「こんな道端で出会うなんて偶然ですね菜々緒さん。いえね、私はこの近くで幕府に仇をなす攘夷志士の捕縛をしていた帰りでして。決して、貴方の行動を先読みして来たわけではありませんよ」
「先読みしてたら怖いわ!」
夕飯の買い出しの帰り道、屯所に帰った後の仕事内容を思い出しながらも商店街を歩いていると目の前から歩いてきたエリート様につかまってしまいました。長々と経緯と弁解を語られ、出会って1分しかたってないのになんだこのぐったり感。
「いや、しかしここで菜々緒さんと会えたのはきっと運命というものですね」
「いや、運命じゃないですね」
「その通り。これは必然というものです」
「話通じないなこの人!」
相変わらずの無表情でそうの給う佐々木さんに頭痛を覚える。変に前向きというか…エリート故の自身なのか。どっちにしろ面倒臭いわ!
「このようなところで立ち話もなんですし、どうぞ、我が屯所でお茶でもどうですか。迎えを呼びますので」
「結構です。私まだ職務中なので」
「おや。まだ女中を続けていたのですか。だから言ったでしょう。私のところに嫁いできなさいと」
「本当勘弁してくださいさようなら」
「その荷物を持って帰るのは大変でしょう。いいでしょう、私が荷物を持ちます」
「いいですよ。エリート様に荷物持ちなんてさせられませんから。なので早急にお帰りください」
「いえ、エリートは女性を見捨てたりしません。惚れている女性ならなおさら。いいから貸しなさい」
「だからいいです!…って、佐々木さん!」
荷物に伸ばされた佐々木さんの腕を空いている手で掴んだ。佐々木さんの手首には10cmほどの刀傷があった。まだ処置をされていないのか血が滲み出ている。
血をみてわたわたしている私とは逆に、佐々木さんは他人事のようにその傷を見ていた。
「ああ、私としたことが。たかが凡人に手傷を負わされるとは。確かにあの時はあなたの今日の日程を思い返していたので隙だらけだったと思いますけど」
「戦ってる最中くらい集中してくださいよ!…ってなんで私の予定を知ってるの!会ったのはやっぱ意図的じゃないですか!もう…」
私は手提袋から包帯を取り出し、荷物をいったん下に置いてから佐々木さんの腕にそれを巻いていく。
「…随分と用意周到なのですね」
「よく怪我する人たちが周りにいるせいですよ」
「なるほど」
「…まったく、自分のこともう少し大切にしたほうがいいですよ」
「…私、菜々緒さんのそういうところが好きですよ」
「そんなこと聞いとらんわ!」
はい終わり!と最後にぺしりと傷口をたたいてやると少し顔を歪めた後、包帯の上から摩る。
「そっけない優しさ、というやつですね」
「違います。ほらさっさと帰った帰った」
「いいえ、しっかり貴方をお送りします」
「だから結構だって…あー佐々木さん!」
佐々木さんはひょいっと買い物袋を怪我のしていない手で持つと、さっさと歩いて行ってしまった。迎えを呼ぶとかなんとか言ってたくせに、歩いて送ってくれるなんて。エリートの考えることは結局わからない。もう諦めようとため息を一つ吐き、佐々木さんの背中を追いかけた。
(車なんて呼んだら貴方といる時間が短くなるでしょう)
(なんかいいました?)
(いいえ、なにも)
02 そっけない優しさ