今年最後で初めての告白

運命の恋って信じますか?

「あ?」
ハンバーガーを頬張りながら、火神は怪訝そうに眉を顰めた。
向かいの席にいる黒子を、じろりと睨み付けると口の中のものを咀嚼して呑み込む。
「んだよそれ」
「そのままです。火神くんは『運命』って信じますか?」
「知らねーよ。んなの」
そうしてもう一口。
ハンバーガーに齧り付く。
「火神くん」
「なんだよ?」
「口、ついてます」
言いながら、黒子は身を乗り出すと火神の口元に付着したソースを指先で拭い取ってやった。
「さんきゅ」
「いえ」
そのまま躊躇なく、汚れた指を口に含んでソースを舐める。
ちょっとしょっぱくて辛い。
「・・・美味しいんですか?これ」
「気に入らねーなら食わなくていいだろ。オレはこれが好きなんだよ」
もぐもぐ
食べるのをやめようとしない火神を大きな目で見詰めたまま、黒子はバニラシェイクを啜った。
ハンバーガーのソースとは逆の、生ぬるくて甘い味。
「火神くんはボクのこと気に入らないですか?」
ふいに、ぽつりと呟いた黒子の一言に、ようやく火神は食べるのを止めた。
ちょうどハンバーガーを一個食べ終えたからキリが良かったのか。
指先を、ぺろりと舐めながら黒子を見る。
「さっきからなに?」
「・・・・・・」
「黙ってたらわかんねーんだけど」
黒子は目を伏せてしまった。
そんな黒子をしばらく見詰めた後、火神は溜息を吐くとトレイに乗った大量のハンバーガーへと手を伸ばした。
しかし、依然黙ったままの黒子へ目配せをすると、再び息を吐いてから手を引っ込めた。
「運命、だっけ?」
顔を上げた黒子の目が火神を見る。
その目を見詰め返してやると、黒子は小さく頷いた。
「・・・火神くんは、運命の恋って信じますか?」
聞いているだけで恥ずかしくなるフレーズだ。
それでも黒子は期待を込めた眼差しを火神へ向ける。
「運命とかそういうの、よくわかんねー」
吐き捨てるようにそう言うと、火神はコップのジュースを仰いだ。
「けど、今お前とこうして一緒にいるのも『運命』かもしんねーって思った方がおもしれぇのかもしんねーな」

ふと、黒子が店内に設置されていた時計を見上げる。
時刻は23時57分。今日は12月31日だ。
「まさかここでこんなふうにお前と年を越すとはな」
クスクスと笑みを漏らしながら、火神はハンバーガーの包装紙を丁寧に剥いていく。
その手つきがあまりにも優しそうで、見ているととても愛おしくなった。
「ボクのわがままに付き合わせてしまって申し訳ありません」
「別に気にしてねーし。一人でいるよりは誰かといた方が寂しくなくていいしな」

――『12月31日から1月1日の年越しを、火神くんと一緒に過ごしたいです』
そう、黒子は火神におねだりしたのだ。
今年最後の部活の後、練習が終わった後の火神のシャツを引いて呼び止めた。
うるうると大きな目を潤ませて、おねだりしてみせる黒子を断れるわけもなく、火神は今日を黒子と過ごすことにしたのだ。

「黒子」
呼ばれて、ハッとした黒子が我に返る。
すると、火神は自分の隣の席をぽんぽんと叩いて示した。
「こいよ」
さりげなく言われた言葉に、ドキッとする。
四人がけのテーブル席の椅子側にいた黒子は、火神が座るソファの隣におもむろに腰をおろした。
「失礼します・・・」
透き通ってしまうそうなくらい真っ白な肌が、チークを落としたみたいにピンク色に染まっていく。
腿と腿が、腕と腕が触れ合ってしまいそうなくらい近い。
どきどきとうるさく鳴る心臓を、どうしたら良いか分からず目を瞑る。
「おい」
声と同時に手を握られる。
心臓が一際大きく跳ね上がった。
「か、火神くん・・・!」
「じっとしてろって」
他の人には気付かれないように、テーブルの下で黒子の左手を火神の右手が力強く握り締める。
指先から、やけに早い脈の音が聞こえてくる。
ちらり、と見やる火神の顔は髪より鮮やかな赤い色に染まっていた。
「あとちょっとだ」
「え?」
「あとちょっとで来年になる」
ぎゅううっと強くなる握力が嬉しくて、負けじと黒子も握り返す。
「火神くん、もうだめです」
体を傾けると、こてんと頭を預けて火神に擦り寄る。

「好きです」
カチッと時計の針が動く。
時間の区切りを跨いで、新しい年がやってきた。
「オレもだよ」
新しい年。
一番最初の言葉。
「オレもお前が好き」
今ここで、こうして年を跨いで愛を確かめ合うなんて。
「運命ですね。ボク達」
運命以外の何物でもない。
君とボクが出会えたこと。

今年もまた、よろしくお願いします。
欲を言えば、今年最後の言葉は君からの愛の言葉が良いなんて。
わがままを言ってもいいですか?


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