衝撃的な父親帰宅の翌日、栞里はいつもと何ら変わらない朝を迎えていた。ただ1つ違うことがあるとすれば準備した朝食が1人分多いくらいで、今のところ困ったことは起きていない。

それでも、栞里は悩んでいた。

(正直あんまり眠れてないんだよね……)

3人分のご飯をよそいつつ欠伸を噛み殺す。襲撃や抗争が起きるような不安に苛まれてしまい、昨晩はよく眠れなかった。いつも能天気な父親がうっかりどこかでマフィアの逆鱗に触れていないか、想像するだけで頭が痛い。

「おーい、おい、栞里、大丈夫か?熱でもあるんか?」

「大丈夫。昨日ちょっと眠りが浅かったみたい」

「あー、まあそれは分からんでもない」

どうやら雅治も多かれ少なかれ同じような心配をしていたらしい。双子が揃って頭を抱える中で、雲雀だけは涼しい顔で朝食を口に運んでいる。

「敵は咬み殺せばいいだけじゃないか」

「いや、でも父さんがどっかでやらかしてきた可能性だってあるし……」

「そんな起きるかどうかもわからないことを心配しているの無駄だと思うけど。いずれにせよ、何人たりとも並盛で風紀を乱すやつは僕が咬み殺す」

「ハハハ……、まあ恭弥の言うことももっともじゃけど」

「確かに、ね」

全く通常通りの雲雀に苦笑いが出つつも、栞里は雲雀の言葉で悩みの種が消えたような気がした。



***



「今日放課後の部活休みじゃけ、帰りにガット張り替え行ってくる」

「いつもより帰り早いってこと?」

立海への電車に乗り込んだ栞里と雅治は、空いていた座席に腰を下ろした。同じく通学中の学生や通勤中のサラリーマンは軒並み夢の中のようだ。

「まあそうじゃの、いつもよりは早いと思う。張り替え終わったら電話入れる」

「りょーかい、ちゃんと電話してね。……私も寝よっかなあ」

「起こしちゃるよ、寝ときんしゃい」

兄が優しいのは何か違和感がある。栞里は怪訝な顔で雅治の方を振り向いた。こういうときは大抵いつも何かしら企んでいる。

「置いてくとか無しだからね?」

「さすがにそれはせんぜよ、多分」

ケタケタ笑う雅治に若干の不安を覚えつつも、眠気が耐え切れなかった栞里は電車が最寄駅に着くまで眠ることにした。





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