はちみつ
はちみつ色に包まれた教室でひとり、机に伏せて溜め息を吐いた。
皆帰った夕方の、遠く聞こえる部活動生の声が校舎に響く。
何故か落ち着かなくなった。胃が踊り出したみたいな感覚。お腹の底が、ふわふわと浮く感じ。
待ってても来ないってわかってるのに。
呼んですらないんだから戻って来るはずなんていのに。
あいつのことを考えるだけで胸の奥がむず痒くなって、切なくなって、でも大好きでいっぱいに満たされちゃう。
そんな気持ちはきらいじゃあないけれど、一人で抱えて過ごすには、少し寂しい。
帰ろう。
そう思って、トイレに行こうと席を立つ。
誰もいない廊下に、がらりとドアを開く音が虚しく響いた。。
その音にきゅうっとまた、胸が痛くなった。
まだ、胸が痛い。
誤魔化すようにハンカチをやけに丁寧に畳んで、荷物を取ろうと教室の扉を開けた。
誰もいない筈の教室に、ひとりぽつんと佇む影。
教室のまん中に、
斜めになった太陽のはちみつ色の光に染まったあいつがいた。
「お前、まだいたの」
「……もう帰るとこ」
「ふーん」
「興味なさげね」
「いや別に」
「忘れ物でもしたの?」
「当たり。これないと課題終わんねーわ」
ノートをぴらぴらと振るはちみつ色のアイツの姿に、私の心もまた、はちみつ色に染まってきて。
いつのまにやら、胸の痛みは消えていた。
……甘いなぁ。
今日から、私にとってはちみつの色は、しあわせの色。
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