下駄箱を開けたら、ものすごい量の紙の束がダバダバと落ちてきた。 「またか………」 ため息まじりに、足元に落ちた色とりどりの封筒や可愛らしいポストカードを拾い上げる。 そう、いわゆるラブレターというやつだ。かれこれ週をまたいで五日ほど、毎朝この状態が続いている。 原因は俺の隣の席の美少年。 「友太殿、今日も配達ごくろーさんっ!」 俺の足元を見た辻がケラケラ笑いながら言う。 「うっさい、変われよ辻…」 「無理!無理無理っ」 「三回も言った」 ていうかなんで本人じゃなくて俺に…ていうかどさくさに紛れて俺宛てのがあるんじゃないかとか探した数日間が情けなくて仕方ない。泣きたい。 「それに俺、あんま夏目好きじゃないしー」 「は?なんで」 「なんでも!…っていうかなぜに持たせる」 「強制」 そんなこんなで嫌々言う辻に半分以上手紙を持たせて教室へ向かう。 「ごめんね佐倉くん、毎日…」 教室へ入るなり、大きな紙袋(二日前から持たせた)を持って夏目が出迎えてくれた。 「いや、これ以上もらってるお前のほうが大変でしょ」 「ていうか佐倉クンしか見えてないの?辻クンのことは見えてないの?」 後ろでピョンピョンはねる辻を無視して、ありがとう、と夏目は用意した紙袋を広げた。 こっそりのぞきこむと、まだ朝だというのに重量感たっぷりのそれ。 なにこれ怖い、すでに半分埋まってる。怖い。 俺の下駄箱分プラス自分の下駄箱分プラス手渡し、ってことか…まったくもって恐ろしいな。 はい、と夏目が持ってる紙袋に手紙をもっさりと入れる。 今日は辻にも手伝ってもらえたから(精神的な)負担が少なかった、ありがたい。 「ていうか夏目はさー、こんだけモテるのに彼女とかいないんだ?」 辻が肩を回しながらふいに問い掛ける。 たしかに、と思いつつ、なぜかドキッとしてしまった。 「いないよ」 「へー!もう女は飽き飽きってやつ?」 からかうように辻が言う。 さすがにシャレにならないぞ… 「おいやめろよ辻…」 「好きな人がいるから」 教室中がシンと静まり返った。 「ずっと好きな人がいるから」 そのあと、保健室に数名の女子が運ばれた。 なにも気絶しなくても… いや、それより、あのあとから夏目と口をきいていない。 正確には、夏目を見れない。 どんな顔で接していいかよく分からないというか、好きな人がいるだなんてそんなプライベートなことを、間接的とはいえ言わせてしまったことへの罪悪感というかなんというか…… ていうか好きな人いるんだな、って、まあそれは俺にとったら関係のないことなんだろうけど。 そうこう考えている間にチャイムが鳴り、相沢がいつものようにけだるそうに授業を始め、俺はいつものようにぼんやり窓の外を眺める。 そういえば夏目、去年帰ってきたとか言ってたな。 なんでわざわざ戻ってきたんだろう、いじめられていた嫌な思い出しかない街に。 俺だったら絶対に無理だ。そんなとこ二度とくるかっておもう。 それとも、よっぽどの理由があったんだろうか。 帰ってこなければいけない理由… 「佐倉ぁあ、余裕だな?ここ読んでみろ」 「へっ?!あ、えっ!」 急に相沢に指されテンパる。 やばい、全然聞いてなかった! えーと、えーと、と半笑いになりながら目を泳がせていると、隣から白くて綺麗な手がのびてきて、スッと教科書をめくった。 「!なつ、」 「ここからだよ」 にっこり、夏目がいつもみたいに笑う。 あ、怒ってないんだ… 「あ…り、がと」 ぎこちない笑顔でそう返すと、また夏目が笑って嬉しそうにうなずいた。 よかった、気にしてなかったんだ… 「佐倉ぁあ?」 「はいぃっ!今から読みます!」 ぽかぽかとした陽気のせいか、夏目のあの優しい笑顔がずっとあたたかく感じた。 ひみつのこと |