ギンは公園で何人かの友達ができたようだった。
その子たちとは今度また遊ぶ約束をして、入ったときと変わらず騒がしい公園を背に、俺と隆之介、ギンの三人は駅まで向かっていた。
ギンを除いて、その足取りは驚くほど重い。

どんな遊びをしただとか、友達の名前や住んでいるところとか、寒さに耐え切れず俺のマフラーまで奪ってギンはホクホク、それはもう嬉々として報告してくれている。
しかし、俺はさっき受けた隆之介からのカミングアウトにどう返していいか分からないでいるから生返事だ。


「すみません」


沈黙を破るように隆之介が言う。
えっ、と自然と立ち止まると、深刻そうにこちらを見る目。


「さっきのこと、黙っていていただけないでしょうか」


顔面蒼白とはこのことか、隆之介はこの世の終わりかのように暗い顔で重たい口を開いた。

さっきのことというのはどっちのことなのか、俺個人の中で衝撃というか心的外傷が大きいのはもちろんカミングアウトの前の出来事なのだが、おそらく隆之介にとってはその後のことなのだろう。
なんだか煮え切らないが渋々重たい口を開く。


「黙ってるよ、俺こそ無理やり公園連れてってごめんな」

「ほ、本当ですか…」

「当たり前だろ!友達なんだからその、まぁテンション上がったらちょっとはああいうことするし、すんのかな、しないかもしんないけど、でも狼とかふつーに、いないけどまぁ山…とかにはいんのかな、だからちょっとはあれだし、ていうか俺に限っては免疫あるし!」

「友達」

「え?」


意外そうに目を丸くする隆之介に、おーい、と声をかけると、はっとして少し微笑んだ。


「あ…ありがとうございます」


おう!と軽く隆之介の肩をたたく。
そういえばさっき耳みたいなのが出てたけど、すぐ引っ込んだんだろうか。今はもはやその面影はなかった。

普通の青年。

耳やしっぽ、牙なんてなければ、ただの好青年だ。
だからなのか、その面影はどこか憂いがあって儚い。俺が今までつるんできた奴らとは違うような。

ぼんやり見上げていると、隆之介が目線に気づいて振り返る。
そのまま何秒となく見つめ合う。


「ごしゅじんさま!きいてるんですか!?」

「はい聞いてませんでしたもう一回おねがいしまーす!」


うっかりさっきの出来事をありありと思い出してしまうところだった。
ギンだって毛を逆立てていたわりには、隆之介が元の姿に戻ると何もなかったかのように元気になったし、こいつらの仕組みはよくわからない。


「あ、藤崎先生」


駅前近くになって人混みが多くなってきた道の先を見て、隆之介が呟いた。
よく見えるな…と目を細めて視線を追うと、駅前のコンビニからのそっと出てくる見慣れた姿。
コンビニの中まで見えてたのか…たぶんあっちからじゃ見えないぞ。

少し歩いて交差点で止まっていると、ぶんぶんと手を振っていたギンに気づいたようだった。
手を振り返すでもなく、じっとこちらを凝視しているような様子にどことなく緊張が走る。ていうか冷や汗。
交差点の信号機の色が青になり、ギンが走り出すと同時に俺たちも駆け寄った。


「や、やっほー、おつかれ〜…」

「お疲れ様です」


異色の組み合わせを目にして、瞬にいは少し驚いたような顔をしたがすぐしかめっ面になった。


「なんでお前ら一緒にいんだ」

「あーっと…かくかくしかじかで意気投合みたいな」

「あ?」

「藤崎先生、これ、このあいだの練習試合のDVDです」

「あー…そうだったな、悪いな。…家にいったのか?」


ギクリと俺の心臓が鳴る。
そういえばこいつのカミングアウトについては内緒にするって言ったけど、俺自身のことについて口止めするのを忘れていた。

家に行ったとこいつが言えば俺が補習に行かずポヤポヤと家で日向ぼっこ、もといサボタージュライフを満喫していたのがバレてしまう。
薄々わかってるぞと言わんばかりの瞬にいの目線に俺は手に汗を握りまくっていた。


「いえ、来る途中で弟さんとお会いして、か、カクカク、シカジカ…」


!!!


かくかくしかじかの使い方がやや乱暴なのはさておき、俺は猛烈に感動していた。
ありがとう!ありがとう!!そんな視線を熱烈に送るとともに瞬にいのほうを見ると、煮え切らないような視線を送りながらも小さなため息を吐いた。


「そうか、わかった。暗くなってくるから気をつけて帰れよ」

「はい、ありがとうございます。失礼いたしま」

「あ!隆之介、連絡先教えてよ」


連絡先、と呟いて、隆之介はおもむろにカバンの中からキャンパスノートを取り出したので俺は慌てて携帯を出して見せた。
本当に慣れてないんだなこういうの…

真新しいスマートフォンをつきあわせながら連絡先を交換し、試しに電話すると少し目を輝かせた。
その反応に心なしか俺まで嬉しくなってしまう。


「また連絡すっから!」


じゃあな、と手を振ると、隆之介は控えめに手を振り返した。







「いやー、あいつほんっといいヤツ!バスケ部ってなんかチャラついてるの多そうで性格悪そうだなって偏見あったけど全然だな、いやー感動!」

「そうか」


寒さはいつの間にか吹き飛んでいた。
心配事のなくなったことと、隆之介という新しい友達ができたことで俺はいつも以上にハイテンションだったのだ。
今日は珍しくスーツ姿だからか、瞬にいの方はやけに大人しく見える。あれだ、喋らなければって奴だ。喋らなければというか、殴らなければというか。


「あいつ学校じゃひとりだからな。バスケやってるときは別人みたいに生き生きしてるけど。お前みたいな単細胞のほうがつるみやすいのかもな」

「へー…って単細胞ってなんだよ」

「そうだ。単細胞だ。そんな単細胞なお前に二つほど質問がある」

「…な、なんだよ…」


瞬にいがギロリと目を光らせるので思わず手に汗を握ってしまう。
まさかバレたか。いや、でも隆之介がちゃんと俺の話に合わせてくれたし、何もおかしな言動なんて…


「まずひとつ目だ。なんでギンが一緒なんだ」

「あっ」


あって言っちゃった。
いやいや!ここで折れるわけにはいかない、すでにカクカク震えつつある足に力を入れる。


「学校行く前にほら、ギンのこと公園に預けて、終わった後ダッシュで迎えに来たってわけ!」

「補習何時から何時までだった?」

「えぁ〜〜っ…じゅ、10時から4時…?」

「6時間もか…こいつは遊びのカリスマか?化身か?なぁギン何して遊んでたんだよ」

「ちょおーーっ!!それは」


挙手をして答えようとするギンの口を慌てて塞ぐ。さすがにこの理由じゃ無理があったか、ていうか瞬にいの目がもう人間の目をしていないのですが何故に。補習サボるなんていつものことだし、いつも通り殺されかけるけどそれはまぁ目を瞑るとしてもこの怒りようはなにゆえに、


「もうひとつ。帰ったらその首の勲章について、くわしーく説明してもらおうか」

「えっ」


とっさに首のあたりを触る。えっ何、勲章…?傷とか…?
薄ぼんやり今日の出来事を思い返す。
そういえば公園のトイレで隆之介に襲われかけたとき、最後に何かこう、強い痛みみたいなものが走ったような気が…
はた、と気付いたときにはもう遅く、背後におぞましい擬音をまとった瞬にいと目があう。


「お気付きのようで何より」


あっ、死ぬかもしれない。















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