ここ最近は結婚式場の方との打ち合わせを行ったり、ドレスを選んだりと、結婚式のための準備で日々忙しかった。
異三郎さんも、見廻組の職務と並行して一緒に準備を手伝ってくれるので、申し訳ない気持ちもあるけど、すごく嬉しかった。
異三郎さんは私をすごく大切にしてくれているって、ひしひしと伝わる。
結婚前って、所謂マリッジブルーというものがあるみたいだけど、不思議と私には不安はなかった。だってこんなにも思われてるのに、不安に思うことなんてないもの。
…なーんてひとり惚気けております私は、今は丁度真選組の仕事を終わらせ、身支度を整え終わったところ。
「菜々緒」
「土方さん、お疲れ様です」
「ああ。今日は帰るの早いな」
「あー、今日はちょっと用事があって…」
「…佐々木か」
「てへ」
そう、佐々木さんです。実は、今日はドレスの試着の日。一人でもいいって言ったのに「最初にあなたのドレス姿を見るのは私でありたい」という異三郎さんの可愛いわがままに、断るはずもない。
「じゃ、もう行きますね」
「送っていくか?最近は物騒だからな」
「ははっ、土方さん、なんだか今日は優しいんですね?」
「俺はいつでも優しいだろうが」
「そういうことにしておいてあげます。でも、大丈夫です!」
異三郎さんにも同じことをいわれたなと思いながらも土方さんにもう一度挨拶してから屯所を出た。今朝、迎えをよこすといった心配症な彼の優しさを断り、歩いて行くことを選んだのはただの気分転換のため。
それに少しは歩かないのと、ほら、女の子ってすぐ太っちゃうし。ドレス入んなかったらショックだし。
たくさんの店が並ぶ道通り。ショーウインドーに並ぶ純白のドレスに、思わず足を止めた。
「わー…綺麗」
よくあるオーソドックスなタイプのウエディングドレスは、夕日にあたってキラキラと輝いてる。とても幻想的で、思わず感嘆のため息が出てしまうほどに。
…私も、こんなドレスを着れるんだ。それはまさしく彼のおかげで。本当…感謝してもしきれない。私はこれからこの莫大の幸せをお返しできるのか不安だな。
きっと異三郎さんは「あなたがそばにいるだけでいいのですよ」なんて恥ずかしげもなく言うんだろうな…。
ひとり想像して、ふふっと笑がこぼれた。
なんだか、はやく異三郎さんに会いたくなってきた。
携帯を開くと異三郎さんからのメールが入っていて、まだ来ないですか、心配ですと書かれていた。うん…ちょっと過保護すぎかな。
だけど、それだって私を幸せにする。
仕方ない、ちょっと走ろうかな。そう思い一歩を踏み出したとき、誰かに腕を掴まれた。
「え!……んんぅっ!」
路地裏に引きずられたかと思うと、口元に布を当てられた。
私はそれがなんなのか理解する前に、意識を手放した。
ガチャン、
携帯が、地面に落ちた。
…い、さぶろう、さん…
「!…菜々緒?」
「どうしたの、異三郎」
「いま、菜々緒の声が聞こえた気がしたのですが」
「気のせい」
「そう…ですか」
(嫌な予感が、しますね)