エリートと凡人


13とげとげ言葉の裏腹に









「すいません、佐々木さん!ま、待ちました?」

「気にしなくてもよいですよ。エリートが女性を待たせるわけにはいきませんので」




なんだか待ち合わせした恋人のような会話に一人赤面。まあまさにその通りのシチュエーションなんだけども。

それに、今日の佐々木さんはいつもの白い隊服ではなく佐々木さんによく似合う落ち着いた色の着流し。恥ずかしながら彼の私服を見たのは初めてで若干…いや、かなりときめいている。本人には絶対言ってやらないけど!

なんで私たちが待ち合わせをしたかというと、先日の私の一言が理由だ。






「明後日非番だし、お買いものに行こうかな」

「私も行きます」

「…は?」

「私もご同行させていただきます」

「……はあ」





何故かすごく食いついてきた佐々木さんを不審に思うも、特に断る理由もなかったのでこうして一緒に行くことになった。

まあ乗り気ではない言い方はしましたけど、内心少し嬉しかったりする。らしくもなく朝早起きをして化粧や髪型をセットしたり、ほんと私らしくない。






「それではどちらに向かいますか」

「んー…新しい着物を買いたいなーって思ってたんだよね」

「そうですか。それでは仕立て屋に行きましょうか」

「すぐ近くに私がいつも行く着物屋さんあるんで、そこでいいですか」

「ええ、構いませんよ。今日は貴女の行きたいところにお供するだけですので」




そういって、佐々木さんはそっと私の手を握る。私の手よりも一回りも大きなそれに包まれ思わず驚いて佐々木さんの顔を凝視してしまった。




「これくらい良いでしょう」

「で、でも…」

「本当にあなたは恥ずかしがり屋ですね。そこがまた可愛いのですが」

「は、恥ずかしくない!」





負けず嫌いの私は意地を張って手を握るどころか佐々木さんの腕に抱きついた。ど、どうだ!ちらりと視線を上げてみると少し顔を赤くしているエリート様がいた。





「あ、赤いですよ」

「いえ、恐らく貴女ほどではないでしょう」

「うっ……」

「…しかしこれもありですね。このまま行きましょう」

「すいません。やっぱり手でお願いします」





結局は手を繋いで着物屋まで行き、一緒にどれがいいか選んでもらった。結局は佐々木さんが強く進めてきたスミレ柄の着物に決めたんだけども。私もすごく気に入ったしいい買い物ができた私たちは近くのファミレスで休憩することになった。

店員の人に佐々木さんはアメリカンコーヒーを、私はチョコバナナパフェを頼んで一息ついた時、ふと思ったことがある。なんだかファミレスと佐々木さんってミスマッチだ。佐々木さんも自分で言うようにエリートがダダ漏れで周りの庶民的な背景とは合わないのだ。





「佐々木さん、ファミレスなんて居辛くないですか?」

「いいえ。私あなたが思うほど高級店ばかり行っているわけではありませんよ。先日の昼休憩の際は立ち食いそば店に行きました」

「めちゃくちゃ庶民!というかそれサラリーマンの昼休みだよ佐々木さん!」





中年サラリーマンと並んでそばを食べている佐々木さんを想像したらなんだかものすごく笑えた。お腹を抱えて笑い出す私を無表情に見ている佐々木さん。若干不機嫌だ。




「…それより、貴女はいつまで私を佐々木さんと呼ぶのですか。この前も言いましたが名前で呼んでいただけませんか」

「なんか、佐々木さんっていうのが定着しちゃって」

「定着させないでください。恋人だというのになぜそんなに他人行儀なのですか。いずれは結婚するので今のうちに慣れておかなければ後々大変ですよ」

「け、結婚!?」




いきなり何とんでもない爆弾投下してくれてんだこの人!?そう思って驚いた表情で佐々木さんを見ていると逆に驚いた表情をされた。





「私は結婚を前提に貴女とお付き合いしていたのですが…」

「いや、えー…そうだったんですか」

「なんです、貴女はそのつもりではなかったんですか。私を弄んでいたのですか」

「ち、違います!その…なんて言いますか…佐々木さんと結婚したら幸せだろうなーとはずっと思っていました」

「つまり?」

「…異三郎さんと結婚したいと、思っています」

「よろしい」





何だこれ、誘導尋問か。私、恥ずかしさで今死ねる。顔から火が出そうになるほど熱い。

凄く悔しいんだけど、佐々木さんの優しい表情を見たら、そんなことどうでもよくなった。







(…あの、コーヒーとチョコバナナパフェお持ちしました)
(!!あ、あははは!はい!ありがとうございます!)
(えっと…結婚おめでとうございます)
(いやいやいや全然そういうのじゃないんで!)
(お祝いの言葉、ありがとうございます)
(ちょっ異三郎さんんん!?)






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