金髪の彼が気になる話
妙に金色が視界の端でチラつく。

意識しなくても眩しいくらいの輝きが網膜を刺激して、何故か胸が苦しくなるのだ。私は九尾の器としてこの里に呼ばれて、よそ者として虐められることもあった。原因はそればかりじゃなくて、私のこの熟れたトマトの様に真っ赤な髪も馬鹿にされる要素の一つだ。

私は、この髪が嫌だった。

赤い髪はうずまき一族の象徴。九尾の器に選ばれたのも、その一族の特殊な能力によるものだ。だから、私はこの髪が嫌い。一族が嫌い。全てが、嫌い。私の存在自体も、大嫌いなのだ。私はただ、普通に暮らして、好きな人と結ばれて、幸せな家庭を気づいてみたかっただけなのに。現在の環境は私から「普通」を根こそぎ奪っていった。
その中でも辛うじて皆と同じと言えるのは、アカデミーに転入できたことだろうか。虐められることはあっても、そこにいるときだけは「普通の子供」になれている気がする。その点、三代目火影様にはとても感謝している。



そんな日々。あの子が私の周りをうろつくのだ。
何が面白いのかいつもニコニコ愛想のいい笑顔を浮かべていて、なよなよしい、どこか頼りない男の子。でもその実力はアカデミーの中で群を抜いて優秀で、その整った顔貌は爽やかで素敵だと定評のある人だった。

名前は、波風ミナトくん。

彼は中々に読めない男だった。私が困っていれば率先して助けてくれるし、よそ者の私が皆に受け入れてほしいという願望から「火影になる」と豪語した時も波風くんは笑い飛ばすことは無くて「僕も火影になりたいんだ」と自分の夢を語ってくれた。
心からいい子なのだと分かる。ご両親の教育がとてもよかったのだろう。それでも、私は彼が少し苦手だった。

「なまえちゃん」

今日も波風くんは私に構う。担任に頼まれてまとめた提出物を抱えていれば半分以上奪われて「手伝うよ」とその顔貌にいつもの爽やかスマイルを浮かべて言うのだった。

彼と私の関係は特別親しいわけでも、険悪になるほどいがみ合っているわけじゃない。この関係に敢えて名前を付けるとするのであれば、ただのクラスメイトなのだ。なのに何故波風くんは私を気にかけるのか。それがわからないから、苦手意識を持っているのかもしれない。
思考回路を読めない波風くんに、得体の知らない恐怖感を覚えるのだ。


「波風くん、」「ミナトでいいよ」
「え、と……じゃあ、ミナト」
「うん。なあに、なまえ」


どうして私に構うのか。そう聞こうと思ったのに、いつの間にかミナトくんのペースにのまれていた。この子は人の話を聞かない系の人だったのか。知らない一面を知ることが出来ても特に利益があったとは思えない。だけど、胸の奥が甘く締め付けられるのは、一体何故なのだ。

私が「ミナト」と呼んだ時、波風くんは頬を紅潮とさせ、心から嬉しそうな表情を浮かべていた。波風くんが私を「なまえ」と呼んだ時、私はどんな表情をしていたのだろう。目元が熱いと感じているところを見ると、きっと彼とそう変わらない顔をしているのかもしれない。

その理由も、分からずじまいだ。もしかしたら波風くんは答えを知っているのかもしれない。だけど、この空間に少しの心地よさを感じてしまった私は、聞こうと思っていた質問を飲み込んだのであった。




「なまえ、一緒に帰ろう」

ある日の放課後。身支度を整えていた私にミナトが堂々とした態度でそう誘ってきた。周りの生徒たちが下手な口笛で囃し立てる中、そんな揶揄いの声など聞こえていない様にただ真っすぐ私を見つめてくる。青空の様にどこまでも澄んでいるその瞳から逃れることは、出来なかった。無意識的に、首を縦に振った。

夕暮れ時。「少し寄り道して行こう」と手を引かれて連れてこられたのは火影岩だった。歴代の火影たちの顔岩が並ぶこの場所からは里を一望することが出来て、なかなかに見晴らしのいい景色だ。燃えるような朱い夕日が里全体を照す様にどこか情緒的なものを感じながらも少しの嫌悪感を覚える。赤には、いい思い出がない。

「ここから見える夕日が綺麗で、たまに眺めに来るんだ」

ゆったり腰かけながら、ミナトはそう教えてくれた。ミナトに倣って横に座り込み、景色を眺める。嫌でも目に入る赤色に、人知れず眉間に皺が寄った。

「私は、苦手だな」
「どうして?」
「夕日が、私の髪みたいに真っ赤だから」

素直な気持ちを吐き出せば、ミナトは心底不思議そうな顔をして首を傾げる。

「君は自分の髪が嫌いなの?」
「嫌い。大嫌いだよ」
「それはどうして?」
「どうしてって……ミナトだって知ってるでしょ?この髪のせいで私はクラスで虐められてるし、好きになる要素がないもの」
「僕は好きだけどな、その髪。凄く綺麗だ」

何でもないかのようにさらりとそう言ってのけたミナトに、返す言葉を失った。どうしてこの人は私の心を平気でぐちゃぐちゃに掻きまわすようなことを言うのだろう。やっぱりミナトを理解する事なんでできっこない。

「ミナトはどうして……私に構うの?」

ずっと聞きたかった言葉が、やっと口をついて出てきた。ただの気まぐれだと言われるだろうか。想像しただけで胸がチクリと痛む。そんな自分が、一番理解できない。私は一体何を望んでいるんだろう。彼になんて言って欲しいのだろう。自問自答しながらも、返答を待つ。
ミナトは一瞬驚いた様に目を見張った後、柔らかな微笑みを浮かべた。

「君に、振り向いてほしいから」

そう言った彼の髪は、いつもの金色が夕日の赤と混じり合い、オレンジ色に見えた。だからだろうか。ミナトがまるで別人のように見えてしまった。私はこんな、男の顔をするミナトなんて知らない。知らないから、怖い。今までの自分ならそう思うはずなのに、私の胸の内に生まれたのは確かなときめきと、甘く暖かい恋心だった。




私はあっという間に、いとも簡単に、彼に振り向かされたのだ。


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