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ふるり、冷気を感じて肌が震えた。

まだ眠い。温もりを求めて布団を掴もうとした手が空を切って張遼は目を覚ました。

「む…」

朝か…?

近くに置いていた自分のスマートフォンに手を伸ばし、画面に指を滑らせる。午前三時。起きて朝食を食べるには早すぎる。

「…さすがに十一月ともなれば寒いな…」

日に日に気温は下がってゆく。そろそろ毛布を出すべきか。寝相からか布団を体に巻き込んですやすやと隣で眠る同居人……于禁を起こさないようにベッドから静かに離れた。

トイレに行って水を一杯飲む。もう一度、スマートフォンを見る。今日が日曜日である事を再確認して口元が綻ぶ。もう少し眠れる。

休日とわかった上で決め込む二度寝は、大の大人でも子どものように愉悦を感じるものだ。冬にこたつで丸くなる猫の気持ちがよく分かる。

「だから、独り占めはずるいですぞ」

再びベッドに戻り、于禁の大きな体に絡め取られた布団を取り返そうと引っ張る。引っ張るが、びくともしない。

「…?」

思わずムキになりそうになって手を止めた張遼は、ふと、ある事に気がついて于禁の顔をじっと見つめてみる。やはり。

「…眉間のしわが、ない…」

家でも外でも例え正月の新年会であろうとも常に厳格で表情を一切崩さないあの于禁殿が、これほど穏やかな顔をして眠っているのはかなりレアではないか…?

謎の焦燥感に駆られて無意識にカメラモードを起動していた。

「待ち受けにしては…怒るだろうか」

しかし連写する。一番良い角度を探す。二度寝のことはすっかり忘れていた。


******


「おい。起きろ」
「…ふが」

ぎゅ、と鼻を摘ままれる。呼吸を妨げられ、息苦しさに張遼の意識はすぐに覚醒した。

「休みとはいえ寝過ぎだ」
「…もう、朝ですか…」
「とっくに日は昇っている」

不機嫌そうに細められた目。張遼を見下ろす于禁の眉間にはいつものしわが深く刻まれていた。

(あれは、夢か…?)

于禁がカーテンを開けようとベランダの窓際に向かったその隙に手に握りしめたままだったスマートフォンを素早く操作した張遼は目を見開く。

自分の寝顔が、ホーム画面に登録されている…

思わず顔を上げる。カーテンを開け終えた于禁と目が合った。

『写真は全て削除した』

弧を描く口は閉ざされていたが日の光に照らされるその顔は今にもしてやったりと言いたげで。稀に見る于禁の勝ち誇ったような表情に、張遼はまたカメラを向けた。

「没収するぞ」


午前九時三十二分。
機嫌を損ねてしまった于禁に代わって朝食を作りながら、今夜もうまく午前三時に目が覚めぬものかと張遼は胸の内で願った。





=了=



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