お互いの両親(私側は別)に挨拶も済ませ、事は順序よく進んでいる様に思えた。
しかし、先日異三郎さんの両親から一つの手紙が届く。

その内容は
"結婚を許す条件として来週行われるパーティに二人で出席する"ことだった。
そのパーティとは佐々木家の主催らしい。

異三郎さんと結婚したらパーティーやらなんやらに出席することは覚悟していたことだけど、まさかこんな早くに経験するなんて思いもしなかった。

そんな私の心境なんて気にも留めない婚約者様はウキウキと楽しく(表情には出てないけど)私用のドレスを仕立てたりと一人盛り上がっていた。
私も私で腹を括るしかないと思い、テーブルマナー類の本を読み、準備を進めてきた。





そして、当日。





「い、異三郎さん」

「はい」

「私、緊張で吐きそうなんですけど。帰ってもよろしいですか」

「駄目です。この会に出席しなければ私との結婚が認められないらしいですよ。まあ彼らの了承なんて無くても貴方とは一緒になる予定ではありましたが」

「うう…」

「それに…今宵の貴女はこの場で一番美しく、愛らしいので。もう少し眺めていたいのですが」







よくもまあ、そんな歯が浮くようなセリフをいえるな。だけどそんな言葉が嬉しくて顔を赤くしている私はもう末期だろう。






「菜々緒、貴女は私の横にいるに相応しい人間です。もう少し堂々となさい」

「…うん」







異三郎さんがそういってくれるんだ。私は彼に恥をかかせない、立派な婚約者にならなくちゃ。
「さあ、行きますよ」と腕を差し出す異三郎さん。スーツ姿も素敵だな…そう思いながら、たくましい腕に自身の手を置いた。














パーティでは異三郎さんの婚約者として様々なお偉いさんに挨拶した。私が関わっていいような人たちではないことは重々承知だけど、彼と結婚するということはこの苦労が付きまとう。だけど、異三郎さんとずっと一緒にいられるならこんな苦労、どうってことない。

…とは言ったものの、ずっと緊張しっ放しでいたために疲労感がどっと押し寄せてくる。
軽く眩暈もすることから、人の多さにも寄ってしまったのかもしれない。







「…異三郎さん」

「どうしました?」

「ちょっと…バルコニーの方に出てもいいですか?人酔いしてしまって…」

「顔色が悪い…私も付いて行きます」

「大丈夫です、ひとりで行けますから」

「菜々緒!」









追いかけようとしていた異三郎さんはどこかのお偉いさんに話しかけられ、足を止められた。
私をちらりと見ながらもその人と会話している異三郎さんに大丈夫だという意味も込めて手を振る。

そして、慣れないヒールを鳴らしながらもバルコニーへ出た。













「ふう」






思わずため息が出てしまう。
一つのパーティーにでるだけでこんなに疲れるもんなんだ…。想像もしてなかった。
だけど私以上に異三郎さんの方が疲労が溜まってるに違いない。そう考えただけで少し楽になる。
彼の疲労を、少しでも分けてもらいたい。








「ごきげんよう」







ふと、一人の女性に挨拶をされた。知り合い…じゃないよね。そう思いながらも戸惑いがちに挨拶を返す。
うわあ…きれいな人…。彼女は息をのむほどに美しい容姿を持っていた。






「貴女が異三郎様の婚約者?」

「…ええ、まあ」

「笑わせないで」

「……え」





先ほどまでおっとりと笑っていた彼女が突然鬼の形相に変わり、私を睨みつける。
状況が上手く飲み込めない。






「私は異三郎様をずっとお慕いしていたのよ。貴女なんかが出会うずっと前から。なのに…なんであんたみたいな貧相な女が異三郎様と結婚できるの!?どう見たって不釣合いよ!身分も、容姿も…すべて不釣合いよ!」








彼女の言葉に頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る。
普通にショックだった。
こんなきれいな人が異三郎さんを好きだという事実。
不釣合いという言葉。


…私と異三郎さんが不釣合いだ、なんて、私が一番知っている。
だけど改めて第三者から真っ向から言われると、やっぱり辛い。


だけど、私だってそんなことで彼のそばを離れるほど、軽い気持ちじゃない。





「そんなの分かってます。だけど、私は彼のことを愛しているんです。この世界で一番彼のことを思っている自信があります。もちろん、貴女にだって負けません」

「っなんですって!?」







ばっと勢いよく彼女は腕を上げた。
ああ、あんた手でたたかれたら爪でひっかかれるなあ。
どうやって異三郎さんにいいわけしよう。
そんなことを考えながら、それを受け入れる。








「その辺にしといていただけますか、西園寺さん」

「っ!?い、異三郎様…」







彼女…西園寺さんの手を掴んでいたのは、異三郎さんだった。彼の事だ、私たちの会話を一部始終聞いていたのだろう。







「貴女は自惚れてはいませんか。身分だけで考えたら貴方のような下級貴族でも私とつり合いが取れないのですよ。そして貴女ような薄汚れた心の人間など、私の興味すらひかれません。ただちに立ち去っていただけますか」

「っ」







西園寺さんは目に涙を浮かべると、バルコニーから会場へ走り去ってしまった。






「…いいんですか、あんなこと言って」

「かまいませんよ。逆恨みも考えられますが、彼女ごときに出来ることは何もありません」






本当、関心がないものには冷酷だなあ…と考えていると、異三郎さんは急に表情を緩めた。




「な、なんですか」

「いえ…いいものが聞けたと思いまして」

「いいもの?」

「貴女が私を愛し…」

「いわんでいい!!!」






ああああ、そういえば聞かれてたのか!一気に熱くなる顔を両手で覆うと、手首を掴まれる。
そしてゆっくりと外されると、顔を近づけられた。




「貴女は恥ずかしがり屋ですから、あまりそのような言葉を言わないでしょう。少し不安だったのですよ」

「…異三郎さんが?」

「ええ。私は愛されていたのですね」

「…そうですね」

「私も愛していますよ。ただ、貴女だけを」








手首を掴まれたまま、口づけをされた。
目をつぶる前に見えたのは、私たちを優しく照らす星々だった。










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