この世の中には人によって全く異なる意味に捉えられる単語がいくつかある。“ヴァリアー”もその1つだ。

ヴァリアーという単語を聞いた人間の反応は大きく分けて2パターンある。

何のことだか分からないと首を傾げる者と、震え慄き自らの首を心配する者。

後者はいわゆる裏社会に生きる者達である。特にマフィアとして生きている者にとって、ヴァリアーという言葉は恐怖の対象でしかない。それほどまでにヴァリアーは世界最強の暗殺部隊だった。



「……ベル隊長、そのターゲットで任務完了です」

とある古城の大広間。動く影が2つに動かない影が無数。

「ハッ、もう終わりかよー?つっまんねーの。エリオ、これ何人目?」

「23人目です、ベル隊長」

「こんな人数じゃ暇つぶしにもなんねっての。もっといりゃいいのにな〜」

つい数分前まで人間だった“パーツ”を退屈そうに切り刻みながら、金髪に王冠を装備した少年・ベルフェゴールが欠伸をした。その横で、エリオと呼ばれた少女は手に持っていた報告書を記入しながら、割れた窓から吹き付ける風に黒い髪をなびかせている。

「もうちょいザクザク殺れる任務ねーのかよ?」

「残念ながら、今うちの隊に割り振られていた任務は全て終わってしまいました」

報告書を書き終えてエリオが顔を上げると、上司は明らかに不機嫌そうな顔で愛用のナイフを片手でクルクルと弄んでいた。そんな仕草1つをとってもどこか優美さと秀麗さがあるのは、本当にどこかの国の王族の血を引いているからなのだろう、とエリオは常々感じていた。

「ベル隊長が優秀すぎるんですよ」

今週割り振られた任務の量は決して2日で終わってしまうような量ではなかったはずだ。それが今あっさりと完結してしまっているのは、ベルフェゴールが部隊長を務めるこの部隊が異常だという他ない。

ベルフェゴール殲滅隊は主に大量暗殺や大規模破壊を担当する部隊である。他の隊よりも隠密性に欠けるが、その分圧倒的な破壊力を以てターゲットを消す。隊長を始め、隊員も他の部隊より血気盛んな人間が多い。

そんな血を欲する部隊の中で、唯一エリオだけが異質な存在だった。





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