬に口から弾が飛び、魂を食らって天に昇る。獲物の口から抜けていく断末の言伝は人間には知る由もないものだが、生業として生きるにはその言葉さえ獲物の肉と共に己の血肉とするのは当然のことだ。谷垣は生き途絶えた獣の熱く死に行く血が雪に染み込むのを見届け、毛皮をカッ捌いた。摘んだ山菜を片手に後ろから来たチカパシに手伝わせ運ぶ。
「これどうやって食べる?またオハウ?」
「さあ、どうだろうな。インカラマッ次第だろう」
「俺腹減った!」
脚を持ち走っていくチカパシの背を見送り追いかける。その先ではインカラマッが鍋を用意して、チカパシから山菜を受け取っていた。谷垣に気づいたインカラマッは、谷垣の背負う肉の塊に笑みを濃くした。
「今日は捕れたんですね」
「……ああ」
どこか含みのある声に苦笑し、肉を細かく解体しはじめる。地面の白が目に痛く、しかし慣れた手つきは間違えることなく繊維を断っていった。ふと血に濡れた己の手を見つめ、流れるように空を仰ぎ見た。雲一つなく、凪いだ沖よりも大人しい天海にはぽつりと激しい太陽がいる。
「今日は天気が良いですから、青い空に獣の魂は美く揺らぎ突き抜けて行ったでしょう」
インカラマッの言葉にはくりと息を飲んだ。見えない目を緩やかに細め、インカラマッは谷垣を見ていた。まるで、脳髄まで見透かされたような気分だった。谷垣はインカラマッと透ける空から目を逸らし、塊り冷え始めた肉を部位に分け切り離した。最後の繊維がぷちりと切れる。二人の様子をチカパシが不思議そうに見ていた。
あの日も、こんな空だった。


秋田から軍に入隊してすぐ、同じ班に入れられた数名のうち一人が噂になった。男色で元陰間だというイロの話は瞬く間に狭い基地の中を駆け巡り標的にぶち当たる。班の中でその男は浮き彫りになり、谷垣もまた同じ釜の飯を食べながらもその男の噂を耳に、信じていた。
男ながらに線の細く銃の似合わぬ体格。噂の魂が乗っていたのだろう、その男は常に背を丸くし、その後ろ姿がまた女のようにまろやかで増長させていたことをあの男は知っていたのだろうか。飯を食べる量は人一倍少なく、しかし訓練についていく体力はあったためよく啼くだろうという不満の溜まった俗者たちの声をよく聞いた。いつだっただろうか、あるとき夜半に上官に連れていかれる男を見た。それは間違いなくあの男だ。谷垣は噂は真実なのだと思い黙って見送った、そして見て見ぬふりをしたことを後に後悔した。夜が去る頃、男は血を流し痣を拵え涙を零しながら帰ってきた。そのときにかけた言葉を、そして返された言葉をよく覚えている。
「元陰間なのだろう、慣れていたんじゃないのか」
「……陰間の抱き方も知らねェ童子はタマ(・・)で遊んでな」

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