「……んぅ………?」
カーテンの隙間から差し込む光の眩しさで、桜都花は目を覚ました。壁にかかった時計は7時30分を少し過ぎたところを指している。いつもなら遅刻気味の時間だが、今の桜都花には関係のないことだった。
(夢オチっていう線は無しですか……)
どうやらこの望んでもいない若返りは現実のようだ。
いまだに訳が分からないが、とにかく現状をもう少し理解しなければならない。そう思った桜都花は、ノロノロとベッドから起き上がると部屋を出た。昨日初めて来たはずの家だが、どこに何があるのかはなんとなく分かる。身体が覚えているのだろうか、目的の洗面台へは迷わずに辿り着くことができた。
「うっわ、思ってたより幼くなってる……」
鏡に映った自分は、想像以上に若かった。
小学校中学年くらいかと想像していた桜都花だったが、実際は小学生にすらなっていないくらいの幼さだ。蜂蜜色をしたショートヘアは柔らかな触り心地で、色さえ気にしなければ元の自分とよく似ていた。一方、瞳は青にもグレーにも見える不思議な色で、どう考えても純日本人では出ないカラーだった。
「お父さんはどう考えても日本人だし、お母さんが海外の人なのかなあ……」
そう思いながら鏡の前をウロウロしていると、背後から笑い声が飛んできた。振り向くと昨晩の男性がドアにもたれかかるようにして立っていた。手にはなぜかしゃもじを持っている。
「おはよう、桜都花。よく眠れたかい?」
「う、うん。眠れたよ」
それは良かった、と微笑む男性が嬉しそうな顔をしていることが不思議で、桜都花はどうしようかと迷っていた。もしここで『私は貴方の子供ではなく、別の人格が乗り移ったのです』とカミングアウトしたとして、彼は信じるだろうか。
(絶対信じないよね……私も信じないし)
答えはノーだ。この世界のどこにそんな意味不明な告白を受け入れる人間がいるのか。
「パパは桜都花が身だしなみに興味を持つようになって嬉しいんだけど、そろそろ朝ご飯を食べようか?準備はもうできてるよ」
困り果てた桜都花を知ってか知らずか、男性は桜都花を朝食へと促した。リビングに入ると、味噌汁の良い香りが鼻をくすぐる。白米に焼き魚といった純和風の朝食が食卓に並べられていた。
「はい、それじゃあいただきます」
「い、いただきます」
味噌汁は少しだけ辛かったが、それでも美味しい朝ご飯だった。感想を求められた桜都花は素直に美味しいと伝える。男性は嬉しそうな顔で桜都花の頭を撫でた。
「桜都花、そろそろお着替えしておいで。ママに会いに行こう?」
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