※一応続いてます。

――――いけない。

 人通りが少ない繁華街の路地裏に迷い込んでしまった。
 あれだけ路地裏は危険と誘惑がいっぱいだって言われていたのに、周辺をうろついていたら見慣れた後姿を見つけた。途端、人ごみで見失いそうになるのを無我夢中で追いかけて、気が付けばこの場所にポツンと一人佇んでいた。
 案の定、他の仲間達らしき人物は見当たらない。夢中で追いかけていた人物も見失ってしまった。

 僕って、やっぱりだめだなあ。あぶなっかしいって言われるのわかるかもしれない。
 思考より先に体が動いていたから、後先考えてないってまた後でお説教されそう。
 仕方なく元来た道を戻ろうとした時、突然背後からゴツイ手が伸びてきて口を塞がれ、もう片方の空いた手であっという間に体を引きずり寄せられる。

「んんっ!」
「結構な上玉だなオイ」

 覆面をした荒くれ風の男ら数人が自分を羽交い絞めにし、取り囲んでいた。しまった。迂闊だった。

「ストリップとか売春宿とかで売ったら相当儲かるだろうぜ」
 すとりっぷしょー?バイシュンヤド?
 聞き慣れない単語の数々に僕は首をかしげたが、きっとよくないいかがわしい事なんだろう。すぐに剣や魔法で連中達を振り払おうと力を込める前に、連中の仲間からの背後からの不意打ちをくらって僕は意識を飛ばしてしまった。



「おい、デク!こんな薄暗いバーに何の用だよ」

 路地裏の奥にあるひっそりとしたバーで、盗賊仲間だったデクとカウンター席で話し合っていた。客の連中はどいつもこいつも人相が悪い。今日来ている奴らは見た目だけは獰猛だが、頭の中は女と金の事しか頭になさそうな股の緩い連中ばかりみたいで反吐が出る。
 俺としても気に入らない場所と客層だが、裏世界で隠密活動を生業としていた俺にとってこの場所は裏取引をするのに持って来いなバーだ。城の憲兵すら近寄らないし、ここら一帯は治外法権も同然。一般人が入ればあっという間にカモにされちまう欲望と誘惑にまみれた汚い世界だ。
 もちろんこの俺はこんな場所は慣れっこもいい所。何度か強面の野郎やヤクザみたいなのに絡まれた事もあるが、一応その手の連中からは恐れられているし顔は知られているので、俺に絡んでくる裏世界の人間はこの町じゃほとんどいない。

「こんな所でごめんカミュのアニキ!表通りの酒場だとデルカダール憲兵がゴロゴロいるでしょ?だから仕方なく人目もつかなくていい酒が飲めるここを選んだのよ」
「……たく。そういう所まで考えなくていいってのに。まあ、助かるけどな。で、用件はなんだ?」
「よくぞ聞いてくれました、アニキ!実は虹色の枝の在り処の耳寄りな情報がありましてね」
「ほお……で、どんな?」

 そんな時、入口の扉がバンと勢いよく開いた。
 数人のこれまた一段と人相の悪いモン共が御大層に客として入店してきて、俺は舌打ちをする。
 面倒くせぇ奴らが入ってきやがった。あいつらたしかここら辺一帯を牛耳ってるヤクザ者じゃねぇか。金のない貧乏な家から綺麗ごと並べた奉公だなんだと言って、綺麗そうな女子供や果ては小さな男児を騙してさらって、娼婦館やら売春宿で働かせて自分好みの奴隷にしている連中だと裏の世界では有名な話である。

「ありゃー嫌な連中きたねアニキ。あいつらがいるとワタシらも絡まれちゃうよ。下手をすればデルカダール兵に売られちゃうかもしれないし」
「しゃあねぇ。場所を移すか」
 と、席を立とうとすると、妙にその奴らの会話に引っかかった。

「おい、さっき手に入れた上玉。何もしてないだろうな?」
 幹部クラスの奴が下っ端に訊ねている。
「してねぇっす。今は檻に閉じ込めて仕込み部屋にいれてありますぜ」
「ほんと綺麗な顔とサラサラな茶髪してたよな。男なのに女以上に綺麗で女性的なとこがたまらんよ。あんな細くて綺麗な顔してるのに一丁前に御大層な剣担いでたのは驚きだがな」
「ふ、今の時代は物騒だから武器位持ってて当たり前だろうぜ。それによ、武器の扱いが手慣れてる子猫ちゃん程壊し甲斐があるだろ。あの清廉で純真無垢そうなのを黒く染めるんだぜ。滅茶苦茶にして喘がせて肉便器にして調教する。クク、これ以上にない興奮だろうな。くそ、相手をする客もだが味見をする親分がうらやましいぜ」
「だよな〜はははは」

 相変わらず胸糞悪い事してやがる。しかし、茶髪の綺麗な顔の男……?
 俺は猛烈に嫌な予感がして、すぐに連中に詰め寄った。

「おい、お前ら。それどういう事だ!答えろ!」
 どうか杞憂で終わってほしいと思った。






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