「菜々緒…私と結婚してください」

「…はい」






夢かと思った。こんなにも好きな人から結婚してくださいと言われて。結婚って、ずっと一緒にいられる約束みたいなものだ。だから、私は浮かれていた。


この人との結婚は想像よりも遥かに難しいことだった。




「異三郎さん。一つ言っていいですか」

「ええ、どうぞ」

「私、おもっきり歓迎されてないですよね、佐々木家に」

「そうでしょうね」





そう、私たちはたった今佐々木家へ挨拶してきたのだ。もちろん、結婚の許可をいただくためだ。

わたしなんか着なれない高価な着物に身を包み、ガッチガチになりながらも座っていたのに、彼は両親の前でも彼のままだった。



「私、この方と結婚しますので。ああ、反対意見は認めませんよ。私が決めたことに口出しすることは例え肉親であっても許しません」



私はそんな彼の態度に驚きながらもたじたじだった。いくら両親とはいえこの上から目線は直らないものなのか。

異三郎さんの両親は放任主義なのか、または彼に逆らえないのか、「異三郎が決めたのなら好きにしなさい」と渋々と言ったように許可をくださった。

けどヒシヒシと伝わる私への嫌悪感。心から認めてもらえるとは思っていなかったけど、やっぱり、落ち込むなあ。

ご両親はきっと、異三郎さんに由緒正しい家柄のエリートな女性を嫁に迎えたかっただろうなって、思っちゃう。






「何を一人で落ち込んでいるのですか、菜々緒」

「だって…」

「私の両親が認めずとも、何の問題もありませんよ」




俯いていた私の顎に指を添え、くいっとあげられる。そして、異三郎さんはゆっくりと私の耳に唇を寄せる。





「私が認める女性は、この世のどこを探してもあなたしかいません」







言い終わるとそのまま軽く耳にキスを落とされた。離れた異三郎さんに、私は真っ赤な顔で固まるしかなかった。





「なななな、なにするんですか!」

「耳に口付けました」

「言わなくていい!」

「あなが聞いたのですよ」

「こんな道端で恥ずかしいことしないでよ!」

「恥ずかしいことだとは思いませんがねえ」

「それ異三郎さんだけ」

「あ、言い忘れてましたけど、その着物、とても似合ってますよ」

「…ありがとう」




いつの間にか怒りがどっかにいってしまった。

あれ、わたしって、単純な人間?






――――


続編始動。

ただ二人をいちゃつかせたかっただけっていう。





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