「ただ今戻りました」
「お帰りなさい」
戻ってきた彼は、予想通り傷だらけだった。
だけど彼は約束通り、帰ってきてくれた。私のもとに。
らしくもなく私から抱きつくと、優しく抱き返してくれた。
「メールのこと…覚えていらっしゃいますか?」
「…普通、あんな大事なことメールで言いますか」
「いえね、唐突に思いついたものですから」
彼がそっと肩に手を置いたので背中に回していた手を解いて少し距離を開ける。
見上げればいつも通りの無表情。だけどその眼は、限りなく優しい。
「では、改めて言わせていただきます」
「菜々緒…私と結婚してください」
「…気に食わない」
「空気呼んでいただけますか。ここは頬をそめ、満面の笑みではい、というところでしょう。何が気に食わないのですか、一応理由を聞かせていただけますか」
「なんで命令口調なの。上から目線が気に食わないです」
「…それもそうですねえ。すいません、エリートで」
「エリート関係ない。なによ、エリート様は凡人を見下してるわけ?」
「何を言っているのですか。貴女はもうエリートの仲間入りですよ、私と結婚するわけですから」
「返事してないけど」
「おや?私は何か間違ったことを言いましたか」
「……いって、ない」
「よろしい」
本当にどこまでも上から目線の異三郎さん。だけどなんでかもう怒りも感じない。感じるのはただ心から溢れる幸せだけだった。
もう一度「結婚してください」といった異三郎さんに「はい」と笑って言った。