「ここが、立海……」

任務を受けてから1週間後のこと。エリオは今回の任務の中心となる立海大附属高校を訪れていた。海沿いにある校舎の立派さとそこに通っている生徒達の数を聞けば、この学校がいかに大規模で活気に満ち溢れているのかよく分かる。

(それにしても……、わざわざ転入することに何の意味があるのかなあ)

視線を下げれば、目に入ってくるのは高校の制服に身を包んだ自分の姿。普段からコートの下はシャツにネクタイとはいえ、漆黒の隊服とは全く違う平和な学生服は、着ていて違和感しかない。

任務はあくまでも『学校及び周辺の調査と不穏分子の抹消』だったはずだ。わざわざ学校に生徒として潜入する必要はないと思っていたのに、気付けばやたら元気なルッスーリアによって手続きはあれよあれよと進められていた。何故誰も止めてくれなかったのかと思ったが、上司であるベルがこういうことを止めるはずがない。むしろ面白そうだと煽る側だろう。

そんなこともあって、今ここにエリオは立海大附属高校1年への転入生として立っている。

ちなみに今は朝6時45分。普通ならば学校はまだ静かで人気もないような時間帯だが、体育会系の部活動が盛んな立海ではこんな時間でも生徒が校門を入っていく姿が見える。それぞれがスポーツバッグを背負い仲間と喋りながら登校している姿を、エリオは木の上から物珍しいような、懐かしいような目で眺めていた。

(日本は今も変わらず平和なんだね)

昔一度だけ、両親に連れられて日本に来たことがある。5歳だったエリオには明確な記憶が残っていないが、それでも街には殺伐とした空気が一切なく、穏やかな場所だと感じたことは覚えていた。それから10年以上が過ぎても、記憶の中の日本と今の日本はほとんど変わっていない。

懐かしい過去を思い返して少しだけ気を楽にしていたエリオだったが、直後に視線を感じて慌てて気配を殺した。辺りの様子を伺うが、近くにいるのは部活の朝練のために校門を通過していく少年達だけで、怪しい者はどこにもいなかった。

(……気のせい?)

エリオは何か釈然としないモヤモヤした気持ちを抱えながらも、その視線の正体を探すことを諦め、木から飛び降りて校舎の中へと入っていった。





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