エリートと凡人


12そんなあなたでも好きです









身に纏うは華美で妖艶な着物。化粧も施され、鏡に映るのは全くの別人となった私。

女とは単純な生き物で、美しくなった自分を見て嬉しくなる。しかしこんな恰好をしなければならない理由を思い出し、一気に落胆した。





「初めまして―菜々緒ですぅ」




煌びやかな店内、世間でいうキャバクラというところです。簡単に説明すれば女が男を酒で接客する場所。
何故真選組で女中をしている私がここで働いているというと、あのゴリラに全責任がある。

なんでも店の子が風邪をひいてしまい人手が足りなくて困っていたのを見かねて私を強制的にここへ送り込んだのだ。お妙ちゃんにかっこいいところを見せたかったんだろうけど、結局私だけが被害を受けている。もうあんなゴリラにはついていけない。すぐやめてやろうか。

と、愚痴をこぼすけどもうここまで来てしまったからには仕方ない。本当にお妙ちゃんも困っていたし。

しかし、一つだけ心配事がある。突然ここで一日だけ働くことになったから佐々木さんへのメールを送っていないことだ。

彼の事だ、夜までメールの返信がないと心配して私を探し回るのではないかと思う。付き合ってからは毎日メールを返してたから余計だろう。

出来るだけ早く上げてもらって佐々木さんにメールすることを決め、仕事に集中することにした。




「お姉さん見ない顔だな。新人かぁ〜?」

「ええ、今日だけ特別で働いてますぅ」

「こんな別嬪さんなんだからNo.1も夢じゃないだろうに、もったいないじゃないか!」

「ほほほ、お世辞でもうれしいですわ」






ん?こんな感じでいいのかな。接客なんてしたことないしよくわからないけど、一緒の席に座ってくれているお妙ちゃんの顔が引きつっていたのであまり上手ではないのだろう。ごめんなさい。目線で謝罪しても引きつった笑顔は変わらない。それどこか、入口の方を向いた瞬間思いっきり殺気立った視線に変わった。ひ、ひいいいい!




「ごめんなさい、私ちょっと席を外します」

「え!ちょっとお妙ちゃん!」

「ゴリラが迷い込んできたみたいだから動物園に返してくるわ」




ぼそりと恐ろしい言葉を吐き、お妙ちゃんは去って行った。たぶんいつものごとく来店した近藤さんの姿を見つけたのだろう。ど、どうしよう。何もわからない私が一人で接客なんてできるわけない。おっさんの話をただ笑顔で聞いてればいいと最初にアドバイスをもらってたけど、本当にそんなのでいいのかな。





「菜々緒ちゃんいくつ〜?随分きれいな肌だねぇ」

「ちょっ」




酔いが回ってきた客が短い丈の着物から出ている私の太ももに手を置く。え、キャバクラってこういうもの?おさわり有りなの?こんなので叫んだら怒られる?

知らない人に触られる恐怖から体が震える。ああ、だから嫌だったんだ。こんなの、私に向いてない。


はやく終れと目をきつく瞑ったその時、一人のボーイが遠慮がちにやってきた。




「菜々緒ちゃん…指名がはいったよ」

「…え?」

「おい、いまこの子を指名してるのは俺だぞ!!」

「し、しかし」

「すいません、横取りという形になってしまいまして。しかしその方は私のものでして。気安く触らないでいただけますか」




一発の銃声が男のすれすれのところに打ち放たれた。それに悲鳴を上げた私とお客。お客は私の太ももにおいていた手を瞬時に離し、悲鳴を上げながら転がるように店を出ていってしまった。な、なんでこんなところに…




「さ、ささきさん…」

「まったく…」





先ほどまで男が座っていたところにストンと淑やかに座る佐々木さん。その横顔からは静かな憤りを感じる。そんな表情を見て私は先ほどとは違う恐怖に襲われ、さらに体が縮こまる。





「なぜこのようなところで働いているのか説明していただけますよね、菜々緒さん」

「それは…」

「私に嫉妬させるためですか?とんだ小悪魔ですね。まあそんな貴女も好きですけど?その作戦は大成功です。なぜなら私は今嫉妬心でどうにかなってしまいそうだ」

「ご、ごめんなさい」

「…嘘ですよ。こうなった事情は先ほど入口の方で顔を腫らした近藤さんからお聞きしております。全ては彼に責任があると。すいません。少し意地の悪いことを言ってしまいました」






安心して涙が出てくる。そんな私の頭に手を回し、自身の胸へ優しく引き寄せる。ふわりと気品のある香りに包まれる。嫌に感じない自然な香水の香り。私の好きな匂いだ。私の、好きな人の匂いだ。

私は佐々木さんの背中に腕をまわした。積極的な私の行動に驚いたのかぴくりと体が震えた。そのあとに頭上からふっと零れた笑み。





「…さあ帰りますよ。いいですね、ボーイさん」

「はい、予想以上に店も忙しくありませんし。佐々木様の上司の方には度々お世話になっておりますので」

「いえ、よろしいのですよ。こちらもうちの菜々緒がお世話になりましたので」





それでは、と佐々木さんはあろうことか私を横抱きにした。何考えてんのこの人おおおお!





「ちょっと佐々木さん!」

「私の屯所に向かいます。これから菜々緒さんには入浴し、あの忌々しき男に触られた部分を消毒していただきます。ああ、大丈夫です。着替えは信女の物をお貸ししますのでご安心を」

「え、ええ?」

「言ったでしょう。今私の嫉妬心はとんでもないことになっていると」






「夜が楽しみですねぇ」って
私、生きて帰れるのでしょうか?






(この言葉の意味分かってます?)
(ご、拷問とか…)
(はあ…これだからキス以上はできないのですよ)
(キス以上!?)
(顔が真っ赤ですよ。まったく…どこまでも純粋で可愛い人だ)







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