最近ゆーたんが冷たい。 それもこれも、あの転校生がきてからだ。 第一印象からして悪かった。 美少年、美少年ともてはやされ、ゆーたんを惑わしてる気がしてならない。 今日だって借りてたCD返そうというのを口実に、久しぶりの放課後フリーをゆーたんと過ごそうと思っていたのにいつの間にかいなくなっていて。 しかもあの夏目とやらもいない。 きっと二人一緒にまだ校内のどこかにいるはずと走り回って探した結果、案の定学食でゆーたんの声がうっすら聞こえた。 購買の壁の向こうだ。ちょうど自販機が前にあって、奥のほうは用がない限り誰もいかないから見えない。 ていうかそんなところでゆーたんと放課後密会とはいいご身分だな夏目、いつか絶対化けの皮はいでやる。 そんなことを思いつつ、びっくりさせてやろうと静かに近づき、壁に背中をくっつけて声を確認しようとした瞬間だった。 「佐倉くん…僕のも、舐めて?」 信じられない言葉を耳にした気がする、今。 な、なななななな舐め…っ?! 耳を疑うってレベルではない。 ていうか僕のも、ってことはゆーたんのモノを舐めていたという事態が前提にあるわけであって、そもそもその時点でもうすでにアレな感じであって、でも舐められてビクンビクンしてるゆーたんを想像したらちょっと俺のモノも反応してしまったことについては見過ごせない事実。 どくどくと心臓がありえない速さで脈を打っている。 どうなるんだ、どうなるんだ、壁にひっついてごくりと息を呑む。 「なにやってんだ辻」 「いっ!」 ゴツンと後ろから頭を殴られる。 驚いて見れば、眉間にシワを寄せた相沢がジャージ姿で仁王立ちしている。 部活の途中だったのだろう、うっすら額には汗までかいて熱血度がいつもの二割増しだ。 相沢はバスケ部の顧問。俺も普段は陸上部。ゆえに、放課後だけはレースにならないと思って油断していたのに、今日はツイてない。 「何こんなところで部活サボ…ぐふっ」 「シーッ!!まじで静かにしてあんたの声響くから!」 今にも怒鳴りそうな相沢の口を必死でふさぎ、小声で制止する。 やめろ、とかふざけるな、とか暴れる相沢を必死におさえ騒いでるあいだにも、あっちは進展していたようで。 「ゆっくり、舐めて」 「「!!」」 夏目の欲にまみれた声が聞こえ、相沢とふたり、目を合わせる。 いいの?というゆーたんの声がかすかにして、相沢の顔はみるみる青くなっていった。 「なにしてんだあいつら…!」 「だっ!だめだめ!きっとなんかの間違いだから」 どんな間違いだよ、と自分でもおもう。いや、ただ単に間違いであってほしいだけ? よくわからないけど、ゆーたんの笑顔とか、幼稚園の頃から今までの色んな記憶がばーって走馬灯みたいに駆け巡って、なんか、なんか、 「そう、上手…」 はぁ、と夏目のうっとりした声。 相沢が固まって体を震わせている。いや、俺も震えてる。 ていうかゆーたんうまいんだ、慣れてるんだ、いやもしかして夏目に調教されたのかも。 いつの間に?いつの間に俺の知らないところで… おれの、しらないところ。 「ん…っふぁ、ちょ、んンっ…」 「っ!」 嫌だ、と思ったときには相沢に耳をふさがれていた。 びっくりして相沢を見れば、なんでもないみたいにまっすぐ前を見てた。 なんだよ、なんだよ。 俺が泣きそうだから?いつも怒鳴り散らしながら俺を追いかけてるくせに。俺なんかやっかいものなくせに。 俺がいちばんかっこわる… ふ、と耳を解放されたときにはふたりは笑い合っていて、やっとおわったんだ、ってほっとしたけどやっぱり心の奥がモヤモヤした。 俺の勘は当たってた。 夏目は俺にとって災いにちがいない。 「なに泣きそうになってんだ」 「なっ、なってねーし!ばかやろ…」 クスクス笑う相沢にカッとなりつつ、でもこいつが耳ふさいでくれなきゃたぶん俺もっとどん底だったかも、なんておもう。 ちょっとだけ感謝して、さぁ帰ろうかとおもった瞬間。 「……夏目の、おいしい」 「っ、ありがと」 もう俺はだめだった。 壁に背をもたれ、ぐったりその場に座り込む。 知らないうちに視界が雲って悲しいんだか笑いたいんだかよくわかんなくて、はぁーとため息がこぼれるだけだった。 相沢が同じ目線になるようにしゃがんで、ふいにそっと頭をくしゃくしゃっと撫でられる。 「辻…世の中には知らなくていいこともたくさんあるんだよ」 「あい…ざわ、」 相沢が今まで見たことないくらい優しい笑顔になった。 こんな顔すんのか、とか、なんでここまで付き合ってくれるんだ、とか、色んな感情がわいてきて、でも 「ただ、髪の色だけは黒くしろ」 やっぱりこうなる。 知らなくていいこと |