朝6時。日がカーテンの隙間から部屋に差し込んで部屋を照らす。目覚まし時計がけたたましく時を告げるのを聞いて、この部屋の主である仁王栞里はゆるゆると身体を起こした。

「……ふあ」

欠伸を噛み殺しつつも手はちゃんと動かして服を着替える。学生が着替える服といえば制服だ。立海大附属中の女子制服は着替えが少しだけ面倒な構造をしている。と言っても、2年以上着た今では慣れたものだ。

(今日は2人共あっさり起きてくれればいいんだけど、なあ)

着替えが終わった栞里は自室を出て向かいの部屋のドアを開ける。日常にして1日の中である意味最大の仕事が、今から栞里を待ち構えていた。



***



「雅治、まさはるっ!!こら、……起きろ!!!」

丸く膨らんだベッドを揺さぶって中身を起こす。布団の端からはみ出た銀髪が、日光を受けてキラキラと輝いた。

「ん〜……、なんじゃ栞里……うるさい、ぜよ…………」

「うるさいじゃなくて朝なんだってば。ほら、さっさと起きる!」

布団を剥がされてようやく、栞里の双子の兄・仁王雅治はもぞもぞと動き始めた。少し長めの髪は寝癖が付いてあちこちに跳ねている。ぼーっとした表情のまま、リビングに向かう雅治を見て、栞里は一仕事終えた顔で後ろをついていった。

雅治は寝起きがとても悪い。スーパー低血圧とでも言うべき雅治を起こすことは労力をかなり消費するのだが、それでもなんとか叩き起こして朝食を食べさせて朝練に行かせなければならない。

以前、あまりにも寝起きが悪いことに腹が立って放置したことがあった。その日、部活を終えて帰宅した雅治の顔にはくっきりとした手形が残り、雅治自身はげんなりとして疲れ切った表情だった。テニス部の“三強”に肉体的にも精神的にもやられたらしい。いつも手を焼かされている兄とはいえ、あの姿はさすがに可哀想だった。

それ以来、雅治を朝練に遅刻させないことが栞里の日課になっている。

(……さて、もう1人はっと)

栞里はリビング横のドアをノックして、この家で唯一建築後に『付け足された』扉を開けた。





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