あれ、僕は一体何していたんだっけ。
 
 目覚めた場所はどこかの薄暗い部屋で、なぜか檻に入れられていた。
 もしかしてデルカダール兵に捕まってしまったのだろうかと考えるも、ここはどうやらデルカダール城じゃなさそうだ。城のような造りでもないし、窓から見える景色は薄暗くて城とは関係なさそうでホッとする。

 だからと言って油断はできない。
 捕まった事には変わりないのだから、ここから抜け出す算段を考えなければならない。
 しかし、武器も道具も取り上げられてしまっているようだし、この檻の中にはマホトーンがかけられていて力づくでは強行脱出は無理だろう。

 はあ……今頃みんなどうしているだろう。みんな僕の事心配してるかな。
 ベロニカ、セーニャ、シルビア……カミュ。

 カミュ……僕の相棒でとっても頼りになる人。
 ぶっきらぼうだけど優しくて、面倒見がよくて、世話焼きで、歳の近い兄みたいな存在。
 どうしてるかな。顔が見たいなあ。
 あの時、カミュの姿が見えたからつい追いかけちゃったんだ。どこに行くんだろうって好奇心で。一緒に行きたいなあって思って体が動いてて、けど危険な路地裏に入ってて、あまつさえよくわからないのに捕まっちゃうなんて情けないね。
 何が勇者なんだって思う。勇者なのに弱くて脆くて危機管理能力がないって勇者失格かも。これじゃあカミュにまた怒られても仕方ないや。
 
「ほお、これまたいいのを捕まえたようだな」
「はい、親分」

 いきなり部屋に入ってきたのは小太りの中年のおじさんと僕を捕まえた連中達だった。
 おじさんは僕を視界に入れて早々舐めるように全身を見てきて、僕は気持ちが悪くなった。なんなんだろう。どうしてそんな目で僕を見るのかな。
 カミュにじっと見つめられたらすごくドキドキするのに、このおじさんに見つめられると嫌かも……。こんな事思っちゃだめだけど、でも嫌なものは嫌だな。
 
「おい、大事な商品を檻から出してやれ。これからもっとじっくり品定めをしなくてはな」
「はっ、親分」

 なぜか檻から出された僕は怪訝に思っていると、突然背後から仲間の男二人がかりで羽交い絞めにされて押さえつけられた。
「な、なに?なにするの!?」
 狼狽えている隙に両手を拘束されてしまい、ほぼ不自由になってしまった。

「商品の品定めだよ。可愛いボウヤ」
「え……」
「まだわからないか?お前は商品になるんだよ。客の相手をするためのな」
「客?相手?」
 何を言っているんだろうこの人達。僕が商品って意味がわからない。
「あらら、とんだ鈍チンちゃんみたいですぜ親分。それとも本当にわからない純粋無垢ちゃんなのかもよ」
「どちらでもよい。商品になるのには変わりないからな。嫌でも身を持って知る事になるだろ」

 薄気味悪い笑顔でおじさんが僕に近寄ってきて、すっと僕の頬を撫でる。何度も何度も執拗に。それにどうしようもない嫌悪感と鳥肌が栗立った。

「さあ、おじさんがいい所へ連れて行ってあげよう。可愛い可愛い子猫ちゃん」
 その猫撫で声にも気持ちの悪さを感じた。恐い。怖い。気持ちが悪い。
 嫌なのに再度おじさんは僕に顔を近づけてきて、僕の唇を奪おうとした。
「い、いやだっ!」
 両腕は拘束されているので咄嗟に顔をそむける。頬におじさんの唇が当たってしまった。
「いけないなあ。そういう抵抗をされるとおじさん、無理やりしちゃうことになるなあ」
 おじさんの両手が僕の肩を強く掴む。そのまま僕を背後に押し倒し、おじさんの仲間達に足や体すら地面に縫い付けられるように押さえられてしまった。これじゃあ本当に動けない。
「嫌よ嫌よも好きの内と言うだろう?どれ、まずは体を隅々まで見なくては」
 おじさんが僕の旅人の服のボタンに手をかける。
 恐い。恐い。一体何するの?痛い事なの?どうして服を脱がそうとするの?僕は男なのに。女の子じゃないのに触らないでよっ。嫌だよ嫌だ。

「やだやだ!カミュっカミュっ!たすけてっ!やだよっ!」

 僕は我を忘れてカミュの名前を連呼していた。

 刹那、入口の扉が勢いよく開いた。連中達はいきなりの事で狼狽えて慌てている。
 そんな僕は恐怖と嫌悪感での涙のせいでぼやけてあまり見えないけれど、僕はやってきた人物達を見てホッとした。 
 
「イレブン!!大丈夫か!?」

 カミュ……みんな……。
 カミュを筆頭に仲間達が助けにやってきてくれた。感激と感謝と申し訳なさがこみあげてくる。

「あたしの仲間をふざけた店に売りに出そうとするなんてそうは問屋がおろさないわよー!メラの雨をくらえーーっ!」
「ぎゃー!」
「よくも幼気で可愛いイレブンちゃんにふしだらな真似をしようとしたわね!このアタシが成敗してやるわ!愛の鞭をくらいなさーい!」
「ぎょえー!」

 ベロニカもシルビアも愛嬌のある顔して容赦がないみたいで、セーニャが「あまりやりすぎないでくださいね、お二人とも」なんて言って手加減を促している。

 仲間達が連中達を成敗しているそばで、カミュはすぐに僕の周りにいる連中を蹴散らして駆け寄ってきた。拘束具を解いてくれて、乱れた服も整えてくれて、状態を確認してくれる。
「異常は特になし。怪我も大した事なさそうでよかった……本当に」
 ぎゅっとカミュから抱きしめられた。表情からして相当心配してくれていたようで胸が痛くなる。カミュの体が震えているから。
「ごめん。ごめんね、カミュ。ぼく……」
「……今は何もいうな。お説教は後でするから覚悟しとけよな。とりあえずここを出るぞ」
「……うん」


 滞在している宿屋に戻ってきて、とりあえず僕は仲間達に謝罪した。二度と迂闊に路地裏に入らない事を約束させられて、ほとぼりが冷めた頃に罰として食事当番一週間を言い渡されて話はついた。
 もちろん、カミュからのお説教もその後一時間かけて受けた。僕は頭を下げてゴメンナサイしか言えなかった。自業自得だよね。

「いくら俺の姿が見えたからってお前はお尋ね者。それに勇者サマなんだからな。お前を利用したい人間なんてこの世にごまんといる。それだけじゃなくて、お前は自分の魅力にも疎いからもっと危機感を持て。身の危険を感じろ」
「わ、わかったけど……でも自分の魅力?わからないよ」
「お前は、その、だな……綺麗だから……変な野郎に付け狙われちまうんだ」
「綺麗?僕、男なのに?」
「関係ない。野郎が好きな野郎もいるんだよ。お前は男でも現に今日その手の男に襲われそうになっただろうが」
「う……た、たしかにそうだけど、か、カミュは僕の事、好き?」
「あ……?」
「カミュはぼくの事……男だけど好きなの?」
「っ……」
「僕はカミュが男の人でも大好きだよ。ベロニカもセーニャもシルビアも仲間として好きだけど、カミュはね、違うんだよ。もっと一緒にいたい、触れ合いたいって意味で好きなんだ」

 これって変かな。同性相手にこんな事思うのおかしいのかな。でも、考えれば考える程カミュが好きになっちゃうんだから仕方ないよね。嘘はつきたくないから。

「ほんと、お前って奴は……かなわないぜ」
 カミュは頭をかいて困ったような、でも嬉しそうな顔をして僕に近寄ってくる。
 端正な顔が至近距離にあって、綺麗な青の瞳と重なる。
「俺も……好きだ。お前が大好きだよ。性別なんて関係なくお前に触りたいっていつも思ってる」
 そう耳元で囁かれた。僕はドキドキと同時にとても嬉しくなって、カミュを抱きしめた。ああ、安心する。この知ってる匂いと感触は。誰の代わりにもなれない。
「……へへへ。じゃあ僕と一緒だね。カミュ以外の人に触られたら嫌だったのに、カミュに触られるとすごくうれしいんだ。僕、たくさんカミュが大好きでしょうがないみたいだ」
「っ……相当な殺し文句だなそりゃ。俺、参っちまうよ。でも、それは俺の方だ。俺の方がお前に滅茶苦茶触りたい。ずっと我慢してるんだ」
「じゃあ、いっぱい触っていいよ。いくらでも」
「お前なあ……そんな簡単に言っていいのか?」
「え……変かな」
「いや。俺はな、イレブン。お前と……せ、セックスしたいんだよ」
 真剣な顔で、それで少し顔の赤いカミュに僕は茫然として。
「……せっくす……って何?」
「…………」
「…………」
「…………はあ」

 あれ、なんでそんな愕然としたような顔して頭抱えてるのカミュ。しかも溜息まで。知らないとまずい事なのかな。

「セックスというのはだな…………あー……こ、今度教えてやるよ」
 どうしてかガックリしているカミュ。なんでそんなに落ち込んでいるんだろう。
「ねえ、カミュは僕に触りたいんじゃないの?」
「今のお前には知識がなさすぎるから実演は無理だ。事前にお勉強を済ませておかないと。教えてやるって言っただろ?性教育」
「あ、うん。そうだね。せーきょーいくって大事だってカミュ言ってたもんね」
 この前、射精の事教えてもらったから、もう白いの出ても平気になったんだよ。成長したよね、僕。

「まあ、今日はこれだけにしといてやる」
 ちゅっと唇に生暖かいものが触れた。
「あ、キス……してくれた」
 嬉しいな。カミュからのキス。一瞬だけだったけどフワフワしてドキドキしちゃった。
「キスは知ってるようだな」
「それは僕でも知ってるよ〜。ね、もっとしたい。いっぱいキスしてくれる?」
「いいとも。何度でもしてやるぜ」

 そうして、僕はカミュからのたくさんのキスでまたカミュの事が好きになりました。

 終

 まだまだこの天然勇者シリーズは続きます。




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