∵猫を飼う。05
最寄り駅から2駅ほどのところにある大きなモールにやってきた。
俺の住んでるとこだって田舎ではないけど、やたら装飾された看板や背の高いビル、人々の服装が珍しいらしく、少年はさっきから忙しそうに目をクルクルと回している。
もう少しでクリスマスっていうのも相まって、街は色々と騒がしい。
俺も瞬にいも万年独り身で過ごしてきたから、今年もふたりでケーキ買ってさくっとお祝いかな。
変わることと言えば、そこにこいつが加わるだけで。
そう思いながら、目の前にいる少年をみる。
ていうかお前もその髪色と瞳の色で十分みんなに見られてるのに…
まぁ大人しいからよし!!
今のうちに色々買ってしまおう。
「いらっしゃいませー」
とりあえず服ってことでさっそく子供服売り場にきたわけだけど…
なんかまわりのキッズがやけにオシャレで恥ずかしい…
いや、俺んとこのが素材はいいはずなのになんだろうこの敗北感、買ったらその場で着せて帰ろう。
「うーん…ほんと子供って感じのばっかだな…」
キラキラとラメのついたものや、フリルや、乱用されるポケット。
がちゃがちゃしてて全然シンプルじゃねぇ。
その上、値段をみて思わずたじろいだ。
ティーシャツ1つとってもこの値段…冬物、靴下、下着、その他もろもろ考えても今日中に破綻すんぞ!!
来て早々頭を抱える。
育児って金かかるんだな…なんか違うけど…
「なにかお困りですか?」
よっぽど挙動不審だったのか、店員のお姉さんに声をかけられる。
なんでもないです、と慌てて言いかけたが、ここは素直にプロに考えてもらったほうがいいのでは…と冷静になる。
「あの…服、選んでやってくれませんか?俺そういうのわかんなくて…」
「かしこまりました、どういった感じがよろしいでしょうか?」
「いやほんとわかんないんで…おい!ちょっとこっちきて!」
服より店内にあるぬいぐるみに夢中になっている少年を手招きで呼んだ。
ニコニコして走り寄って、ぎゅっと俺の服のすそを掴む。
「なんかこう、こいつに見合う感じのを適当に…あ!安めでお願いします」
「かしこまりました。可愛いですね、弟さんですか?」
にっこりと店員さんが言う。
弟…といってもいいのだろうか。
端から見たらこいつ思いっきり外国人の容姿だし、だから似てないし…でもそう見えるのかな?
返答に困り苦笑いしていると、店員さんが少年の服のサイズを見るようにかがんで少年に笑いかける。
「ぼく、お兄ちゃんとお買い物たのしいねえ」
「おにいちゃんではなく、ごしゅじんさまです!!」
出ました歩く地雷!!
ピシッと店内が凍りつくのがわかる。
あれ?この感じ、すごく最近味わった気がする。ていうか今朝味わった。
「いえ、あのですね、なんかこいつの中でそういうの流行ってて!」
「そ、そうなんですね、最近の幼稚園はおままごとの質も変わってきているようですし…」
店員さんのフォローが痛い。
とりあえず手頃なのを一式選んでもらって購入し、このまま着て帰ることを伝えそそくさと一緒に試着室へと入る。もちろん全力でカーテン閉めとく。
鏡をペタペタ触ったり、かけてあるハンガーを揺らして遊んでみたり、とりあえずまた大人しくなったからひと安心…
「わぁすごくせまーい!ぶたばこですね!」
「シャラップ!!」
俺がぶたばこに入れられてしまう!!
さっきのことといい、この少年といると寿命が縮んでいっている気がしてならない。
ていうか完全に振り回されてるだけなんだけど。
「あのさ、約束しよう。人前では俺のこと、ご主人様って呼ぶの禁止。ね。できるな?」
「どうしてですか?」
「俺が人前に出られなくなっちゃうから。ぶちこまれちゃうからブタ箱に!」
「じゃあなんて呼べばよいのですか?」
うっ。そうくるか。
全然考えてなかったぞ…
少年は困惑した様子で俺を見つめる。
うーん…舜一であるアニキを瞬にいって呼んでるんだから、俺の場合は忠太だからえーっと…
「ちゅっ、忠にい…?」
「チュウ、にい」
アホだ!!俺はアホだ!!
それじゃところ構わずチュッチュチュッチュしてくる兄貴だと思われかねないやんけ自分で犯罪指数を底上げしてどうする!!
ていうかお前もお前でカタカナで言うなよ!
色々考えても仕方がない、この議題は家に持ち帰って瞬にいとも相談だ…。
「普通にお兄ちゃんとかそんなんでいいよ…うん」
「わかりました!!」
少年がにこっと笑う。
素直すぎるのも時に難だなあもう。
そんでまだモールにきて一時間も経ってないのにこの疲労感。
とにかく早く着替えさせてここを出よう…今日はこんだけでいいや…
黙々と服を脱がせ、新しい服を着せていく。
安心したのは一応下着を着ていたことだ。思えば風呂にも入れてないじゃん、つっこみどころ満載…
って、
「あれ?お前こんなん…ついてたっけ…」
にょろりとした何かが尻の付け根から生えている。その色は髪や耳とおなじで、銀色に輝いている。
俺が指差すと少年はその物体を手にすると、ぶんぶんと楽しそうに目の前で振り回して見せた。
うん、いや、説明を。できれば非言語でない説明をお願いしたい。
「それはいったい…」
「しっぽですか?」
「あぁ、しっぽか…しっぽ…」
しっぽ?!