∵猫を飼う
「なっ…なんだこりゃ…」
藤崎忠太、この世に生まれ落ちて17年目の冬…そう、それは吐いた息さえ凍えそうな12月のこと。
第一声がとんだ間抜けなものになってしまったのも当然、俺は今、とんでもないものを見ている。
うっすら雪が積もるアスファルト。に、乱雑に置かれた段ボールの上に、丸くなった青年。いや、少年?
ゴクリ、息を呑んでじっと見る。
し…死んでんのか?
行き倒れか?ホームレスか?なんかの儀式か?!
いや、冷静になれ俺。泣く子も黙る不良、いや、ワルじゃねぇか。ここは寒いからっていう理由で見てみぬふりを、
いや、でもとりあえず。
「警察…いや、救急車…か?あれ、番号なんだっけ114だよな、いや…なんかちが、わっかんねぇ!!」
携帯片手に地団駄をふむ。俺の声に驚いたのか、ぴくりと少年の肩が動いた。それをみてビビる俺。
少年はむくりと起き上がると目をこすり、しばらくぼうっとアスファルトを見つめたあと、俺を見上げた。
沈黙。
それにしても…日本人ではないようだ。銀髪に華奢な体、透き通るような白い肌に見あわないパッチリと開いた銀色の瞳。
薄いシャツ一枚にショートパンツという、この寒さにはありえないその格好は見ただけでこっちが震えてしまう。
そして一際目立つ、
「ね、猫耳…?」
ピコ、と動く、髪と同じ色をしたリアルなそれ。
なんて悪趣味な…と思いつつふと手を伸ばすと、
「ごしゅじんさま…」
「あ…?」
消え入りそうな声でそう呟いた少年の瞳には大粒の涙。
はっとする。
まさかこいつ、貧しい家族を支えるために出稼ぎとして異国から売られてきて、そういう金持ちの少年趣味なエロオヤジに買われて煮るなり焼くなり良いように弄ばれたあと捨てられたんじゃ…
あれ…見てもいないのにありありと鮮明にエロオヤジとのナニが…
「ごしゅじんさま」
「…かわいそうな奴だな、お前のご主人様はお前を捨てたんだ…俺が今から警察に行ってぶっとばしてもらいに」
言いかけてグイッと腕を引っ張られる。何事かと思い少年をみれば、売られていたなんて思えないほどの良い笑顔で、
「ごしゅじんさま、やっとあえましたね!」
俺がぶっとばされる!!
「いやいやちょ、待って、人違いっていうか、えっ俺オヤジと見間違えられてるの?つかお前その力は一体どこからくるの?すごい痛い、痛い痛い!!」
「ごしゅじんさまにあいにきました」
「わかったから離して!なにこれ爪?!爪かい!」
ギリリと食い込むのは先の尖った爪。人間の爪ってこんな形になるものだっけ?なんか俺の爪と全然違う…これが外国人の爪ってやつなのか!
必死に引き剥がそうとしていると、少年の体が異常に冷たいことに気付く。
ヒヤリとした肌は鳥肌がたっていて、ひどく傷んでるように感じた。
それもそのはず、俺がくるまでずっとここで、それもこんな薄着でいたのだ。
ご主人とか言ってるのも、もしかしてショックなことがあって、それで一時的に混乱してるだけなのかも…(耳はよくわかんねぇけど…)
そう思うと不憫に思えてきて、俺は自分のダウンを脱いで少年に着せた。
不思議そうにダウンに触れ、少年はまっすぐ俺を見る。
「ごしゅじんさま…?」
「おっ、俺はご主人様とかそういう趣味はない!けど…なんつうか、見過ごすわけにはいかないっていうか…」
モゴモゴと口を動かすが、きょとんとする少年の無垢な目をみるとうまくいえなくて、
「とりあえずうちに来い!」
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