イタリア北西部のとある街。
高級住宅地が多く普段は閑静で気品漂う街だが、今日はけたたましいサイレンの音が鳴り響き、そこらかしらが鋭い光で照らされていた。
そんな光景を街一番の高さを誇る時計台から眺める影が1つ。
「相変わらず豪勢な警戒なこって……。ま、捕まる気は毛頭ないけどっ♪」
そう呟いてニヤリと笑った男は、白いマントを翻して夜の闇に消えていった。
《 紅の雪(ブラッディ・スノー)は確かに頂きました。 怪盗キッド 》
『クソッ!またあの白マントにやられた!!』
『一体どうやってこの厳重な監視から侵入したんだ!?』
イタリア語で飛び交う負け犬の遠吠えが心地いい。
話題の渦中にある白マントこと怪盗キッドは、今夜もまんまと盗んでみせたビッグ・ジュエルを手の中で弄びながら、ハングライダーを畳んで街外れの森に降り立った。
「これが紅の雪ねえ……」
今夜の獲物は巨大なルビーが付いた指輪だった。赤というよりは紅に近いような深い色をした宝石が、銀色の指輪に半ば無理矢理付けられている。
「これ、わざわざ指輪に付ける必要ねーんじゃねーの?」
そう思いつつも、キッドは紅の雪を月明かりにかざす。
だが紅の雪は思い描いた姿を晒すことはなく、溜め息の後にキッドは自身の目立つ白衣を脱いで普段の格好に戻った。
「これもハズレか……」
今回の宝石も探しているビッグ・ジュエル“パンドラ”ではなかった。
初代怪盗キッドである父を殺した黒づくめの集団、奴らよりも先にパンドラを見つけ破壊することが2代目怪盗キッドである黒羽快斗の望みだ。
それ故に宝石専門の怪盗をしているが、残念ながら今宵のショータイムも自身の悲願達成とはならないようだ。
まあそんなに簡単に見つかるはずもないか……、そう呟いた快斗は、事前の調査で知った紅の雪の逸話を思い出していた。
『紅の雪は元々白い宝石だったが、数多くの人間の血に濡れて紅に染まったらしい。
強大な力を持っていたその石は、指輪をはめた人間の願いを何でも叶えたと言われている。
だが願いを叶えてもらうには紅の雪に認めてもらわなければならない。
認められなかった人間には逆に恐ろしい呪いが降りかかる』
「大層な曰く付きだから結構期待してたのになあ〜、所詮はただのでっかい宝石か」
そう言って快斗は指輪をはめてみる。大きいと思っていた紅の雪は不思議と右手の中指にピッタリ収まった。
その瞬間、突如紅の雪が強い光を放つ。
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