時は流れてスタートは近付く。

夏、秋、冬、と季節は過ぎて、並盛はまた春を迎えていた。



「いい天気だなあ……」

暖かさに思わず出た欠伸を噛み殺しながら、桜都花はグッと背伸びをした。ようやく春の兆しが感じられるようになった気温は、のんびりと過ごすには最高の状況だった。

《馬鹿みたいな顔してないでさっさと準備したほうが身のためだよ》

《なっ、馬鹿みたいな顔ってひどくないですか!?》

《事実なんだから問題ないじゃないか。それより、敬語使わない宣言はどこにいったの?》

《それは、ラウが暴言吐くからであって……》

いつも通りの手厳しいアラウディの指摘に、桜都花は肩を落とす。奇妙な関係が始まってから約10ヶ月。アラウディのこともだいぶ分かるようになってはきたが、こういう場合負けるのはいつも桜都花の方だった。

《本能的に歯が立たないのを分かってるからなのかも》

《桜都花自身が決めたことなんだし、それくらい貫きなよ》

《……返す言葉もございません》

敬語をやめることを提案したのは桜都花からだった。案外あっさりと認められたタメ口だったが、今でも突発的な反論には敬語が出てしまうことがある。心のどこかでアラウディに平伏しているのかもしれないが、それは自分自身が一番よく分かっている事実だ。アラウディに勝とうなど、考えたこともない。



「桜都花、そろそろ出ないと遅れちゃうよ?」

「はーい、もう行く!」

父親からの問いかけに返事をした桜都花は、真新しい赤のランドセルを背負うと玄関へと急いだ。人生二度目のランドセルには喜びこそなかったが、小学校生活は時間を持て余し気味だったここ数ヶ月よりマシだろう。沢田綱吉はまだ母親の胎内だし、弟の蓮二はついこの間つかまり立ちをして両親を喜ばせたばかりだ。この世界の行く末を見守るという点においては、まだスタート地点にすら立っていない状況である。

《ちょっとは楽しませてもらいたいんだけどね》

《小学1年生には無理な話だと思うけど……》

アラウディが暇潰しをできるような出来事はそうそう期待できないだろう。現代の小学校が戦場でもない限り、彼にとっては退屈な日々でしかないはずだ。

「……ラウが喜ぶようなことが起こりませんように」

《何、喧嘩売ってるわけ?》

《違うよ、ただ平和を願ってるだけだってば》



買ったばかりの靴を履くと、待ち構えていたスーツ姿の両親と車に乗り込む。

4月7日、桜都花は小学校へと入学した。





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