*擬似ふぇらぽいです 「そういえば夏目ってさ、部活とか入らないの?」 学食の販売機でアイスクリームを買って、夏目とふたり、グダグダ喋りながら放課後を過ごしていた。 体育館からはバスケ部とバレー部の熱い掛け声、校内からは吹奏楽部の練習している音色、離れた道場からも聞こえてくる柔道部や空手部の打ち身の音… 帰宅部にとって放課後はじつに居づらい時間だ。 しかしいいのか悪いのか最近はずっと夏目がくっついてきているせいで、前より学校にいる時間も長くなった気がする。 「部活…今のところ考えてないかなあ、佐倉くんは一年生のときから入ってなかったの?」 ぺろり、アイスクリームを上品に舐めながら夏目が問う。 「いや…陸上してたよ。」 「陸上?すごい!足速かったもんね!」 え、うん、いや、なぜ知っている。 そういえば夏目って小学生のとき俺のファン(?)だったんだっけ…突っ込みはさておき、陸上してたよ、という自分の言葉にチクンと心が痛んだ。 「去年ちょうど怪我しちゃってさ、ヘタレだから怖くなって」 それからやってない、と苦笑して、左足のひざを軽く叩いた。 「そっか…変なこと聞いてごめんね」 しゅん、って音がつくんじゃないかってくらい夏目が切なげに顔を背ける。 そんな顔させるつもりじゃなかったんだけど、でもなんとなく昔のことを掘り返したら自分もちょっとセンチメンタルな気分になって沈黙。 「なっ、夏目は弓道とか似合いそうだよな!なんかこう…優雅で!」 気を紛らわそうと話題をふる。 でも、弓道部のあれ…袴っていうの?あれをきちんと着て、背筋をのばして弓を引く夏目の姿を想像したら、ピッタリなんじゃないかって思えた。 夏目はきょとんとして、ぷっと吹き出した。 「考えたこともなかったよ。優雅って…佐倉くん、おもしろいね」 ふふっ、と夏目が笑う。 よかった、笑った。 ていうかなんだろう、ちょっと夏目に振り回されてる?俺。 「あ、佐倉くん、アイス溶けてるよ」 「え、あ、やばっ」 夏目に言われ手元を見れば、いつの間にかアイスクリームが溶けてコーンから染みだし、親指まで垂れてきていた。 ティッシュもなくわたわたとしていると、夏目がそっと俺の手をとり顔を近づける。 そしてそのままツツ、と親指からコーンにかけてゆっくり舌を、舌を、 「え」 「ん…おいしい、僕も抹茶じゃなくてバニラにすればよかった」 「あ、ああ…そっか…そっか…」 そっかじゃないだろ俺。 今なにが起きたのかとりあえずすごく説明したいんだけど、なんか改めて説明するとたぶん俺は爆発する。 よって省略。 きっとこれは美少年にしか受け継がれていないコミュニケーションスキルにちがいない。伝統なんだ。 「佐倉くん…僕のも、舐めて?」 奥義だ。 「い、いいの?」 「うん、佐倉くんならいいよ」 見れば、にっこり、夏目がいつものエンジェルスマイル。 おずおずと夏目の手にする抹茶アイスに顔を近づけてふとおもう。 アイスの位置、低い。 なんていうか普通食べ合いっことかって、まぁ言いたくはないけどアーンするみたいな感じで顔のそばにもってくるじゃん。 でもこれは… 「なんで腹の下…」 がっつり下腹部にセットしてある。 さすがにしゃがまないと食べられない位置だよそれ。 俺の困惑っぷりに気がついたのか、夏目がごめん、とあわてて言う。 「…舐めにくい?」 「う、うん…ちょっとね。普通の位置がいいかな」 そう言うと、夏目は素直に俺の口元へアイスを持ってきてくれた。 俺は喜んでさっそく食べようとすると、夏目から制止がかかる。 なんかちょっと真剣な目をしてるから、どきっとしてしまった。 「ゆっくり、舐めて」 「へ」 よくわかんないけど、ゆっくり舐めてみる。あ、うま!バニラと違って少し苦いけど、全然うまい。 溶けたアイスが夏目の手にかからないように、時々下のほうから上に向かって舐めとる。 「そう、上手…」 夏目のうっとりした声が聞こえた。アイスの食べ方にうまい下手あんのか、と思いつつぺろぺろ舐めていると、急にアイスを口の中に押し込まれた。 「ん…っふぁ、ちょ、んンっ…」 そのままアイスをくるくる回したり、引っ張ったり押し込んだりする。 アイスが口の端からこぼれそうになったので、たんま、と机を叩く。 夏目が心なしか楽しそうだ。机を叩き続けていると、ようやくアイスを口から離してくれた。 息を整えてモグモグ。 「……おいしい?」 「ん…うまい。抹茶!って感じ」 「なにそれ、変なの」 夏目がまたふふ、って笑った。 なんだかよくわかんないけど、こいつが笑うならなんでもいいかなって最近おもう。 「夏目のおいしい、って、言って」 「?……夏目の、おいしい」 「っ、ありがと」 ごちそうさま |