《とりあえず普段は君が前に出ててよ、同性だしやりやすいでしょ?》

「いや、そうは言っても私だって6歳児の頃の記憶はないですし……」

「何か言ったかい?桜都花」

「!!な、なんでもないよ父さん」

日の光がもはや暑いと感じる午後、桜都花は父親の車に乗り病院を目指して走り出した。カーナビの表示によると今日は6月4日らしい。朝食の後全力で仕事を片付けたと思われる父親は、嬉しそうな顔をして車を走らせている。

「予定だともうそろそろ生まれてもおかしくないからね、ママの応援をしないと」

《呑気というか陽気というか……、君の父親は平和な世界に育ったんだね。それから、僕に話しかけるなら声に出さない方がいい》

《簡単に言いますけど結構難しいですこれ……。それから、父さんはこの身体の父親なだけで私の父さんじゃないんですけど》

《そう言うわりには立派に父親扱いしてるじゃないか》

心の奥に唱えるように話しかければ、声に出さないでアラウディと会話することができた。どうやら意識を集中させれば精神世界へアクセスできるらしい。アラウディは先ほどとは違う執務室のような部屋で、見るからに高価そうな椅子に座っていた。

《他人にはこっちに干渉できないみたいだけど、僕からは君が見ているものと同じものが見えるし同じものが聞こえてる。恐らく僕が普通に声を出せば、この身体の口からその言葉が発せられるんだろうね。まあ通常は君に任せるよ、今の身体占有率は僕が20%、君が80%ってところかな》

《アラウディさんもある程度は体を動かせるってことですか?》

《みたいだね。君が上げようとしなくても僕の意思で足や腕は動かせるよ》

勝手に動く自分の身体を奇妙な目で眺めながら、桜都花は何か上手い例えがないか考えた。少し考えて思いついたのは戦隊ヒーローものに登場する巨大なロボットだったが、口にしたら間違いなくアラウディに馬鹿にされる。そう感じた桜都花は口を噤んだ。

《まあ、2人で1つの機械を操作してるんだと思えばいいんじゃないの?思考回路は2つでそれを出力する身体が1つ》

《あのー、アラウディさん。言葉が難しいです》

《……君って物分かりが良いのか悪いのか分からないな》

溜め息をついたアラウディは、外の景色を見ながら紅茶を啜った。

《ほら、そろそろ到着するんじゃないの》

窓の外に視線を向けると、車はすでに病院の駐車場を走行していた。空きスペースに駐車した父親が座席横のドアを開ける。車を降りると、梅雨の時期とは思えないような暑さが桜都花を襲った。

「あっつ……」

この季節独特のモワッとした湿気で一気に汗が噴き出した。特に今は身長が縮んだせいで地面までが近い。今まで何気なく歩いていたはずのアスファルトが、現状の桜都花にとっては凶器だった。

「ほら、おいで桜都花」

あまりのへたり様を見かねたのか、父親が桜都花を抱き上げる。

「あ、ありがとう父さん……」

「どういたしまして。さ、ママに会いに行こうね?」

抱きかかえられた状態のまま、桜都花は病院へと入っていった。





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