「…っていうことがあったの!」
「そう」
「冷たいよ、のぶちゃん」
マスタードーナツの喫茶コーナーにて、友達ののぶちゃんと一緒におやつのドーナツを食べに来たわけです。のぶちゃんは、私の佐々木さんへの愚痴をポンデリングを頬張りながらも無表情で聞いてくれている。のぶちゃんは佐々木さんに一番近い存在だから、何かと佐々木さんの対処方法を教えてくれたりする。ポンデリングを奢ったら。
「佐々木さんって、なんか、謎だよね」
「そうね」
「エリートエリートって言うくせに私に凄い構ってくるし…凡人には興味ないんでしょ?」
「異三郎は確かにそういう人…だけど、菜々緒への気持ちに嘘はない」
どこか真剣みを帯びた目でそういうもんだから私は返す言葉もなくなった。そんなこと言われたって…私だってどうしたらいいかわからないよ。佐々木さんがどこまで本気なのかなんて、わからないし…。でも佐々木さんが本当に私のこと…その…す、好き、だっていうなら真剣に向き合ったほうがいいのかなってたまに思うし。でもただの遊びでしたー何本気になってるの?マジウケるーっていう展開もあるかもしれない…ってこれ前も同じようなこと言ったかな。
うーんうーんと唸り始めた私に、手に付いた砂糖を舐めてからのぶちゃんは口をひらいた。
「菜々緒は異三郎をどう思ってるの」
「どうって…」
「おや、それは気になりますね」
「!!!!!!」
「是非お聞かせ願えますか」
すぐ後ろで聞こえた声に、驚きで私は体をびくつかせた。ゆっくりと後ろを振り返ると、そこにはいつもの白い隊服姿の佐々木さんが立っていた。
「なななな、なんで佐々木さんが…!」
「いえ、貴方に会いに行く時の手土産を買おうとここに寄ったのですが…ずるいですよ、信女さん。彼女は私のです」
「いやあなたのじゃないですから!」
「菜々緒は私の大切な友達」
珍しくのぶちゃんが佐々木さんに反抗している。佐々木さん自身も意外に思ったのか眠そうな目を少し開いてのぶちゃんを見る。
「おや、うちの信女をここまで手なずけるとは…やはりあなたは人を引き付ける何かを持っているようだ」
「手なずけるって…のぶちゃんも私にとって大切な友達なんです!ただ仲がいいだけなのにそんな言い方ひどい!」
「菜々緒…」
「妬きますね。私にもそれくらい好意を持ってほしいものです」
「ベロベロベー!誰があなたに持つものか!いまは女子会中です!佐々木さんはしっしっ!」
佐々木さんを追い払うように手を振ると、いつもの無表情の中から機嫌の悪さを感じた。
「酷いですね。私は邪魔者扱いですか」
「そうです邪魔者です」
「私にそこまで言えるのは貴方くらいですよ、菜々緒さん」
また後日伺います。と一言告げると、佐々木さんは私たちに背を向け、マスドから出ていった。いったいなんだったのだろうと出口のほうを見ているとのぶちゃんに名前を呼ばれた。
「さっきの話の続きだけど」
「さっき…?なんだっけ」
「異三郎をどう思ってるか」
「ああー…あー…えーっと」
どうって…あの人はストーカーだし、メールとか電話の回数はんぱないし…迷惑な人、なんだけど。
「なんか、佐々木さんの好意は…迷惑と思えないんだよね…」
「それが聞けて良かった」
なぜかのぶちゃんはありがとうと言って、少し表情を和らげた。私の頭の上にははてなマークでいっぱいだ。そんな私なんてお構いなしに信ちゃんは10個目のポンデリングに手をつけた。
03 邪魔ものあつかいですか