数年前の御沢合同誌『花つむぎ』に寄稿したものの再録です。
花と花言葉を各自選んでテーマにするという趣向で『銀木犀』を選びました。
御幸2年沢村1年。原作が進んだ今不自然なところもあるかと思いますが見逃してやってください。










 朝練がない日の朝の食堂は、どこか緩くのんびりした空気が漂う。
 あくびが止まらないやつ、忘れていた宿題を写させろと懇願しているやつ、朝から元気にどんぶり飯をおかわりする猛者。飛び交う挨拶に適当に返事をしながら全体を見回すと、隅っこでひとかたまりになって食事中の一年の中に探していた後ろ姿を見つけた。
 振り向きもせず一心に白米をかっこんでいるように見えるけど、全身の意識がこちらに向いているのは一目瞭然。果たして声をかけようと一歩踏み出したとたん、
「オオオオハ、ヨウゴザイマ、ス」
 と発音のおかしいギクシャクした挨拶を発し、
「しゅ、集合の時間だから!」
 と、一度も俺と目を合わせないまま、沢村はトレイを神速で片付けて脱兎のごとく走り去っていった。集合ってなんの。今日は練習ねぇし。てかキャプテンも副キャプテンもここにいるんですけど?
 残されたのは自分に集中する好奇と哀れみと詰問の視線で、食堂を支配する不気味な沈黙にいたたまれない思いをしながら空いた席に着くと、そこはにっこりほほ笑む亮さんのまん前だった。
 なんという致命的ミス。俺も結構動揺しているらしい。
「で、何したのかな、御幸?」
「……何もしてないから理不尽なんすよ」
 ため息交じりにそう答えると周囲が訝しげな様子を見せたが、それ以上突っ込んで聞かれるのも嫌で(なんせとびきりのプライベートだ)、手早く食事を済ませて俺も逃げるようにその場を後にした。
 ……どうすっかなあ、ホント。



 三日前、沢村から「俺も好き」と言われた。我ながら涙ぐましい努力の末やっと、本当にやっと引き出した一言だ。
 先輩やチームメイトとしてじゃなくそういう意味の『好き』であることをしつこいほど確認したのは致し方ないと思う。この天然な後輩に俺が何回天国から地獄コースを味あわされたか、すべてを語るには一晩かかっても足りないくらいだ。
「くどい!エースに二言はない!」
 そう仁王立ちで断言していた背番号18は、その翌日には挙動不審に陥り言語不自由になり、昨日は俺の半径二メートル以内に近づかなくなった。そして今朝のアレだ。悪化してんだろ、明らかに。
 ……まあこうなるんじゃないかって気は正直してた。
 沢村の性格からしてあの後絶叫レベルの羞恥に襲われただろうし、反動で少々言動がおかしくなるのは想定内だった。ど天然の鈍感が意識してくれるようになるのはむしろ歓迎だし、それこそ人目もはばからず万歳三唱でもしたいくらいだった。
 だがまさか視線さえ合わなくなるとはさすがに思わなかったし、そんな沢村にどう接したらいいのか見当もつかないのは俺も同じで。らしくも無い、過去の経験なんか何の役にも立たない。認めたくねぇけど、こういう状態を途方にくれるって言うんだろう。
 ため息の一つもそりゃ出るってもんだ。
 なんでお前はそんなに両極端なんだよ。



 結局日中は沢村を捕まえるどころか姿を確認することすらできなかった。こういう時に学年が違うと地味につらい。さすがにフラストレーションが溜まるわ、周囲からは何ともいえない生温かい目で見られるわ、俺が将来禿げるとしたら絶対沢村のせいだ。どう責任とってもらおうか。
 あ、ちなみに練習中はすべて保留、公私混同は厳禁、というのは暗黙の了解で、あの不器用にそれができるのか最初は懸念したものの、意外にも今のところ何の問題もない。
 まああれは多分意識してやってんじゃなくて単に野球のことしか考えられなくなってるだけだろう。なんたって筋金入りの野球バカだし。
 午後練が終わって、いつもの大中小の三人組ではるか前を歩く背中を眺めつつ思案にふける。寮にいる間に捕まえる、それは大前提として、意外にすばしこい沢村は常にうろちょろと居所を変える上に人懐っこくどこの部屋にでも潜り込むため、正攻法での捕獲は存外に難しい。
 倉持を巻き込むか。いや、それは後が色々面倒くさい。風呂かトイレ前で張り込むか。…何となく変質者っぽいので遠慮したい。となると後は奥の手のクリス先輩で釣るか。
 と、ここまで考えて、「ん?」と首をひねった。
 俺らはお互いがお互いを好きって確認したんだよな?
 ってことは沢村は俺の恋人だよな?合ってるよな?
 ……なんで恋人と話すのに他の男で釣ったり一大捕獲網を敷かなきゃなんねぇの。
 がっくりと肩を落とした俺の背を真っ赤な夕日が切なく照らす。

 この日、沢村の捕獲はかなわなかった。





 四日目は小春日和になった。
 日当たりの良い窓際は冬場は特等席だ。倉持に言わせれば「無駄なとこにクジ運使いやがって」らしいが、この席にはもう一つ楽しみがある。一年生の体育の授業が良く見えることだ。
 ちらちらと踊る日射しが眠気を誘う。ふぁ、とあくびを一つ噛み殺す。昨夜は眠りが浅く、短い夢を見ては目が覚めるというサイクルを何度も繰り返した。細切れのそれは悪夢だったりとてもじゃないが沢村には言えない夢だったり、どのみち心臓にあまりよろしくないものばかりだったりする。
 机に片肘をつきガラス越しに視線を落とせば、そこにはまだ昼休み半ばだというのに両手の指に余るジャージの集団が既にいて、いくら天気がいいとはいえこの寒空の下、去年の自分たちはこんなに元気だったかと首をひねらずにはいられない。その元気者たちの筆頭は、これからサッカーだというのにいつものようにぐるぐると腕を回す体操をしているあのバカだ。
「肩を冷やすな」と息をするように言い続けてきたのが少しは功を奏しているのか、長袖ジャージにしっかりと身を包んだ沢村は今度は嬉しそうにじゃんけんを始めた。どうやらミニゲームのチーム分けらしい。
 惚れた相手の全開の笑顔(しかも俺以外のやつに向けた!)に無心でいられるわけもなく、相手のクラスメイトに(転べ)と念を送っておいた。我ながら大人げないが、あの笑顔は凶器だということを俺は身を以って知っている。



 俺が沢村に惚れたのは実は結構早い時期だったんじゃないかと思う。思う、というのは自分でも『ここから』と明確に線引きできる何かがあったわけじゃないからだ。
 ただ、惚れていることに気づいた日、瞬間。こちらは今でもはっきりと思いだせる。まだ夏の名残を残した日射しが照りつける9月半ばの夕方だった。
 短い休憩時間、我先にと水場に群がる奴らを避けて少し離れた穴場へと足を運んだら、そこには先客がいた。濡れるアンダーや練習着を全く気にせず、蛇口から直接豪快に水をかぶる後輩投手。水を止めてから手探りでタオルを探す、その周囲のどこにもタオルがないことにさすがに呆れて、ため息と共に近づいて頭からタオルをかぶせてやったら「うひゃいっ」と奇妙な叫び声が上がった。
「なーんでタオルも持たずに水浴びするかなおまえは」
「も、持ってきたと思ったんだよ!」
 頭も顔も一緒くたにして手荒くごしごしと拭いてやる。しばらくもごもごともがいたあと、ぷは、とタオルの中から顔を出した沢村が少し照れくさそうに「へへっ」と笑って、

「サンキュな!」

 はいここ。
 ここ試験に、は出ないけれど、この瞬間。俺の頭の中からはスタンバイしていたからかいの言葉もなにもかもが消え失せた。沢村の声と開けっ放しの笑顔が頭の中で何度も何度も勝手にリフレインされて止まらなくなった。
世界が瞬時にして色を変えた、なんて言ったら気障野郎だと思われそうだがあいにく俺には詩心などない。思ったまんまだ。
 心臓が壊れたピストンのように勢いよく血を巡らせ体温をぐんぐん上げていって、未知の感覚に足元がぐらりと揺れた。感情が顔に直結しない自分の体質を、この時ほどありがたく思ったことはなかった。
「御幸、先輩?」
 小さく首を傾げるさまも。
「どうしたんすか? どっか具合でも?」
 少し低い位置からのぞきこんでくる、真っ黒なキラキラした瞳も。
 つい10分前まで平気だったのが信じられらないほどに眩しくて、まだしっとりと濡れた髪が貼りつくうなじが眩暈がするほどに艶めかしくて。
「まさか」と疑う余地も「そんな馬鹿な」と笑う余裕もこの段階ですでに残されていなかった。自覚してしまえばそのくっきりとした感情は、まるで最初からそこにあったみたいにしっくりと馴染んだ。
「…沢村」
「はい?」
「俺、お前のこと好きみたいだわ」
 自然にするりと滑り出た最初の告白に返って来たのは、「…熱でもあるんすか?」というあんまりな一言だった。



 あれから三ヵ月、約百日。
 何度あいつに同じ台詞を言ったのか、さすがに俺もそれをいちいち数え上げているほど暇じゃない。けれど積み重ねた言葉と日数の分だけ、バカ正直にその一つ一つを受け止めては全力で怒ったり真っ赤になったりしていたあいつとの距離は縮まっていった。
 やっと届いた。捕まえた。
 そう思ったのはたった数日前のことなのに、今のこの遠さはどうだ。一方通行だった頃の方がずっと近かったと思えばかなり切ない。
(まだ早かったのか?)
 急ぎ過ぎた?
 誰が見ても恋愛事にはうとそうな沢村だ。
 朝から晩まで野球漬けの一年投手の生活に、恋だのなんだのが入り込む余地などなくて、けどそれを思いやれるほどの心の余裕は俺にもなかった。
とにかく他の誰にも渡したくない一心でひたすら追いかけて、こっちを向くようにあの手この手で強請って。
 あいつにとってそれは負担だったんだろうか。
「…あー、ヤメヤメ」
 後ろ向きに突き進んでいく思考をシャットダウンしてもう一度グラウンドに目をやると、何故かこっちを見上げていた金丸と目が合った。「ひっ」と喉元が動いたのを俺は見逃してはいない。いい度胸だな?
 その強張った表情のまま沢村の肩を叩いた金丸が何か言いながら俺を指さす。それに誘導されて素直にこちらを見上げた沢村の、まん丸に見開いた目が俺を捉え、ぱちりと一度瞬きして動かなくなる。お互い目を逸らすタイミングを見失ってただ見つめ合うさまは、形だけ見れば完璧にロミオとジュリエットだ。待て、俺がお姫様か?ひたすら待つ今の身の上的にはその通りか。
(しまった、とか思ってんだろうなあ)
 逃げて隠れて、その先どうするつもりだったのかは知らない。というより沢村のことだから、後先考えずに反射で逃げ続けてたってのが本当のところだろう。
 かちんと固まって棒立ちになってしまった後輩の、その大きな目に問いかける。
(なあ沢村)
 そろそろ限界なんだけど、俺はいつまで待てばいい?
 ……それとも、

(もう、逃げたいか?)

 先に目を逸らしたのは俺だった。
 声をかけてきたクラスメイトと少し話して、もう一度目を向けたとき、そこにはもう沢村の姿はなくて、かわりに金丸がこちらを指さしつつジェスチャーで必死に何かを伝えようとしていた。
 何? わかんねえ。はい? 俺? 俺がどうしたって?
 ややいらつきながら解読に気を取られていた俺は、直前まで気づかなかった。廊下をものすごい勢いでこちらに近づいてくる足音に。
「御幸センパイぃぃぃ!」
「…は?」
 スパァン、と激しい音を立てて開かれた後方の入り口には、さっきまで確かにグラウンドにいたはずの沢村が肩で息をしながら立っていた。学年ごとに色の違うジャージ姿ははっきり言って相当目立っているが、本人はそんなことを気にする余裕はないみたいだ。ついでに言えば俺もそれどころじゃない。
 なにしてんの? 次体育だろ? 唯一の得意科目だろ? さっき予鈴鳴ったよな?
「話がある!」
 メダパニにかかった俺が金縛りにあっているあいだに、沢村は人目をものともせずにズカズカと俺の前まで来たかと思うと、それまでの男前な言動とはうらはらに俺のブレザーの裾を遠慮がちに掴んだ。何それ萌える。
「……わかった。場所変えようぜ」
「お、おう」
「天気もいいし屋上行くか」
 クラスメイトの控え目な好奇の視線を振り切るように先にたって廊下に出る。早足になってしまうのは、正直ろくでもない『話』ばかり想像してしまうからだ。「やっぱなかったことに」とか、「俺、勘違いしてた」とか。無言で後ろをついてくる沢村の思いつめた顔を見ればなおさらだ。ネガティブ一直線だ。
 最後の階段を上りきったところでちょうど本鈴が鳴った。自動的にサボり決定だが、そのあたりは悪ぃけど倉持や金丸が何とかするだろう。
 屋上は言うまでもなく吹きっさらしで、足を一歩踏み出したとたんに冷たい風が身にしみた。いくら陽光たっぷりといえども普通に寒い。これは早めに切り上げないと風邪を引かせちまうかも、と振り向いたら。
「ごめん!」
 そんな一言と同時に、沢村の姿が視界から消えた。かと思ったらガバっと腰を落としタイルの上に正座、のち呆然としている俺を見上げてそのまま両手を前につき、きっぱりと頭を下げる、ここまでわずか一秒。一連の動きが時代劇のように妙に決まっているのは何故だ。
「逃げて悪かった!」
「…いやいやいや」
 なんでこいつは予想外のことばっかしてくるかな!
 形のいい後頭部を見下ろしながら、何を言えばいいのか本格的にわからなくなる。
 謝んな、頼むから。
「いいから立てって、足痛めんぞ」
「…でも」
「怒ってねぇから。な?」
 しゃがみこんで目の高さを合わせたら、久しぶりに近い距離で見るでっかい目が明らかに水分過多なのがわかった。この三日、いや四日間か、こいつはこいつでいっぱいいっぱいだったんだろう。
 ふよふよと風にそよぐ髪にいつものクセで手を伸ばせば、触れるか触れないかでビクリと震えた体、逸らされた視線。気まずい沈黙が落ちる。
「…俺が怖いか?」
「!違、」
 目を見開いた沢村がぶんぶんとちぎれそうに首を左右に振り、両手を膝の上で握りしめる。何度も開きかけては閉じる口にこっちも覚悟を決めようと腹に力を入れる。のとほぼ同時に、白くなるくらいにぎゅっと力をこめた沢村の拳が、ジャージの胸の部分、自分の心臓の上を励ますようにドンと叩いた。
「俺!」
「うん」
「変なんだ。すげぇ変」
「……うん?」
「前はこんなこと全然無かったんだよ。けどあの日から、とにかくあんたがそばにいたり、そのう……触ってきたりしたら、心臓がすげぇバクバクしてさ、」
「…………。はい?」
 待った。
 なんか。予想とはちょっと、いやかなり違う方向へ話が向かっているような。
 あの日って、俺に初めて好きって言ってくれた日だよな?
「息はできねぇし苦しいし、なんか泣きたくなるし、けど悲しいってわけじゃねぇし!もう俺、訳わかんなくて、」
 …………。
 あのですね、今すげぇ都合のいい解釈が成り立ちそうになってんだけど。主に俺にとって、というより完全に俺得な。
「あんたのこと好きだってわかったって、今までだってずっと練習中も寮でも一緒だったんだからこれからなんにも変わんねえって思ってたのに、なんか急に今までどおりに出来なくなって!じゃあそれならどういう風にするのが正解なのかとか全然わかんねぇんだよ!」
 つまりそれって、
「なあ、あんたならわかんの?俺、どうしたらいい?」
 必死に、半分睨むように俺を見上げる沢村は真剣そのもので。
 でもごめんな。俺はもう限界だ。天然恐るべし、その破壊力たるや。

 なんだこの可愛い生き物…!

「……何笑ってんだよ」
「悪ぃ……ふはっ」
「だから笑うなっつの!人が真面目に悩んでんのに!」
 涙目で怒りまくるこいつには悪いけど、、どうしても口元が緩むのを止められない。
(……そうだよなあ)
 こいつはやっと自覚したばかりで、何もかもが初めてのまっさらで。恋愛に類すること全て、全部全部これからなんだよな。
 なんだかもう全身の力が抜けちまって、フェンスに背中を預けて空を仰ぐ。いい天気だ。視線を戻すといつのまにか正座から体育座りに変わった沢村が膝を抱えこんでちょこんと座っていて、睨むような上目遣いが狙ってんのかってくらいくそかわいい。
 人生って素晴らしい。
「な、教えてやろうか?正解」
「マジで?」
 ようく聞けよ、大事なことだから。
「挙動不審でもなにも言えなくても、もう何でもいいからとにかく俺の傍にいること」
「?そんだけ?」
「そんだけ。簡単だろ?」
「……そういうもんなのか?」
「そういうもんなんだよ。それにしたって」
 こらえきれずに破顔する。今きっと最高に緩みきっただらしない顔になっている自覚はある。あるけどこれがデレずにいられようか。
「そうかそうか、そんなに俺が好きか沢村くんは」
「……!」
「俺もおまえが大好きだぜ?」
 絶句した沢村が金魚みたいに口をパクパクさせてるのが可笑しくて、指で頬をつついてみる。見た目の色合い通りに熱い、かじったら甘そうなまろい頬。その動悸が、熱が、すべて俺のために生まれたんだと思うとたまんねえ。
 なあ沢村。多分、いや絶対気づいてないだろうけど、俺の指も本当は同じくらいに熱いんだ。信じらんねぇだろ? 自分がまっさらだなんてさすがに言わねぇけど、こんな、指先が触れるだけで心臓が爆発しそうなのは俺だって初めてで、どうしようもなくて。
 そんな相手の全部の『初めて』を、一から一緒に辿っていけること。

 ―それってすげぇ贅沢なことなんじゃねえ?

「まあゆっくりいこうぜ」
「……うん」
「あー、でもなるべく早く育ってくれな?」
「うん……んん? なんか言ってること矛盾してね?」
「大丈夫だ、全部俺にまかせとけ」
「お、おう?」
 沢村がへにゃりと安心したように笑う。俺が言うのもなんだけど、こいつ、ちゃんと見とかねえとそのうち悪徳商法に簡単に引っ掛かるんじゃなかろうか。心配だ。
「じゃあ、ほら」
「えっ」
 座る沢村に手を差し出したら「?」って顔で首を傾げる。
「正しい交際は手をつなぐところからだろ?最初の一歩な」
「…そういうもんか?」
「そういうもんなんだよ」
 この先何度も繰り返すだろうやりとりを交わした最初の日。
 沢村は少しだけためらったあと、やっぱりリンゴみたいに頬を真っ赤にして俺の手をギュッと握った。












(なあ、じゃあ二歩目って何すんの?)
(……息をするようにナチュラルに墓穴を掘るねおまえ)
















銀木犀…初恋